#11 パートナーは誰?
その後、昼時ということもあってショッピングモール内のレストランに移動する。
テーブルに着いたところで、夜宵に先程の虎衛門とのやりとりを説明した。
「双子座オフ、か。行くの、ヒナ?」
「ああ、犯人の正体を暴かないといけないからな」
言って、ツイッターで検索し双子座オフの運営アカウントを見つける。
これ自体は
開催は来週の土曜、場所は都内なので電車を乗り継げば行けそうだな。
「でも、オフ会ってどういうことをするの?」
オフ会参加経験のない夜宵は素朴な疑問を口にする。
「まあ
とは言っても
大会を開こうと思えばオンラインでもできるものを、敢えてオフで直接会ってやるのだ。
ネットの繋がりだけだった人達と直接会って交流を深めるという意義も大きいだろう。
大会ホームページを上から読んでいき、参加方法の項目に差し掛かる。
えー、何々。チームメンバーのツイッターアカウントを入力して、と。
ん? チーム?
改めて大会ルールを読み返す。
二人一組のチーム戦。
「ダブルス、だと?」
これはマズいかもしれない。自分は元々シングルス専門だ。
それにダブルスとなると日頃からパートナーと一緒に練習して、チームワークを磨くのが普通だ。
この大会へのモチベーションが高い人は既にチームを組んでいるであろう時期。
オフ会まで残り一週間を切った今からパートナーを探して見つかるだろうか?
別に虎衛門に会うだけなら大会で勝ち進む必要はないのだが、パートナーがいなければ参加すらできない。
「ヒナ、困ってる?」
同じくスマホで大会ホームページを読んでいた夜宵がそう声をかけてくる。
「うーん、ちょっと困ってる。今からチームメイト探しかー」
休日を丸一日使ってオフ会に出るというのは、簡単に誘えるものではない。
双子座オフの開催告知は数ヶ月前からされていた。
今まで出る気が無かった人を今から勧誘するのは難易度が高いと言えるだろう。
「あの、あのね」
そこで夜宵が口を開く。
緊張しているのか、コミュ障が再発気味の様子で彼女は言った。
「ヒナが困ってるなら、ね。わ、私、ヒナの役に立ちたい」
「えっ」
意外な言葉に俺は彼女を見つめ返した。
「だ、だから、ね。私と、チーム、組も?」
微かに頬を赤くして、遠慮がちに彼女はそう吐き出す。
「いいのか? オフ会だぞ。知らない人が沢山いるぞ」
コミュ障の夜宵にとってはハードルが高いだろうと思って俺も誘う気はなかったのに、自分から立候補してくれるとは。
「それに夜宵はシングルスのランキングを上げるのに忙しいんじゃないか? あれ、今何位だっけ?」
うぐっ、と歯を食いしばり、彼女はテーブルに視線を落とす。
「連敗の沼にハマって、現在三桁に転落中。多分二百何位とか」
あっ、はい。
この前九位だったのが二百番台か、これは聞いちゃ駄目な奴だったかもしれない。
しかしすぐに彼女は顔を上げる。
「それはいいの! 最終日までまだまだ時間はあるし。私、大丈夫だから、ヒナと一緒なら、オフ会だって行けるから!」
彼女の必死の訴えが俺の胸に響く。
なんて健気なんだこの子は。
俺の為に勇気を振り絞ってオフ会に、その気持ちは本当に嬉しかった。
「ありがとう夜宵、これからパートナーとして宜しくな」
俺の言葉を受け、夜宵の表情が、ぱあっと明るくなる。
とは言え夜宵はシングルスランキングでは疑いようのない強者だが、ダブルスの経験があるという話は聞かない。
俺と同じくシングルス専門だ。
となれば練習が必要だな。
「じゃあさ、これから大会まで毎日夜宵の家に行って、ダブルスの練習しようぜ」
「えっ、ヒナは大丈夫なの? 帰る時間、とか」
夜宵の家は学校から近い。
だから学校帰りに俺が寄る分にはいいが、その後俺の帰宅時間が遅くなるのではという心配は尤もだった。
自宅からオンラインで夜宵とチーム戦をすることだってできるが、折角夜宵に会える口実が増えたのだ。
このチャンスにもっと彼女と仲良くなりたい、その一心で俺は捲し立てた。
「へーきへーき、折角チーム組むんだから、息ピッタリになるまでとことん練習しようぜ」
俺の勢いに対して、夜宵は少し困ったように考え込む。
「ヒナが学校から帰る時間なら、私も起きてると思うけど」
相変わらず昼夜逆転生活が前提の思考してますね。
「でも、そうなると、さ」
「何か問題があるか?」
恥ずかしそうにもじもじしながら、夜宵は言葉を絞り出す。
「お、お洋服が足りない! 一週間分の服を買わなきゃ!」
な、なるほど。毎日俺と会うということは、夜宵なりにオシャレに気を遣う必要が出てくるのか。
「おっけー、じゃあ飯食い終わったらまた服見に行こうぜ!」
こうして、この後もモール内の色んな店で服を選び、夜宵のファッションショーを堪能した。
その上、平日も夜宵と会う約束を取り付けることができて、初デートは最高の結果に終わった。
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