第3話
俺を助けた初老の男。こいつはかなりの強さを秘めているという解析結果が【情報具現化】により伝えられる。
こいつは間違いなくヤバい。強者だ。
ランクはSランクであると【情報具現化】により表示されている。この男は、少なくとも俺よりも上の存在であるようである。
種族は人間ではない。
曲がったクリーム色の双角が生えた白髪が目立つ頭、背中から伸びた蒼い大きな翼。
この男は「竜人族」である。
竜人族は、竜が魔力を内側に溜め込んだ事で進化した種である。内側に圧縮された魔力で作られた炎は、極竜炎と呼ばれ、普通の竜の炎の数倍の威力を誇るという。
竜人族は平均年齢は5000歳というかなりの長寿な種族であった。しかし、目の前の男は5000歳よりも歳上に見える。
歴戦の猛者という風格はしない。見た目はロマンスグレーである。
が、恐ろしい程の力を持っているのは間違いないだろう。
腰に提げているのは、長さが1m程度の長さの太刀であった。クレイモア(スコットランド風の剣)を連想させるその剣は、禍々しい魔力を抑えられているように感じた。
この剣にも凄まじい力があることは確実だろう。
【情報具現化】を使ってこの剣を見てみると、この剣の名前が表示された。
この剣の名前は魔剣グラムというらしい。
魔剣グラムの名を、元の世界の何処かで聞いたような気がしたが、それは多分気のせいじゃないだろうか。
男が口を開いた。
「儂は7の戦士が
さて…お主は何故街道の柵で気を失っていたのじゃ…?
教えてくれぬか?」
やっぱ気になりますよね…そんな事を思いながらこれまでの経緯を説明する。
自分たちがパーチェのお陰で転生してきたこと、一緒にいた陽菜が、勇者レーゲンヴルムによって連れ去られたこと、勇者レーゲンヴルムたちに復讐したいことなどを言っておいた。
「ほほう…転生者か…珍しいのう。転生者に会うのはだいたい400年振りじゃのう…
前に会ったのは鹿の角の生えた赤き甲冑の槍使いじゃったぞ…」
勇者レーゲンヴルムについて知っているかと尋ねたが、名前しか知らないと言っていた。
しかし1つ興味深い事を教えてくれた。
「そうじゃのう…転生したお主はパーチェから聞いたか?勇者はここでは災厄の象徴。悪者じゃ」
「え…? この世界では勇者って悪者なんですか…?
俺が知る勇者は善や光の象徴で、魔王が悪や闇の象徴だったんですけど…」
「ぬ?パーチェから聞いていないのじゃな?
あの駄女神はいつも言い忘れが多いのう。
良かろう、教えてやろうかの。
ここでは勇者は『光の象徴』という意味。そこは何処の世界であろうと変わらぬようじゃな。しかし、此処では、光の存在の勇者は悪なのじゃ」
「は?」
言っていることが未だ信じ難い。しかしレーゲンヴルムが奴隷労働を行なっている事を考えると、[勇者=悪]でもおかしくはないのでは無いか。
ふとそんなことが脳裏によぎる。
ラシェンド曰く、ラシェンドにとっては勇者は悪、魔王は善悪の中立のような感じだということだ。
ここで俺は1番大事な質問を忘れていたことに気づいた。
「最後の質問です!すみません、ここはどこですか?」
「ここはタウゼント王国の首都ブレッターじゃ
とは言っても、転生してきたばかりじゃろ?解らんよな?」
「いえいえ、そんなことありませんよ。ありがとうございます」
タウゼント王国とは、俺たちが転生した時に落ちてきた森の半分を領土に持つ国だった。
因みに、俺たちの目的地だった街はここブレッターである。
………………
…………
……
…
かつて…この地を創造した神がいた。
その神は大地が出来ると神々、精霊、魔物、人間、巨人、妖精などの数多の種族を生み出す。
精霊の中から聖なる光の祝福を受けた者は天使、冥府の瘴気を浴びた者は悪魔となった。
自分の作った生き物が自我を持ったことに創造神は喜んだという。
神々の役目は、世界を裁くこと。
神々の最高議会で決定したら、国家や悪人を天災を用いて裁く役目を与えられる。
一方で、神から派生したパーチェを含む5人の女神は、天界に戻らずに地上の生物を護る、裁判でいう弁護士に近いようなポジションに就いた。
精霊の役目は、世界に豊穣をもたらすこと。
森、海、川、山など様々な場所に住み、文明を陰ながら支えてきた。
数千年後、神々は創造神に謀反を起こした。
創造神は地上を愛するあまり、世界を統治する神々に愛情をあまり注がなかったという。その為5人の女神以外の神々は怒り、七日七晩かかって遂に創造神を殺害したという。
その後神々は驕り昂り、世界を統治する事を放棄して天界に神と天使だけの楽園を作った。
神々が見放した地上は混乱が絶えなくなった。
精霊は力を無くし、大地はみるみる痩せていった。
そんな時。
巨人の王
人間の若者
妖精の王
鬼人の王
この4名が魔王となり、民衆をまとめ上げて地上の混乱を鎮火する。
全ては世界のために。
魔王が神々に変わり、魔王最高議会を作って地上を統治する役目を果たし、豊穣の大地が復活した。
悪しき国家や者には天罰を。
魔王は「統治者」として一部では恐れられ、崇められた。
魔王は話し合い、いつか神々に対抗するため仲間を増やした。
一方、勇者と呼ばれる者は我儘だった。
勇者は神々に任命され、神に反抗する魔王を始末する役目が与えられた。
勇者は自分の勇気や自分だけの正義を全て善と思い込み、暴れたせいで地上に混乱を招いたという。
下等な者や自分に味方しない者は排除し、恐怖の力で自分の理想だけの国を作った者もいた。
「勇気」を手に、自分勝手な振る舞いをする勇者。
「平和」を守るため、災害を使って滅ぼす魔王。
この2つを人々は「災厄の象徴」と呼んだ。
いつしか相反する勇者と魔王は対決する事になる。
光の加護を受けた勇者と、闇の力のある魔王。
今では勇者はレーゲンヴルムを含め10名おり、魔王は11名いるという。
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ラシェンドが俺に教えてくれた。
そして俺は気がついた。
この世界は異端である、と。
俺が知るゲームやラノベの世界じゃない。
“魔王は悪”という認識を覆された、その日であった。
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何でも7の戦士とは、この地上では相当強い部類に入る戦士だという。
中でもラシェンドは、7の戦士の中で2番目に強いという。今までの7000年間で数多の勇者を屠ったと言っていた。
ラシェンドは正しく剣と槍の達人であったのだ。
「さて亮太。お主はレーゲンヴルムという奴から愛しの女を救うんじゃろ?
儂は勇者や天界の神が大嫌いじゃ。
だから、儂が剣術を鍛えてやろう」
「えっと…ありがとうございます…
でも、陽菜はただの友達です。俺、恋愛とは無縁なので」
「何っ!?恋愛では無いじゃと?
まあ良い。いいからそこにある木刀を持って外に出るのじゃ。
勇者をぶっ殺せるくらいには強くしてやろう」
ラシェンドが言う。
俺は周りから木刀を1本取る。
俺は小さい頃からずっと剣道を習っていた。中学では全国、高校ではインターハイまで進んだ男である。また、中学からは北辰一刀流という型も学んだのだ。
ラシェンドの魔力がバカでかいとしても、剣術で俺が負ける理由など無い。
(俺の剣術を甘く見んじゃねぇ。ラシェンドがどんだけ強いか知らないがな)
構える。
「ほう…その構え…剣術を習っていたのか…面白い。亮太や、儂にお主の剣術を見せてみよ!」
構えず全く動かないラシェンド。俺は躊躇わずに面、胴、篭手と次々に剣を叩きつけて攻撃する。しかし。
俺の放つ最速であり最重量の攻撃は次々と受け流されていく。
更にはイラつくことに、ラシェンドの足は全く動いていない。剣の攻撃の反動を完璧に受け流している。
ラシェンドはフッと笑う。
ーーー
突き、縦振り、横振り、俺が放つ剣技を全て弾かれる。
「そろそろ儂も動くとしよう」
ラシェンドが力強い一撃を繰り出すモーションを取った。
「くっ!」
俺は必死に剣を水平に構えて防御する。しかし。
ラシェンドの一撃一撃の攻撃が重い。それにとてつもなく速い。スキルで剣の軌道が見えるはずなのだが、スキルでも追いつけない程の速さで剣を振り下ろすラシェンド。
ガンッ!
俺の剣とラシェンドの剣が激しくぶつかる。
瞬間、激しい衝撃が俺を襲う。
「ひぃっ!」
俺のガードが崩されていく事に驚きを隠せずにいる間に、ラシェンドは上段から剣を振り抜いた。
「え、えい!」
俺はまたもや剣を水平にして防御する。
ガンッ!
剣と剣がぶつかる激しい衝撃が俺を襲う。
今度の衝撃は先程以上であった。
ズザザザザと、後方へ吹き飛ばされてる俺。
砂埃が舞う。
俺はいつの間にか膝をついていた。
「く、クソっ!」
俺は剣道で習った構えをせずに、駆け出すと三段突き、横に身を躱すと今度は下から剣を叩きつける。
それを余裕で躱すラシェンド。
俺とラシェンドの間には物凄い力の差があったようであった。
それでも攻防を続ける俺たち。
3分くらいすると、ラシェンドに隙が一瞬だけ見えた。
俺はその瞬間にラシェンドを突く…筈だった。
ラシェンドが消えた。
正確には、ラシェンドが“縮地法”という技を使って高速移動したのであるが、当時の俺は知らない。
その速さを俺は目で追うことは出来なかった。
「どこを見ておる?儂はここじゃ」
後ろから声がしたと思った瞬間。
首筋に衝撃が走る。
「ぐはっ!」
ラシェンドは俺の攻撃を、俺が感知できない速さで避け、死角から俺に攻撃したのだと知るのに数秒かかった。
「お主の剣術は良かったぞ。普通の人間より遥かに強い。
しかし…儂は剣術を極めし者。格が違うぞ。
お主は自分の実力を過信しすぎじゃ。このままじゃ勇者には勝てぬぞ」
「は、はいっ……」
この日以来、俺はラシェンドに弟子入りして剣術の基礎を教わる事になる。
全ては陽菜の為に。
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