第2話

 平和の女神、パーチェが召喚した精霊は、俺たちの見えないところで護衛してくれているようである。

 女神様曰く、この森の中には沢山の魔物が住んでいるようだ。

 上位種族や高度な知性を持つ種族もいるため、森の中は常に危険が伴う。そこを護衛付きで守ってもらっているのだ。


 俺は陽菜に質問する。


「なぁ、陽菜。思ったんだけどさ…俺ら、こっちに来ても高校の制服を着たままだよな…」

「そうだよね。街に着いたら服屋とか行ってみる?」

「おいおい、まず俺たちここの金持って無いだろ」

「確かに…」

「女神様がいてくれたら金について色々アドバイスさせて貰えただろうな…」


 女神パーチェは俺たちの護衛に精霊を付けると、行ってしまった。

 平和の女神は忙しいようであった。女神は神の中では人間に近い種族と言われている。そのためか人間の代理として悪しき神から地上の種族を護る任務をしているのだとか。

 その中でもパーチェは戦争が起きないように、魔王と共に調停する役割を任されていたのだと言う。

 そのため、人間との関わりが多いので、パーチェ様を含めた5人の女神は、良き神として人間に信仰されているらしいのである。


 どうやらこの世界では魔王はあまり悪い奴ではないらしい。どちらかと言うと、地上の種族の為に神に抗ってくれる存在だと言うのだ。




「売れるような物、拾っとくか?」

「拾ったって、どこにそれをしまうの?ねぇ?」


 と、陽菜にキレのあるツッコミを入れられた。

 陽菜は俺を揶揄う様に笑っている。


 俺らの殆どの荷物は、死んだ時以来既に無くなっている。

 鞄、お金、スマホ、などなど。

 せめて鞄だけでも持ってこれたら良かったのにと、思ったが、自分の身体と制服しか持ち物が送られて来ていなかった。


「じゃぁ…どうする…?どうやって金目の物を拾うんだ?」

「うーん…」


 売れるようなものはある。しかしそれを仕舞うものはない。街で稼ぐしか無さそうだ。

 俺の思考が加速する。

 俺は、2つの案を0.1秒で導き出した。


 ・今からゆっくり街まで行って、街の中で親切な人に泊めてもらう。

 ・町の近くで野宿し、仕事を探す


 このことを陽菜に伝える。

 そのとき、スキル取得を知らせるこの世界のプログラム、『天の声』が聞こえた。


 《確認しました。大林亮太、スキル【思考加速】を獲得。【思考加速】は【暗殺者アサシン】とリンクされます。現段階では加速レベルは1です。経験が溜まると加速レベルが上がります。》



 おぉ、思考加速!

 これがあれば異世界生活はもっと楽しくなりそうなスキルである。


 それにしても、

 金がない。金がないなら生活は出来るはずがないのである。

 返事が来るかは解らないけど、駄目元で女神に質問することにする。


「あの…パーチェ様…? 街でお金を稼ぐ方法ありますか…?」


 返事は無かった。やはり女神様は色々と仕事があり忙しいのだろう、と思ったその瞬間ーーー



「す、スイカだぁ!スイカ!スイカ!」

「亮太!?こ、壊れた!?」

「壊れてないぞ!スイカだぁ!スイカ!スイカが生えてるから取りに行くぞ!」

「へ?ちょ、亮太ぁ!お、置いて行かないでぇ〜!」


【空間感知】でスイカを感知した亮太は、半端ない喉の渇きを潤すためにスイカを取りに行ったのである。

 それに未だ気づいていない陽菜は、必死で亮太を追いかける。


(亮太って、思い返せば足が相当速いんだよね…

 確か…100メートルが12秒台だったよね…)

「待ってよ…亮太ぁ!」


 亮太は木々の隙間を風のように駆け抜けてーーー遂に


「っしゃあ!スイカだぁ!」


 開けた土地の、畑のような場所に辿り着いた。

 そこの周りにはボロボロの廃墟のような集落が見える。


 付近の家々の壁には穴が開き、所々には血痕が見える。その血痕は最近出来たもののように見える。

 俺は畑の傍に置いてあった倉庫の中から、畑用のナイフを見つけると、それを手に取った。

 畑の傍の倉庫から出るとーーー


「はぁ……はぁ……追いついたぁ……」


 陽菜が漸くやって来たのを確認する。

 陽菜は肩で息をしながら、上目遣いで俺を見た。

 運動をしたあとの赤面した顔もとても可愛い。


「ね、ねぇ…亮太…ここら辺、人の土地だよね…?

 勝手にスイカを取ってきて良いの?

 異世界だからって窃盗はダメでしょ?」

「周りを少し見てみろ。この集落の中に生き物なんて俺たち以外に居やしねぇぞ。

 ほら見ろよ、あそこのぶどうの木を。血痕が着いてるだろ?」

「うっ!ほ、本当だ…」

「住民が全く居ない上に、あの血痕があるーーー間違いなく、この村で何かあったに違いないだろ?」

「そ、そうだね…」

「住民が全く居ないなら、 別にスイカ1個くらいは取って大丈夫だろ?」

「大丈夫じゃないでしょ!泥棒だよ!」

「お前、喉が渇かないのか?腹が減らないのか?」

「乾くし…お腹も空いてるよ…」

「じゃあ食えよ、ほら」


 シュパッ


 俺は畑用ナイフでスイカを8等分すると、その中の1つを陽菜に渡した。

 スキル【急所突きクリティカル】のお陰で容易く8等分出来た。スイカからは大量の水が滴っている。


「ほら。食え」


 俺は手渡ししながら陽菜にスイカを渡した。

 それを遠慮しつつも受け取る陽菜。


「お、美味しい…」


 スイカは、地球のスイカよりも更に甘く水々しい異世界産のスイカである。

 それを食べている時の写真集を元の世界で販売したら、バカ売れしそうな可愛い顔で頬張る陽菜。


「えっとねー」

「何だ?」

「私、実は【空間収納】スキルを持ってるから、残りのスイカはそこに入れちゃっていいと思う。

【空間収納】の中では食べ物も鮮度を保てるらしいし、後で食べるように入れていいかな?」

「いいよ!あと…もっと早く言えよ…さっき…空間収納について解っててわざと揶揄ったな?酷っ」


 そう言いながら、俺たちはクスクスと笑い合う。


「ごめんごめん。じゃ、道中でなんか売れそうな物があったらそれを拾おうよ。亮太、【空間感知】よろしくねっ!」

「お、おう…」


 俺は近くの井戸で水を汲んで、畑用ナイフを洗う。

 畑用ナイフを鞘に戻すと、俺はそれを勝手に貰っていくことにした。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 俺たちは、一度も魔物に遭遇することが無く、沢山の金目の物を拾って無事に街道に着くことができた。

 それは、護衛してくれた精霊たちのお陰に違いないだろう。

 精霊達はどこにいるか見えない。

 だけど、一応2人で感謝の気持ちを込めて別れの挨拶をした。


 ーーーその時、ほんの一瞬、羽が生えた2匹の精霊が見えた気がした。ーーー


(じゃ、ボクらはここでお別れだね!お金に困ってるみたいだけど、お金はボクらが集めたお金をあげるよ!

 普通に生活して1ヶ月くらい生活できると思う!

 それじゃ、バイバイ!)


 陽気な声だった。

 そうか。これが精霊なのだろうと俺は思った。



 精霊のいた所には2つの小さな袋が入っていた。

 2人で中を確認すると、

 1袋に金貨50枚入っており、両方合わせて100枚だった。

 街で仕事を探したり、スキルを手に入れる迄の生活の足しにはなるだろう。

 精霊にまたまた感謝しなければならない。

 俺はポケットに、陽菜は【空間収納】でお金を仕舞う。

 街道には野生の魔物よけの柵があった。俺たちは柵をよじ登って街道に下りる。

 街道は煉瓦で舗装されており、馬車が通るのに丁度良さそうな道だった。

 見渡す限り凸凹も見つからない。







「あー何もいねぇな…」

「だね…」

「陽菜、お前暇?」

「そんな事ないよ!亮太と一緒だと楽しいし!」

「そ、そうなの?」

「うん。亮太と一緒だと、本当に楽しいんだ。

 他の男の子とは全然違う。亮太は私の中で1番の男子だよ」


 陽菜は顔を赤らめてそう言った。

 俺の心臓がドクンと鳴る。

(もしかして…陽菜って俺のこと好きなんじゃ…)


 俺は、恥ずかしくて陽菜の顔を直視できなくなってしまったようである。

 そっぽを向いて、


「あ…ありがとう。俺も陽菜と一緒だと楽しい…」


 と言っておいた。しかし既に俺の顔は真っ赤であった。


 それを見た陽菜は亮太を一瞬見つめる。

(亮太が赤面してる!ツンデレでかわいい…)


 目が合った瞬間、速攻で陽菜は目を逸らした。

 何もしていませんアピールである。

 亮太もその事には全く気づいていなかった。




 俺たちが街道沿いを歩いて、40分ほど経過した。

 街道には柵のお陰なのかはわからないが、魔物なんて一匹も居なかった。しかし…


 あまりにも誰も居なさすぎだ。

 街道に人が全く通らない。


 俺は、個人特殊キャタクタリック能力スキルの “暗殺者アサシン”にある【空間感知】と、【情報具現化】をある程度使いこなせるようになった。


【空間感知】は、半径3キロの空間を動く者を感知でき、半径100メートル以内の動く者の動きを素早く正確に認識できる能力である。

 簡単に言うと、遠距離の動きのある程度の把握と、近距離の動きの完全把握である。

 近距離戦闘なら、殆どの相手の動きを完全に読み切り、防御、攻撃できる。と、思いたい。

(俺たちは未だ剣は疎か武器を1つも持っていないのだが…)




【情報具現化】は直接、或いは間接的に触れた生命体或いは物体の名称、種族、能力を測る事ができる。

 それと【空間感知】を併用リンクすれば、感知したもの全ての情報を手中に収められる。


 この2つが合わさるとチートじゃね?と、思った程だ。





 正午頃になって、遂に街道を通る者の動きを感知した。

 街からこちらに向かってくる、3名の人間と、6匹の魔法生物。

 スキルを使い、相手を解析する。

 3名の人間は、行商人で、馬車(魔法生物が引いている)に乗っているようだ。

 剣士2名、中級魔法使いアルガセーズ1名のようで、強さのランクは2名がDランク、リーダー格の男1人がCランクのようだ。


 この世界には強さのランクがSからF迄ある。

 俺たちはそれぞれ能力的に見れば、A−ランク。

 個人特殊キャタクタリック能力スキルは2名とも強い能力だし、魔力も普通の人より多いという。

 しかし、経験を積めば…の話である、

 俺たちは先程こっちに来たばかり。圧倒的に経験が足りない為、ランクが高くても弱いのだ。





 商人達は、時速60キロの速さでこちらに向かってくる。

 この世界で初めて会う人々。

 物凄くワクワクする。


 商人たちの事を陽菜に伝える。


「商人とかなら、必要な物資とかも売ってくれるかもね。」


 確かにそうだ。

 街まで行かなくても商人たちから買えばいい。




 =======================


 商人たちは直ぐにここに来て、馬車を止めた。

 馬車を引っ張っているのは、二角獣バイコーンだ。一角獣ユニコーンの亜種である。

 馬車から出てきた3人の男たち。

 鉄のフル装備と赤のマントを羽織って、剣を背中に吊っているリーダー、ローブを着たアルガセーズ、あとは腰に剣を挿したニートのような男であった。


 リーダー格の剣士が言う。


「おいお前ら、この少女チビ、勇者レーゲンヴルム様の奴隷に丁度よくねぇか?」


 アルガセーズの男は言う。


「そうっすねぇ…レーゲンヴルム様の奴隷が1人死んだから、それの代わりにするのもアリっすねぇ」

「そうと決まれば、シュヴァイン、シュバイス、やっちまえ」

「ミューデさん、了解っす!」


 ニートの顔が輝いたように見える。

 この男、金に吊られるとやる気を出すようだ。


「金儲け間違いねぇなぁ!楽しみだよ!」




 シュヴァインと呼ばれた太ったアルガセーズが呪文を詠唱しはじめる。



 勇者レーゲンヴルム?奴隷?

 解っているのは、こいつら商人たちがヤバイ奴らだってことだけであった。


 陽菜に逃げるぞ!と目で合図をする。

 陽菜がコクリと頷いた瞬間、シュヴァインの詠唱が完了した。


 ヤバい、来る。

 首筋の毛がゾワリと逆立つのを感じた。


「喰らえ!〝 失神呪文シンコロピー〟!!」

「くっ!」


 俺と陽菜のいた空間を、白い光線が切り裂く。

 俺は空間感知を使い、見きっていたので回避に成功した。

 陽菜は大丈夫か…?



「「「陽菜ぁぁぁ!!!大丈夫かぁ!!!」」」



 慌てて振り返る。

 しかし。

 陽菜は回避に失敗し、既に失神していた。

 倒れる陽菜。

 呼吸はしているので、命に別状は無いようである。

 ニヤニヤ笑う商人たち。



 思考を加速させる。

 陽菜を守りながら、3人を倒す事は難しい。

 そもそも畑用ナイフ以外の刃物がない。それに、畑用ナイフは武器ではない。農具だ。農具で人を殺してはならないだろう。

 どうする…?爆発魔法を使うか…?

 いや駄目だ。まだ一度も使っていないから制御は無理だろう。

 拳で戦うしか無い。


 まずは目の前にいたリーダーのミューデと呼ばれた剣士に腹パンする。


「ぐはぁ!」


 ミューデの体が腹パン1発で後方へ吹き飛んだ。


(そういや、さっきパーチェ様が言ってたな。

 転生者のステータスは他の人の数倍はあるらしいしな…)

 異世界へワープするときにかなりの魔力を体に溜め込むというのだ。

 そのため、転生者の力は壮大なようである。


 転生する前は逆にこっちがボコボコにされる側だっただろうが、実際、転生してからは拳の威力も格段に上がっていた。


 ミューデ、こいつがCランクの奴で間違いない。

 腹パンに加えスキル「急所突き」が合わさった事で結構なダメージを負っているはずだ。


 溜息をする束の間。

 シュバイスはロングソードを引き抜くと俺に斬りかかってきた。

 俺はまだ能力を完全に使いこなせていないが、シュバイスの剣の軌道ははっきりと解る。しっかり回避し、距離を保つ。しかしシュバイスは距離を詰めて斬りかかってくる。


 (酷くない?武器持ってない相手に斬りかかるとか…)

 そう思っても、文句は言ってはならない。


 その間に、シュヴァインはミューデを回復させている。

 俺はシュバイスだけで手一杯だ。ミューデが復活したら、3対1となってしまう。圧倒的に不利だ。

 回避メインで攻撃が全くできていない。自分の経験不足を呪う。



 ーーーこの時俺は、シュヴァインが俺に斬りかかるシュバイスごと、身体拘束させる魔法を詠唱中だと気がつかなかったーーー


 バーン!


 俺とシュバイスは、同時に力なく地面に倒れた。

 ミューデは既に復活し、シュバイスは、シュヴァインの魔法で回復中。

 ピンチだった。

 まさか仲間ごと俺を仕留めるとは…

 彼奴、やりおる!



(って、感心している場合じゃ無い。俺は殺されるんだーーー)


 俺は、動くことを封じられていた。まさに大ピンチである。


 爆発魔法を念じてみたが、何も起こらない。

 魔法まで封じられた。

 ヤバい。


 ミューデが俺の頭部を何回も足で蹴る。

 バキッ!


「!?」


 俺の口から、白い何かが飛び出した。

 それが折れた前歯だと気づくのに数秒ほどかかってしまった。


 歯がーーー折れてる……?


「どうだ、少年クソガキ。痛いか?

 身体強化された一撃を食らっても、前歯しか飛び出ねぇとは…随分頑丈な身体なんだな」


 痛いに決まっている。しかし、喋ることを封じられている為、悲鳴もあげられない。

 血が大量に出る。


「よくも俺達を痛い目に合わせてくれたな?

 あの可愛い嬢ちゃんは、性奴隷としてレーゲンヴルム様に贈るからな!

 殺さないであげるからせいぜい頑張って俺らを倒してこい!じゃあな!」


 そういうとミューデが最後の一撃とか言って、全力で頭を蹴ってきた。


(や、やめろぉぉぉぉ!陽菜を返せぇぇぇ!)


 そう言いたかったが、魔法で言葉を発せない。


(クソっ!)


 俺は顔面から街道の柵に激突する。


 目の前が段々真っ暗になり、俺は意識を失った…



 ………………

 …………

 ……



 死んだように静かな夜の街で、3人の男が酒場で酒を飲んでいる。


「あの女の子を見てレーゲンヴルム様が喜ぶといいっすねぇ!」

「あのお方はこういう女を奴隷にすることが好きだからなぁ」

「うへへ、そうっすねぇ」

「しっかしまぁ…あの少年はびっくりだわ。ミューデを吹っ飛ばす少年ガキなんて初めてだからな」

「シュバイスの攻撃も完全に避けてたっすよね…?」


 シュバイスが店員に追加の酒を頼む。


「あぁ。残念だ。俺の攻撃を全回避する奴なんてあんまり居ないのにな」


 シュバイスは雑魚としか戦ったことが無かった。そのため、シュバイスの剣術を避けた人間など今まで存在しなかったのである。


「見栄を貼りすぎでっせ、シュバイス。でもあの少年ガキ、ゆーて雑魚っすよね。ランクいくつくらいなんすかねぇ?」

「うーん、確か普通の人間ってどう頑張ってもランクはBまでしか行かないよな?でさ、ミューデを吹っ飛ばしたり、俺の攻撃を避けまくったりしたって事はBランクくらいじゃねぇの?

 ヤバイじゃねぇか。不意打ちには弱かったけど」


 先程まで沈黙を守っていたミューデが口を開く。


「わからん…でも俺らの脅威である事は間違いねぇと思う」

「えっ…?明らかに雑魚そうでしたよ?何でミューデは殺し損ねたんっすか?」

「仕方ねぇだろ?俺は気付かなかった。逃げた後にあの少年ガキを興味本位で魔水晶で覗いたんだがな、結構な魔力と強力なスキルだった。最低でもランクはBはあると思うぜ。

 最悪…Aランク、人間でいうと「超人」レベルじゃないか?

 まぁ…女の子と一緒に一応レーゲンヴルム様に報告しておくか…」

「待って欲しいっす。何故そんなに強そうなのに俺らを倒せなかったんすか?」

「明らかに雑魚かったたんだけどなぁ…」



 彼らは知らなかった。亮太と陽菜が、転生者として強力な身体や魔力を持っていた事を。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 身体中が痛い。

 蹴られた筈の顔の痛みは引いている。

 折れた歯は、そのままであった。止血されている。

 俺はベッドの中に横たわっていた。


 ん?ベッドの中にいた?


「えっっっっっ!?」


 荷物は(と言っても金貨50枚だけだが…)はベッドのそばにしっかり置いてあった。

 誰かが倒れた俺をここに運んでくれたのだろうか。親切な人がいるもんだ。




 命拾いはした。


 しかし、陽菜が連れ去られてしまった。

 俺はこれから陽菜を救いに行かなきゃならない。

 外が暗い。

 今は何時だ…俺はどのくらい眠ってたのか?



 目の前のドアが開く。


「ひぃ!?」


「起きたか、少年よ」

 ドアから出てきたのは、1人の初老の男だった。

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