第6話
雲ひとつない夕焼けの空。
ミューデは上機嫌だった。
レーゲンヴルムに
次は貿易ついでにエルフでもかっ攫ってまた褒められたい。ミューデは強い昇格欲に取り憑かれていた。
シュヴァインは売り物のチェック作業。
販売ついでにエルフを捕まえると言う作戦なのだが、表向きはは商人。商人らしくしなきゃ悪事がバレてしまう。
エルフを捕まえ、自分の性奴隷にする妄想をしていた。
そしてシュバイスは…
不気味に笑っていた。
シュバイスには主のレーゲンヴルムなどどうでも良かった。
シュバイスは今までずっと本来の魔力を隠してきた。
本当は、シュバイスはレーゲンヴルムよりも強い。
ある目的とは何なのか、それは誰も解らない。
ーーーシュバイスの正体とはーーー
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強き者が2名近づいてくるのを感じたシュバイス。
1人は魔王アドラー。そしてもう1人は、この前の少年のようだ。
亮太が短期間で相当な強さになった事に驚きとニヤニヤが隠せない。
「あいつ、前より相当強くなったな…あの少年も欲しくなってきたぞ…」
早くも悟ったシュバイスは、興奮が止まらない。
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俺は復讐に燃えていた。
早く陽菜を救いたい。
その思いが、亮太を少しづつ強くする。
その力の源は「愛」であったが、亮太は全く気づいていなかった。
俺は歩いて、進んでくる馬車に近づいていく。
こいつらの前に並んでいた馬車は、既に国内に入ってもらっている。
幸いな事に、こいつらの背後に馬車は1台もない。
他の人に迷惑はかからないから、思いっきり戦える。
アドラーは、検問所の林の陰からからこの戦いを見ている。
あくまでもこの戦いは俺1人である。
俺の成長を見守っているとか言っていたけど、本当に過保護な男である。
「帰ってきたら、‘“カレーライス”と、“寿司”ってやつの作り方を教えろよ!」
そう、アドラー(軽い気持ちで送り出された。
こんな雑魚パーティーくらい、楽に潰せるくらいに強くなったのにな…と、思うが顔には出さないでおいた。
「ほぅ…」
俺に最初に気づいたのはシュバイスだった。
窓から覗いてきたシュバイスと目が合って直ぐに、ミューデとシュヴァインが出てきた。しかし、シュバイスは全く出てこない。
ミューデが口を開く。
「あん時の
久しいな。さて、シュヴァイン、殺るぞ」
「了解っす!」
「俺らさ、レーゲンヴルム様に強くしてもらったんだよ!俺ら全員お前と同じBランクになったんんだぞ!それに、シュヴァインはB+ランクだ!
お前は俺らの脅威じゃねぇんだ、雑魚め!」
「そうか、そうか。楽しく戦えそうだな」
実際、俺はラシェンドやアドラーに鍛えられてAランク以上の力を身につけているが、こいつらに教える気は毛頭ない。
剣を抜き、構える。
左手は逆手で剣を構えた。
一方のミューデは、俺に突き攻撃をして来るような構えだ。
シュヴァインの口がモゴモゴと動く。魔法を詠唱しているようだ。
ミューデが突撃してきた、その瞬間。
「液状化!」
早速シュヴァインは、俺の足元を液状化させる。
ズボッという音がして、俺の足は地面に埋もれる。
しかし。
俺は簡単に【縮地法】を使って液状化した地面から抜け出す。
「残念でした!俺に液状化は効かない!」
縮地法があれば、液状化魔法を使われても余裕で突破できるのだ。
そのまま俺はミューデに突進する。
後ろに砂埃を舞い上げながら走る姿は、さながら獲物を追いかけるチーターのようであった。
俺は0.2秒でミューデとの間の距離を詰める。
液状化から抜け出た俺に全く気付く筈がないミューデの背後に回り、頭に向かって…
ドン。
峰打ちが炸裂する。
そのまま地面に倒れ込むミューデ。
間違いなく意識を失っている。
俺はしゃがみながらミューデの頭に触れ、呟く。
「お前がいくら強くなったって、やっぱお前の方が雑魚じゃん…〝
ミューデは完全にに倒れた。次に起き上がったら楽しい
「よくもお頭を!喰らえ!
ミューデの杖から大きな炎の玉が現れると、火炎球は俺に向かって突撃を開始した。
軌道は真っ直ぐに俺に向かう軌道だ。だが、俺に炎こ攻撃は全く効かないのである。負けるはずがない。
「死ねぇ!!」
「甘いな。温度がぬるいぞ」
俺は火炎球の中に突っ込んでいく。
「おっ?自殺する気っすか?」
「自殺?いやいや、俺に炎は効かないぞ?」
俺は火炎球を浴びた。
直ぐに黒煙が辺りを覆う。俺はそんな黒煙の中を颯爽と駆け抜ける。
「クソっ!ば、化け物っすか?
そんなのはどうでもいいっす!喰らえ!
〝
駆け抜ける俺に対して、氷散弾を放つシュヴァイン。
俺の四肢を破壊しようと襲いかかってくる氷散弾。
俺は走りながら空中で2回ほど前転すると、そのままシュヴァインの背後に着地する。
俺のいた空間を郡散弾が切り裂いた。
俺はシュヴァインをも気絶させようと突撃する。
しかしその時には、シュヴァインは次の技を詠唱し終わっていた。
(そろそろ、本気を出してもいいかもな。)
そう判断した俺は、突撃の足を止める。
俺は慣性を制御しながらピタッと静止した。
「必殺技で今度こそは死んでもらうっす!
〝
1発の大きな魔力弾が襲いかかる。
その色は鮮やかな紫色であった。
チン。
俺は左手の剣を鞘に仕舞うと、両手でもう一方の剣を水平に構える。
「〝
紫毒魔力弾が剣にぶつかるが…
ぶつかった衝撃を受け流しながら、倍以上の力でシュヴァインに押し返す。
「うぉらああああああああぁぁぁ!!!」
「ひぃぃ!」
シュヴァインは直ぐに結界を貼った。
しかし、”怒龍の反撃”で跳ね返された攻撃は、前の攻撃よりも数倍も強くなって跳ね返されており、球の直径は1.8倍になっている。
シュヴァインは、強くなって跳ね返されるなんて全く知らなかった。
そのままの力で返されたら、結界で防ぎきれただろう。
しかし。数倍に膨れ上がった反撃に耐えるには、結界が弱すぎた。
シュヴァインに向かって魔力弾が炸裂する。
結界が割れる音。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
シュヴァインは自分が出した毒に皮膚を溶かされて死んでいた。
皮膚は全て溶け、内蔵もぐちゃぐちゃになっている。
酸の強い異臭が辺りを漂った。
俺は、怒りでシュヴァインを殺してしまった。
1人分の大切な情報が無くなってしまったのだと、少し反省する。
少し歩いて、ミューデを検問所の方へ放り投げると、後ろに強い魔力を感じて振り返る。
気づいた時には、馬車からシュバイスが出てきていた。
「なるほど。ラシェンドの縮地法と、
お前、ラシェンドに弟子入りしたのか?」
シュバイスは剣を抜く。
俺ももう片方の剣を鞘から抜いて構えた。
「あぁ。そうだ。ところで、何故お前は
「何故教えてやんねぇといけねぇんだよ!」
シュバイスを黒霧が包んでいく。
シュバイスの魔力が急にえげつない程増加し、先程までの320から2100000まで増加していた。
ラシェンドやアドラーに並ぶ魔力がシュバイスから出ている。
奴の魔力量は俺よりある。
危険だと悟った。本能が逃げろと言っている。
しかし、何故か俺には勝つ自信があった。
この時、亮太は自分の力量に自惚れていた。
自信に満ちた天狗のようであった。
「ほぅ。お前は魔力を抑えていたのか。ラシェンド並の魔力を感じるよ。殺気がバンバン伝わってくるぜ」
「冥土の土産に聞くがいい。俺の名は
ラシェンドと同じく7の戦士の一柱だ。
楽しそうだからと、アドラーの宝物をかっ攫う為に今からお前らを殺すことにした…」
「7の戦士……?ラシェンドの仲間じゃないのか!?」
「いいや。ラシェンドは俺の…」
シュバイスが言葉を濁す。
それ以上教える気は無いようだ。残念である。
シュバイスはすぐにアドラーに気づき、声をかける。
「魔王アドラー、陰に隠れているんだろ?出てこいよ?後で宝物を貰うから宜しくね!」
(こいつ、アドラーに気づいてやがる!)
「残念かもしれないが、アドラーは戦わないぞ。
あいつは俺に全てを賭けるつもりのようだしな」
「そうかい。じゃ、楽しもうぜ!」
シュッ。
シュバイスの剣が鞭のように伸び、シュヴァインの死体を掠め取った。
「!?」
「
この技は、死人を意のままに操る技だとラシェンドから聞いていた。
ラシェンドの古い友人が使った技だと言う。
(古い友人とは、こいつの事だったのか…)
2対1であった。
シュバイスが鞭の様に剣で俺を目掛け空間を薙ぎ払っていく。
一方、屍人のシュヴァインは溶けた肉体で俺に掴みかかる。
まるでバイ〇ハザードのゾンビである。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
ゆっくりと突撃してくるシュヴァインは動きがバレバレすぎる。こんなの弱すぎだ。
回り込んで首を吹き飛ばしたが、それでも突っ込んでくる。気味が悪い。
生首が俺の方向へ飛んできた。
顎門を開けて俺に噛み付こうとする。
「くっ?」
「全細胞を破壊しない限り
楽しそうな声でシュバイスが揶揄う。
俺は意識を高めて両手に別々の力を注いだ。
「極風!!」
「極氷!!」
極雷も極風も、極炎と同じクラスの攻撃スキルである。研ぎ澄まされた意識を、シュヴァインとシュバイスに向ける。
閃光。
シュヴァインとシュバイスは、それぞれ竜巻と吹雪の中に閉じ込められた。
今なら…
俺は両方の剣先に風の力を込める。
今までよりも強い風の力が剣先に集まってくるのを感じる。
風の力を最大限斬撃にして、相手を切り裂く技。
「「「〝
俺が剣を振ると数多もの真空刃がシュヴァインとシュバイスを切り裂いていく。
2人の細胞一つ一つを破壊する為に。
ゴォォォォォォ…
風が収まった時、そこにシュヴァインは居なかった。
殆どの細胞は破壊され、少しの血の池が出来ていた。これで完全に奴らは死んだはずである。
しかし…
俺の背後から
「フッ…俺は殺せなかったな…ザマァ!」
「お前…生きていたのか…」
「当たり前だろ?魔剣レーヴァティンを持つ俺に、こんな風攻撃は効かねぇ。
しかし…こんな力を持つガキが存在するとは…
驚いたよ。
全く…面白いじゃねぇか!
たっぷり遊んでやるよ!」
シュバイスがレーヴァティンを元の形に戻す。
「全力で足掻け。俺も敬意を払って本気で遊んでやっから!」
レーヴァティンで斬りかかるシュバイス。
シュバイスは瞬時に分身体を作り出し、本体は背後に隠れた。
ーーー陽動かーーー
魔力感知で見えている。
片手で目の前の分身体を切り裂き、もう一方で瞬時に後ろの
シュパッ…
鮮血が滝のように流れ出る。
しかし、シュバイスは死んでいない。
「なかなかいい斬撃じゃねぇか。久々だな。」
ドス黒いのオーラを纏ったシュバイスが言う。
「悪ぃ悪ぃ。俺ね、
俺は周りの奴の能力や魔力を奪えるんだよ。
俺は
俺の力を舐めるなよ?
教えてやるけど、俺の能力は《
お前のスキルとは格が違うぞ!」
《
【
(しかし…かなりヤバい敵じゃないか…
魔剣レーヴァティンは自由自在に伸ばしたり曲げたり出来る武器に違いないな。
それと【
魔剣レーヴァティンが伸びてくる。
縮地法で回避しようとしたのだが、鞭となった
あっさりと俺はレーヴァティンにで捕縛された。
心臓が早鐘を打つ。
「〝
どんどん俺の魔力が吸われていく。
【
(どうやら、俺もここまでか?)
すまない。陽菜。
全て俺の失態だ。
今の俺を許さないでくれ。
救ったら、面と向かって謝罪したかった!
お前の笑顔を…本気で守りたかった!!!
「「「俺は……ここで死ぬ訳には行かねぇ!!」」」
瞬時に自分を核として爆破魔法を繰り出す。
爆発した瞬間に、絡みついた剣が解けていた。
まだ戦える。
さて…
奴をどうやって倒すか。
斬り殺す事は不可能。奴は魂がある限り死なないだろう。
魂ごと破壊しなければ殺せない。
しかし、魂は普通の剣では斬れない。
剣に精神切断の闘気を付ける事が出来れば、魂も斬れるのだが…
魔術はイメージの具現化である。
俺がイメージさえすれば、精神切断も出来るかもしれない。
剣を持つ手に精神攻撃の力をイメージする。
既に山の端に太陽は沈みかけていた。
剣に魔力を纏わせ、精神破壊系の力を剣先にイメージする。
威力強化、精神破壊。
2つの力が俺の体から双方の剣先へ流れ込んでいく。
右は霞の構え、左は正眼の構えで構える。
シュバイスと目を合わせ、奴の出方を探る。
シュバイスが瞬きした、その瞬間。
俺は一気に距離を詰めた。
「「「
朧翔斬は、ラシェンドとの修行中に俺が作った技である。
朧の如く自らを霞めさせ、死角から鳶の如き鋭い斬撃を放つ技。
気配を消しながら、瞬時にあらゆる方向から双撃を当て、相手を翻弄する。
この技は通常状態のラシェンドでも完全に見切る事は出来ない技である。
この技と精神破壊さえあれば、シュバイスを殺せるはず。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
竜人族のラシェンドは“竜の怒り”と言うスキルを持っている。
“竜の怒り”は、竜人の中でも上位の者でしか使えない技で、怒りをエネルギーとして身体を強化する。強化された身体は、通常状態よりも比べ物にならない程強くなる。
“竜ノ怒り”は、強い怒りを抑えられなければ真価を発揮しない。力を制御出来ないと、力に飲み込まれて自我が無くなる程に暴走し、破壊の権化と化してしまう。
その為、力を全て出し切る者はラシェンド以外には居なく、大抵は30%程しか力を出せない。
一方でラシェンドはと言うと、長い修行の中で全ての怒りを制御する事に成功している。
ラシェンドが“竜ノ怒リ”を発動させると、
因みに、通常状態のラシェンドには朧翔斬は効いた。しかし、怒りを解放したラシェンドに朧翔斬で斬りつけた事があったが、斬撃は全て防がれている。
さて、
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
精神攻撃の魔力を更に剣に込める。
【気配遮断】で気配を消し、縮地法で背後へ回り、シュバイスを斬りつける。
斬った瞬間に縮地法で前方へ移動し、斬る。
次は左。その次は真上。様々な角度から瞬時に斬り刻む。
精神破壊を促す180発程の斬撃が、たった1秒で刻まれる。
1秒経ったあとは元の場所に縮地法で戻り、剣を肩に吊ってある鞘に仕舞う。
(今の技、カッコよく決まった!)
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
シュバイスは発狂し、鮮血を辺りに撒き散らしている。
シュバイスのいた所四肢を切断された、人とは呼べないグロテスクな物が転がっていた。
まるでダルマのようだ。
さっきの朧翔斬で精神を壊すついでにシュバイスの四肢と胴体をバラバラにしたのだ。
しかし、あと数秒でシュバイスは能力で四肢を復活させるだろう。
その前に止めを刺せば、殺せる。
この勝負、俺の勝ちだ。
「そのまま大人しく待ってろ。今殺してやるから!」
最大の精神破壊の力を込める。
残りの魔力を全てこれにつぎ込めば、シュバイスを殺せるだろう。
地面を蹴りあげ、空中で剣をクロスさせる。
「「「俺の怒りを思い知れ!
キン。
(は、弾かれただと!?)
そこに立っていたのは、完全回復していたシュバイスだった。
髪は茶色から黄緑に変化し、目は紅く輝いている。
魔力量もかなり上がっているようだ。
まるでラスボスが変身してパワーアップしたような感じだ。
心臓が早鐘を打つ。本能が逃げろと再度忠告する。
正直、どう考えても俺に勝ち目は無いだろう。
「な、なんでお前はそんなに早く復活出来るんだ?」
「少し魔力を消費すれば回復速度は上がるし、精神回復も出来るんだ。
あと、今の技は全力の技っぽかったけど、魔力を全て吸収させて貰ったよ。最初から俺の剣がお前に当たる度に少しづつ魔力を奪ってたぞ?
お前はもう魔力切れてんじゃないのか?
それにしても久しぶりだな、この姿は。お前のビビってる顔を見ると気持ちいい気分になるよ」
「クソっ…」
さっきから魔力が減っていたのは、シュバイスのせいであったようだ。
全身の毛が死への恐怖でゾワっと逆立った。
「じゃ、これでお別れ!バイバイ!
シュバイスは飛び上がる。
一瞬でシュバイスの魔剣レーヴァティンが、俺目掛けて振り落とされる。
魔力が底をついている為、軌道が読めない。
しかし、何となく上から斬撃が来る気がしていた。
急いで剣を水平にクロスさせる。
「
ガッ。ガガガガガガガガッ。
激しい衝撃。
剣と剣がぶつかる瞬間。俺のいたところには衝撃によりクレーターが瞬時に出来上がる。
周囲の地面に亀裂が走り、半径7キロ以内に震度6弱程度の地震が起こった。
都市部を守る城壁の下を地割れが走ると、滝のように城壁が崩壊していく。地割れは次々に家々を飲み込んでいくのだが、住民の悲鳴等は一切聞こえない。
俺はクレーターの中央で倒れていた。
向こうからシュバイスが歩み寄ってくる。
「よく耐えたな。褒めてやるよ。最後に褒められて死ぬって、最高な死に方だよな。おめでとう」
剣が振り下ろされる。
(もう俺は、ここまでのようだ…)
目を瞑る。
キン。
「!?」
目を開けると、目の前で俺を守ってくれた頼もしい背中が目に飛び込んでくる。
魔王アドラーである。
今にも山に沈みそうな太陽の光を受けて、アドラーの影は力強く輝く。
「待たせたな、亮太。意識を失ったミューデとアイナノア王国全国民を全員タウゼント王国の中ににワープさせてきたから遅れてしまった。
ここからは俺に任せて、これで魔力を回復してなさい」
マナポーションが投げ込まれる。
飲み干すと、魔力が10パーセント程回復するのを感じた。
さっきの地割れで悲鳴が上がらなかったのはアドラーがワープさせてきたからに違いない。
「漸く来たのか、魔王アドラー。俺ごときの為にまさか国民を転移させて避難させるとは。そこまで俺を強者だと認識してくれたのか…」
「勿論だ、シュバイス。今から貴様の相手はこの俺だ。今ここで、お前を殺してやる!」
「殺れるものなら殺ってみろ。」
アドラーは俺の方に振り返る。
「亮太。タウゼント王国に戻れ」
「な、何で?俺も一緒に戦えば勝てる可能性があるのに…」
「お前には、生きていて欲しいんだ。
お前は、異世界人として俺のところへ来た。その時から亮太…1ヶ月間だけだったが、お前は俺の息子同然だった。だから…俺が死んだとしても、お前には生きていて欲しい。
あと…
俺が負けそうになってもラシェンド師匠を呼ぶな」
「ありがとう、アドラー…
タウゼントに戻るよ。
あとさ…ラシェンドって“7の剣士”の1柱だろ?シュバイスと手を取るかもしれないから呼ぶなってことなの?」
「それは無い。安心してくれ。7の剣士についてはラシェンド師匠から聞いてくれ。ラシェンド師匠はだから頼む。早く行ってくれ」
「解ったよ。次に会ったらチャーハンを作ってやる!だから死ぬなよ!」
「異世界料理、しっかりと食べさせてくれよ!じゃ、ラシェンド師匠に宜しくな!」
俺の頬を、一筋の涙が流れる。
俺はラシェンドの家を思い浮かべる。
転移魔法を使うには、向かう先を思い浮かべる必要があるのだ。
足下に魔法陣が出来て、俺は光に包まれた……
亮太が居なくなったのを確認して、アドラーはシュバイスに向き直る。
睨み合う2人の男。
互いの想いが交錯する。
この2人の戦いが後に神話級の伝説となるとは、未だ誰も知らなかった……
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