第3話 ヘレンおばちゃんのお弁当

 



「リ、リムは売られてしまうのか?」


「そうだな、このままだと帝国か娼館行きだろうよ」


「なっ......嫌なのだ!」


「ははっ、そりゃ誰だっていやだろ」


「な、何を軽く言っているのだ!?」



 このままでは売られてしまうのだぞっ!?

 ど、どうにかしないと駄目ではないかっ!!



「逃げるのだ!」


「まぁ待て」

「んぐぇ」



 こ、こいつ、走り出そうとしたリムの襟を掴みやがったのだっ。

 おかげで『んぐぇ』ってなってしまったぞ、『んぐぇ』って!?



「けほっ けほっ」


「あー...悪ぃ、でも大丈夫だ

 もうすぐ助けが来るからな」


「た、助け?」


「ああ、ここの場所を見つけるために隠蔽魔術をかけた印を落としてきたからな

 もうすぐ仲間が突入してくるはずさ」


「むー......なら大丈夫なのか?」


「ああ、その為にわざわざ一人で派手に探りを入れて捕まったからな

 あー......そういやお前は何で捕まったんだ?」


「リムは青くてキラキラしたガラス玉を拾って行ったら捕まってしまったのだー」


「......ん? ガラス玉?」


「んむ、これなのだ」


「っ......」


  --む?


 な、なんでそんなに食い入るように見つめてくるのだ?

 そんなに見つめてもこれはあげないのだぞ。リムの宝物なのだからなっ!


 そんなガックリした顔をしてもダメなのだ!



「これはリムのだぞ、いっぱい落ちてたけど全部リムのなのだっ」


「ああ、うん、なぁリム

 それ......どれくらい拾った?」


「む? 30個くらいなのだ」


「マジかよ......半分以上じゃねーか」


「はんぶん?」



 いきなり何の話なのだ?

 まさか、半分よこせとか言うのではないだろうな?



「おいリム、これを拾ってて捕まったんだよな?」


「う、うむ」


「そうなると、あの辺りに落とした印か......

 そもそも何で隠蔽術式がかかってるのに拾われたんだ?」


「いんぺ...?」


「半分近く拾われたが、あいつらなら残りで此処までたどり着けるはず

 いや、問題は時間か......予定よりも到着が遅れる可能性が高い......

 俺が此処から運び出される前に間に合うか......」



 な、なんかフィリスがブツブツ言って考え込みはじめてしまったのだが。

 言ってる事も良くわからんし、取り合えずリムの宝物は取られないようにしっかりしまっておくのだ。


 よし、インベントリにしまっておけば安心なのだ。


  --ぐぅ~


 むー......そう言えばお腹がへったのだー。

 折角景色の良い所でヘレンおばちゃんのお弁当を食べようと思っていたのだが。もう此処でも良いかもしれんな。

 こんな薄暗くて埃っぽい場所だと美味しさも半減してしまうのだが、しかたがないのだ。


 リムはお腹がへったのだー。


 よし、お弁当を出してー、包みをといてー。


 ふんふんふーん。

 中身は何なのだー、楽しみなのだー。


 このお弁当を開ける瞬間のワクワクがリムは大好きなのだ。



「おおっ」



 焼き鳥なのだっ!

 それに小さなハンバーグ、リムの大好物も入ってるっ。


 後はお花の形に切った人参と飴色になるまで煮込んだ大根。葉野菜。それに、じゃが芋も入ってるのだっ!


 それから平らなこれは......ナン?

 ふむふむ、この一緒に入ってた串でおかずを刺して、ナンに挟んで食べるのだな。

 前にもこんなのを食べた事があるのだー。



「んぅ~」



 おいしい。


  --もっきゅ

    --もっきゅ

   --もっきゅ


「なぁリム、何食べてんだ?」


「む?」



 リムがお弁当を食べていると、フィリスが肩越しに覗き込んできた。



「よく取り上げられなかったな」


「んむ、リムの中に入れてあったから取られなかったのだ」


「......なか? ああ、その体中についてる鞄か?

 沢山あるから見逃したんだな」



 そう、フィリスの言う通りリムは鞄を沢山つけていた。

 背中にはリュック、腰にはポシェットが3つ、スカートで見えないが太ももにも収納があったりする。

 それに加えて、二の腕にも小さな収納がまきつけられていて、はたから見れば歩く収納箱だ。


 しかもそれらがガッチリとベルトで体に固定されて鍵がかけられており、リムをさらった連中も最初は鞄を全部剥ごうとしたが、結局最後には中を調べるだけで諦めたのだ。

 だが、実はリムの荷物は鞄の中には入っていない。


 いや、一応繋げてはあるのだが、それらはリムが許した人しか取り出せない異次元収納である『インベントリ』へと収納されてしまっている。

 よって、許してない人がどれだけ手を突っ込んでもそこには何も無いのだ。


 そしてこの格好は多少奇抜ながらも冒険者の『運搬人(ポーター)』と呼ばれる人間にはありがちな恰好だったため、街中でもそこまで奇異の目では見られていなかった。

 なのでさらった人間もこれだけ鞄を持っていても、リムの外見については全く警戒していなかったのだ。



「......うまそうだな」


「うまいのだ」


  --もっきゅ

   --もっきゅ


「なぁ、そのハンバーグ1つ「ダメなのだ」」


「......」



 むぅ、そんな恨めしそうな顔で見ないで欲しいのだ。仕方ない。



「ハンバーグはリムの大好物だから大事にとってあるのだ

 だからこっちの焼き鳥のやつなら1つだけあげるのだ」


「いいのか?」


「うむ」


「ありがとう.......って、滅茶苦茶うまいなコレ」


「当たり前なのだ、ヘレンおばちゃん特性なのだぞっ!」


「ヘレンおばちゃん?」


「リムを泊めてくれてる宿のおばちゃんなのだ」


「へー......宿屋か」



 ヘレンおばちゃんは料理がうまいし優しいし、リムはとっても大好きなのだ。


 さてと、それじゃあ最後のハンバーグを食べて。



「ごちそうさまでした」



 ふぃー、美味しかったのだー。晩御飯もたのしみなのだ。

 そのためには晩御飯までにお家にかえらないとだな。



「フィリスの仲間はそろそろ助けにくるのか?」


「あー......それが、ちょっと時間がかかりそうなんだ」


「ふむむ?」


「いや実は、そのリムが拾ってたガラス玉が仲間への目印だったんだよ」


「え? これ、フィリスのだったのか?」


「ああ」


「そうなのかー......ごめんなさいなのだ」


「ああいや、隠蔽術式を過信しすぎて拾われたこっちの落ち度だからそれは気にするな

 まだ半分くらいは残ってるしな、時間はかかるが仲間には見つけてもらえるはずだ」


「うむ、これは返すのだ」


「いや、それはリムにやるよ、焼き鳥のお礼だ」


「い、いいのか?」


「おう」



 よ、良かったのだ。

 このガラス玉は結構リムのお気に入りだったのだ。



「それより仲間が間に合わなかったときのために、脱出の手段を確保しておきたいんだが」


「ふむふむ、逃げ道だな」


「窓には鉄の格子がついてるし、扉は金属製

 さてどうするか......」


「む? 鉄格子を取ればいいのではないか?」


「いや、それができりゃ良いんだがな

 いくら錆びてても素手じゃ無理だろ」


「リムなら出来るのだ」


「......は?」


「鉄格子を取れば良いのではないのか?」


「そうだが、本当にできるのか?」


「うむっ、リムに任せるのだっ!」



 そんなのは簡単なのだっ!

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新米冒険者のインベントリム るかに @RUKANI

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