#13 一回戦開始!
試合が開始され、ゲーム画面にバトルフィールドが映し出される。
広大なフィールドは荒野・砂漠・森・氷河など様々な地形が複合している。
画面には俺の操作するマドールが表示された。
赤い鱗で体を覆い、背中に燃え盛る炎の翼を生やした西洋竜のマドール、プロミネンス・ドラコ。
初期配置は荒野か。
そして他のプレイヤーのマドールの状況も同時に表示される。
夜宵の操る黒マントを羽織った銀髪イケメンの吸血鬼、ジャック・ザ・ヴァンパイア。
グルグルさんのマドールはガントレットで武装した白熊、ナックル・ベアーマン。
モコモコさんの使用機体は、氷の鎧を身に纏ったペンギン騎士、アイシクル・ナイト。
ゲーム開始時に全てのマドールは一定距離はなれた場所に配置される。
敵との交戦や味方との合流には移動が必要となるのだ。
勝利条件は至ってシンプル、相手のマドールを全滅させた方の勝ちだ。
俺はプロミネンス・ドラコを操作し、移動を開始する。
炎に燃える翼をはためかせ中空へ飛翔、そのまま滑空を続けるとバトルフィールドが切り変わり、氷河地帯へ突入する。
凍てつく氷の大地に白熊のマドールが立っていた。
見つけた、グルグルさんのマドールだ。
俺の狙いは夜宵との合流ではなく敵との戦闘。
早速攻撃を開始する。
コントローラーを操作し、プロミネンス・ドラコの
マドールは
またこの四つのパーツ以外にもオプションパーツをつけることも可能だが、オプションを含めたそれぞれのパーツには重量が設定されており、どれだけのオプションパーツを装備できるかは
話を戻そう。
プロミネンス・ドラコの
空を舞う赤き竜の右手に炎の球が生み出される。
竜が腕を振り下ろすと、炎の塊はナックル・ベアーマンへ襲いかかる。
グルグルさんもこちらの接近には気付いていたのだろう、機敏な動きで攻撃を躱し、火の玉は氷の大地へ衝突した。
「早速俺を狙ってきたんすねヒナさん。ならこっちもお返しますよ」
グルグルさんが楽しそうに笑い、コントローラーを操作すると、白熊は助走をつけて地面を蹴飛ばし、大きく跳躍する。
そして空を舞う赤竜に上からガントレットを叩きつけた。
「やばっ」
俺は咄嗟の操作で回避しようとするも、僅かに攻撃が掠り、プロミネンス・ドラコの
予想以上に俊敏だな。もっと距離をとるべきか。
グルグルさんのナックル・ベアーマンは氷タイプのマドール。氷河のフィールドでは回避と移動速度が倍になる。
だが攻撃方法はガントレットで殴りかかる近接戦闘をメインとするものだ。
逆に俺のプロミネンス・ドラコは遠距離からの炎攻撃を得意とする。
相手との距離を広げれば有利に戦える。
それにしても、想定外の一撃を貰ってしまった。
本来であれば相手の攻撃が届かない位置から仕掛けるつもりだったのに、射程距離を見誤ったか。
どうにも冷静になりきれていない。我ながらどこか浮き足立ってるように感じる。
緊張してるのか俺は。
オフ会参加経験は何度かあるが、やはり大会初戦はどうしても動きが固くなってしまう。
もっと慎重に立ち回らねば。
プロミネンス・ドラコは炎の翼を羽ばたかせ、白熊から距離をとる。
そして十分に離れたところで右手から
しかし白熊は持ち前のフットワークを活かし、全て回避してしまう。
火の玉は空しく白い地面に叩きつけられるだけだった。
「どうしたんすかヒナさん! そんな離れてちゃ当たらないっすよ!」
確かにこの距離から火の玉を投げつけても、簡単に見切られてしまうだろう。
だが相手からの攻撃も届かない。
だからグルグルさんはこちらを挑発しているのだ。もっと近づいてこい、と。
しかし、俺は一言呟いた。
「いや、俺の勝ちですよ」
はっ、とゲーム画面を見るグルグルさんの表情が強ばる。
白熊の周りを囲むように氷の大地に炎が踊っていた。
氷河のフィールドは必ずしも相手だけに有利に働くわけじゃない。
地面に打ちつけられた
次の瞬間、白熊の足元に亀裂が走り、その巨体がバランスを崩した。
「その手には乗らないっす!」
咄嗟の事態にもグルグルさんは瞬時に反応し、白熊はその場で地を蹴り、中空へ飛び上がって炎の輪から離脱する。
だがここまで俺の読み通り。
「そう、その自慢のジャンプ力で逃げると思ってました」
しかしその滞空時間の長さが仇となる。
空中ではこの攻撃を躱すことはできない。
「トドメだ! プロミネンス・ドラコ!」
炎の竜が右手に再度
それは完全に無防備となった白熊へと襲い掛かる。
火球はナックル・ベアーマンの
マドールは
回避不能の状況で撃ち込んだ今の一発は致命傷となり、ナックル・ベアーマンの頭部は爆発し、バラバラとなった機体が地面に投げ出された。
よし、倒した。
「くあー、やられたー」
悔しそうに頭を抱えるグルグルさん。
俺は内心でガッツポーズを決めた。
ダブルスは相手の片方を倒せば、二対一の状況を作れて圧倒的に有利になる。
これで大きく勝ちに近づいた。
さて、夜宵の状況はどうなってる?
画面上部に表示された他のプレイヤーの戦況を確認する。
どうやらあちらもモコモコさんと交戦中のようだ。
氷の鎧を纏ったペンギン騎士と黒マントに身を包んだ吸血鬼の剣士が鍔迫り合いを繰り広げてる。
むこうもバトルフィールドは氷河か。場所はここから近いな。
早く夜宵と合流しよう。
俺はプロミネンス・ドラコを操作し、移動しながら夜宵の戦闘を見守る。
ペンギン騎士が氷の剣を振るい、吸血鬼の腕に切り傷を与える。
夜宵は
しかしその動きはどこかぎこちなく見える。
ジャック・ザ・ヴァンパイアは夜宵がシングルスでも長年愛用している、彼女にとって使い慣れた機体だ。
普段であれば近接戦闘では敵なしと言わんばかりの反応速度と剣技で敵を圧倒するのに。
さっきの攻撃だって、いつもの夜宵なら防御でなく回避を選択する筈だ。
ここ数日、ダブルスの練習でこなしてきたネット対戦の時と比べても、今日の夜宵の動きは明らかに固いように感じた。
普段の実力の十分の一も発揮できていないだろう。
もしかして彼女も緊張しているのか?
ゲームを操作する夜宵の顔を窺う。その表情はやはり強張っているように見えた。
それなりに場数を踏んでる俺だって緊張するのだ。オフ会初参加で自己紹介の時からガチガチだった夜宵が緊張でまともに指が動かないのは容易に想像できる。
まずいな、早く彼女の援護に回らないと。
プロミネンス・ドラコが滑空し、夜宵の元に急ぐ。しかしその間にも戦局は刻一刻と変化していった。
ペンギン騎士、アイシクル・ナイトは氷の剣で吸血鬼を斬りつける。
ジャック・ザ・ヴァンパイアはそれを悪魔的な意匠の魔剣で受け止めながらダメージを軽減しているものの、防戦一方な印象は拭えない。
しかしペンギンが剣を振り下ろす瞬間、吸血鬼は下から魔剣を振り上げ、氷の剣にぶつける。
すると氷の剣にヒビが入り、それが真っ二つに折れた。
武器を失ったペンギンは後方へ飛び、吸血鬼と距離をとる。
形勢逆転し、夜宵が優位になったか? そう思ったのも束の間のことだ。
ペンギンを取り巻く氷の地面が隆起し、無数の氷の剣が生み出される。
これがアイシクル・ナイトの
フィールドが氷河の時、剣を破壊されても復活する。
氷河から生み出された剣の一つをペンギンが引き抜き、吸血鬼へ飛び掛かる。
その鋭利な一突きがジャック・ザ・ヴァンパイアの額を寸分の狂いなく貫こうとする。
しかしその二体の間に炎の竜が体を割り込ませ、代わりにその剣を受け止めた。
「ヒナ!」
「悪い、遅くなった」
驚く夜宵に手短に謝る。
が、状況は悪い。
ジャック・ザ・ヴァンパイアが致命傷を回避した代償にプロミネンス・ドラコの
そのダメージに耐えきれず
これではもう
ここにきて自分の判断ミスを悟る。
何故ジャック・ザ・ヴァンパイアを助けるためにプロミネンス・ドラコを盾にした?
むしろジャックを囮に遠距離からプロミネンス・ドラコの火球攻撃を浴びせた方が有効だったのではないか?
後悔が頭をよぎるが、今更それを考えても仕方がない。
今から作戦を立て直し、さっきの選択を正解に変える!
プロミネンス・ドラコは本来、近接戦闘は得意ではない。
この近距離でペンギン騎士とやりあっても勝ち目はないだろう。
そう、一対一なら勝ち目はない、が。
俺はアナログスティックを倒し、炎の竜をペンギン騎士に突撃させる。
捨て身の体当たりを喰らったアイシクル・ナイトの体勢が崩れた。
ペンギンの体を押し倒し、その上に赤竜が覆いかぶさる。
「今だ、ヴァンピィ! トドメを刺せ」
プロミネンス・ドラコがアイシクル・ナイトを押さえ込んでる今なら奴は身動きできない。ここでジャックが仕留めてくれれば!
「あっ、う、うん」
一瞬遅れて夜宵もこちらの意図に気付いたのだろう。吸血鬼が魔剣を構える。
だが、その一瞬の遅れが命取りだった。
次の瞬間にはプロミネンス・ドラコの首は氷の剣によって一閃され、バックリと傷口が開いていた。
もう少し動きを止めておきたかったのに、せめてこの隙を有効に使ってくれ夜宵。
だがそこでアイシクル・ナイトは機能停止したプロミネンス・ドラコの体を放り投げ、ジャック・ザ・ヴァンパイアの方向へ飛ばす。
正面から迫りくる赤竜の巨体をジャックは横に飛んで躱した。
だがそれは同時にアイシクル・ナイトから目を離すことを意味していた。
「えっ、う、嘘」
ゲーム画面を見つめながら青褪める夜宵。
アイシクル・ナイトから夜宵の意識が逸れた一瞬の隙を相手は見逃さなかった。
気付いたときにはペンギン騎士はジャックの目前に迫っていた。
夜宵に反応する隙を与えないまま、銀髪の吸血鬼の胸元に氷の剣が突き立てられる。
胸部は
ジャック・ザ・ヴァンパイアは目を見開き、
画面に『You Lose』の文字が表示される。
そんな、負けた。
モコモコさんとグルグルさんの歓喜の声が、俺の耳を虚しく通り過ぎて行った。
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