#2 小悪魔なクラスメイト
「おはよう太陽くん。今日は遅刻ギリギリだったわね」
自席でスマホを弄っていた俺は、正面に立つ少女からそう声をかけられて、顔を上げる。
黒のフリルリボンで頭の両サイドの髪を結わえたツインテールの少女が、眩しい笑顔で俺のことを見つめていた。
「おっす、
俺とは中学の頃からの付き合いで、今年は運よく一緒のクラスになった友人である。
品行方正で成績も優秀、友達も多い。
スラリとした高身長でスタイルもいい美少女である。
そんな彼女が、目を輝かせながら俺に話しかけてくる。
「ねえねえ、太陽くん。今日の私、いつもとちょっと違うでしょ?」
ほう。髪型か? ファッションか?
微妙な変化に気付いてほしい乙女心という奴か。
改めて彼女の姿を見る。
クリーム色のセーターと赤いチェック柄のスカートに身を包み、首元には赤い蝶ネクタイを結んだ制服姿。
うむ、いつもとおんなじ冬服姿だな。
今は衣替え期間だから夏服に変えてもいいのだが、そんな単純な答えではないか。
ツインテールの髪型もいつもと同じように見える。
後は何だ? 靴下? 靴?
駄目だ、さっぱりわからん。
素直にわからんと答えるのも癪なので、当たり障りのないことを言ってみる。
「あー、毛先ちょっと整えたんだな」
そう答えると、彼女は嬉しそうにニッコリと微笑んだ。
「ざんねーん、はっずれー! 正解はシャンプーを変えてみましたー」
「わかるか、んなもーん!」
俺がキレ気味に突っ込むと水零は悪戯っぽくクスリと笑った。
「太陽くんが私の全身を隅々までチェックしてくれれば、正解できたのにねー。残念だなー」
そんな本気とも冗談ともつかないことを言って来るのだった。
いやいや、俺らも年頃の男女なんで、そんなセクハラ紛いなことできるわけないだろ?
「そこまでやって正解して俺が得られるものは一体なんだよ? 女の子の匂いを嗅ぐ変態男の称号だったら要らんぞ」
「正解したら、私の好感度がプラス五億ポイントだったのになー」
「キミ、チョロ過ぎない?」
それなりに付き合いの長い彼女とこんなやりとりをするのはいつものことだ。
よく言えば懐かれてると表現することもできるし、悪く言えばからかわれてるとも言える。
「ちなみに現時点での私の太陽くんへの好感度は百兆ポイントだから、これからも頑張って好感度を稼いでね」
「もはや上げる必要を感じないし、下げた方がいいまであるな」
少し視線を外せば、教室内の男子達がチラチラと水零に視線を向けているのがわかる。
彼女は人当たりが良く、外見もいいから男女問わず人気がある。
「参考までに聞くが、クラスの他の男子の好感度はどんなもんよ?」
「うーん、五くらいかな」
文字通り桁が違った。哀れ、他の男子。
彼女はニヤリと口元を歪め、意地悪く笑って見せる。
「私はそうお安くないのよ? ちなみに好感度が一万を超えたら結婚できるようになります」
「それじゃ好感度百兆の俺はどうなるんだ?」
そう問うと、彼女は頬を赤く染め、俺に顔を近づけて小さく囁いた。
「子供は、サッカーチームができるくらい作ろうね」
顔に吐息がかかるような距離でそんなことを言うのはやめろ!
せめて冗談っぽく言ってくれ。
恥ずかしそうな表情を作りながら、マジトーンでそういうこと言うな! 変な雰囲気になっちゃうだろ。
水零はすぐに俺から顔を離すと、さっきまでの恥じらい顔から一変して、心底楽しそうに笑って見せた。
「ねえねえ本気にした太陽くん? ドキドキした?」
ちっくしょう、この小悪魔っ子め。
何とか話題を逸らせないか考えていると、ふと思いついた。
友達の多い水零なら、月詠夜宵の情報を得られるかもしれない。
「なあ、水零。うちのクラスに幻のクラスメイトいるだろ。月詠夜宵。その子と仲のいい子の心当たりとかないか? 去年一緒のクラスだったとか」
月詠夜宵は一年生の途中までは学校に来ていたらしい。ならば彼女の友人が校内のどこかにいるかもしれない。
その質問に、水零は自分の顔を指さして見せた。
「それは私のことね」
「うん?」
「だから、私。夜宵とは去年から一緒のクラスで、あの子の一番の親友と言っても過言ではないわ」
「マジで?」
探す手間が省けたとかいうレベルじゃないぞ。
俺はヴァンピィさんともっと仲良くなりたいと思ってる。
ネットの繋がりだけでなく、リアルでも一緒に遊んでみたいと思うくらいに。
だが、さっきのツイッターDMでのやりとりを見る限り、このまま家に押しかけても迷惑がられそうだ。
だから月詠夜宵と親しい友人あたりに仲介してもらえればと
「次は私から質問いい? 太陽くんって夜宵と接点あったのかしら?」
「あー、それな」
水零の疑問は尤もだし、彼女の協力を得たければ、こちらの事情も説明するのが筋だろう。
「話すと長くなるんだが」
俺はこれまでの経緯を話そうと頭の中を整理する。
そこで彼女は悪戯っぽくクスリと微笑んだ。
「とっても面白い話が聞けそうね。期待しちゃうわ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そうして。
「なるほどね、それで太陽くんは公園で出会った可愛い女の子に一目惚れして、自宅までストーキングしたいってことかー」
あの後、すぐに一限目の担当教師が来た為、水零への事情説明は放課後の帰り道に持ち越された。
「曲解は止めなさい。俺は月詠の正体がネットの知り合いなのかをハッキリさせたいんだよ」
水零に歩幅を合わせて歩きながら、俺はそう訂正を求める。
彼女はクスリと悪戯っぽく笑うと、楽し気に言葉を返してきた。
「えーっと、髪の毛を左側で結わえてたのよね? 太陽くんが会ったのは夜宵で間違いないと思うわ。可愛いもんね夜宵、太陽くんが一目惚れするのも納得ね」
「だーかーらー、違うって」
流石に水零も年頃のお嬢さん。どうあってもその手の話に結びつけたいらしい。
彼女はツインテールを揺らしながら、小首を傾げてほっぺたに指を当てる。
「じゃあじゃあ、太陽くんってどんな女の子が好みなのかしら? 知ーりたーいなー」
完全に俺をからかうモードに入った水零に対し、俺は当初の目的を突きつける。
「いいから、協力してくれ。お前が本当に月詠の親友なら俺のことを紹介してくれないか?」
「そうねー、話を聞く限り太陽くんの第一印象はミジンコレベルに最悪だもんね。次に会ったら即通報されるかもしれないし、私が手を貸してあげないと一生ブタ箱から出れないかもね」
「そこまで最悪なの!?」
目茶苦茶に扱き下ろされてるんだが俺。
「私も久々に夜宵に会いたいと思ってたところだし、一緒にあの子の家に行きましょうか」
「ミジンコのくだりをスルーするのは不本意だけど、まあそう言ってもらえると助かるよ」
かなり話が横道に逸れたが、水零の協力は取りつけることができた。
学校から駅へ向かう通り道に月詠の家はある。
そう言えば、その近くにコンビニがあったことを思い出した。
「そうだ。ちょっと買うものあるから、コンビニ寄っていいか?」
「流石男の子ね。ゴムの準備は欠かせないもんね」
うんうんと一人頷く水零。
「変な勘違いはしないこと! 使わないからね!」
「えっ、私相手なら無くてもいいけど、夜宵には使った方がいいんじゃないかしら?」
「問題発言はヤメロ! 使う場面は来ないって意味だよ!」
あーもー、こういう際どい発言ばかりするんだからこいつは。
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