第2話 縛られた!

 



「んぅーーーっ んぅっ んんぅっ」



 手足を縛られてリムは暗い場所に閉じ込められていた。

 口には猿轡を噛まされて、必死の叫びも呻き声へと虚しく変わり果てる。


 どれだけ暴れてもリムの短い手足はガッツリとロープで縛られており、動かせる気配すら感じない。

 しかもロープが擦れて痛かった為、リムは早々に暴れるのを放棄した。今はただ叫んでいるだけである。

 それももう喉が渇いてきたし辞めようかなぁ......とか思っていたりもする。


 リムは無駄な抵抗はしない娘なのだ。


 しかしどうしてこんな状況になってしまったのか。

 その原因は2時間ほど前まで巻き戻る。


 ヘレンおばちゃんからお給金を受け取ったリムは、お金を握りしめて街に出たのだ。

 時刻はお昼を過ぎて夕刻に差し掛かろうといったところで、道中の露店はそれなりに賑わっていた。


 ヘレンおばちゃんからはお給金をもらう時にお弁当までもらってしまった。

 リムはそれを大事にインベントリへと仕舞い込み、景色の良い場所で食べようと考えていた...の、だが。

 街の中では数々の露店が誘惑してくる。リムは景色の良い場所を探すよりも先にそっちの誘惑へと流されてしまったのだ。


 美味しそうな食べ物、可愛いアクセサリ、気になる面白グッズ。

 収集癖のあるリムは、そのたびにお金を握りしめてフラフラと店に近寄って......。


  --ハッ


 だっ、ダメなのだっ!!

 やっと手に入れたお給金、そうやすやすと使ってしまってはいざと言う時の貯えが無くなってしまう。

 そしたらまた、何かあった時にゴハンが食べられなくて詰んでしまうのだ。


 ......。

 け、けど......うん。


 昨日は皿洗いも頑張ったしな、1つだけならきっと罰もあたらないはずなのだ。

 だ、だからな、自分へのご褒美は1つだけ......1つだけにするのだ。


 しかし何を買うかは値段を見てから慎重に決めねば......後でガッカリはしたくないのだ。


  --ゴクリ


「ど、どうしよう......」



 そう思ったら余計に何を買うか悩んでしまうのだ。

 全部...全部欲しいのだ。全部集めたいのだ!


 ぐぬぬぬぬ。



「んぅ?」



 何なのだあれは?


 何を買うか頭を悩ませて歩いていると、路地の隅に何か光るものを見つけたのだ。

 気になって近寄ってみると、落ちているのはどうやらガラス玉のみたいなのだ。むふふ、とってもキラキラしていて奇麗なのだ。


 よしっ、これはリムの宝物にしよう!

 そうだ、このお給金で宝箱を買うと良いかもしれない。この世界で見つけた宝物を箱いっぱいに詰め込むのだ。



「あっ! また落ちてるのだっ!」



 見れば点々と幾つもガラス玉が転がっていた、それを追ってリムはガラス玉を拾い集めていく。

 そうしてガラス玉を拾って行くと、終点には麻袋を担いだ変な男たちが馬車に何かを詰め込んでいる場所だった。

 しかも何故かみんな覆面をしていて、とっても怪しい雰囲気が立ち込めているのだ。


 これは......。リムは関わらない方が良さそうなのだー。


 リムは知っている。こういった雰囲気の場所に出て行くと碌な目にあわない事を。

 なのでゆっくりと後ずさりすると、振り返って逃げ出す事にした......ところで、何故かリムは唐突に意識を失ったのだ。


 そして気が付けばこの状況なのである。

 いったいリムはどうなってしまったのだ?



「おい着いたぞ、積み荷を降ろせ」



 んぅ?

 積み荷?



「んああっ」



 声がしたと思ったら急に浮遊感が襲ってきた。どうも持ち上げられて運ばれてるみたいなのだ。


 ど、どうしよう。

 このままリムは何処かに出荷されてしまうのだろうか?


  --ギィィ


 んぅ? 鉄のこすれる音?

 そして次に襲ってきたのは気持ち悪い浮遊感。



「ふげっ」



 ぬぉぉっ、こ、こいつ、リムを地面に投げ落としたのだ!


  --ガシャン


 それからまた金属がぶつかるような音.....これは扉の音みたいなのだ。

 リ、リムは何処かに閉じ込められてしまったのか?



「んううー」


   --ジタバタ

  --ジタバタ


 ど、どうしよう、動けないのだっ! たっ、助けて、助けてなのだぁぁ!!



「ちょっ、待て待て暴れるな」


「んぅぅっ!?」



 ほ、他に誰か居る!?

 なっ、何かされてしまうのか? リムは何かされてしまうのかっ!?


  --いっ、嫌なのだっ


「んううーっ んうっ んうっ」


「ちょっ、おい待て、いま拘束を解いてやるから」


「んうっ?」



 今、リムの事を助けてくれるって言ったのか?

 誰だかわからんがリムの事を助けてくれるのか!?

 

 よし、それなら暴れてはダメなのだ。リムは大人しくするのだー。


  --ピタッ


「おいおい、さっきまで物凄い暴れてやがったクセにえらい極端な反応だな

 まぁ良いか......どれ、ナイフが無いからちょいと手間取るが、そのまま大人しくしててくれな」

「んぅっ!」



 ふぃぃ~、どこの誰かは知らんが助かったのだー。

 ん...んぅ、ちょっとくすぐったいのだ、んぐぐ...ちょっ、くっ、苦しい、そこを引っ張ったらお腹がっ、お腹がっ!



「んうぅぅっ」


「おっと、すまんすまん」



 ぬふっ、お腹が楽になったのだ。むっ、うむ......お腹が楽になったのだが、ちょっと、そのぅ、そこはお尻なのだが。


  --もじもじ


 い、いや、太もものあたりもグルグル巻きにされているからな、触ってしまうのは仕方ない......我慢するのだ。

 おっ、おおっ、手が動くようになったのだ。でもできれば先に目隠しと猿轡を先に外してほしかったのだが。ぐぬぬ、結び目が硬くて自分ではなかなか解けそうにないのだ。



「あー、そっちから解くべきだったな、わるいわるいちょっと待ってろ」


「んぅ」



 はふぅ~、やっと全部解けたのだ。

 誰かは知らんが助けてくれて感謝なのだ、えーっと男の人だな。短い金髪の青年なのだ。

 青くて奇麗な目がリムを見つめているのだ、まるでさっき拾ったガラス玉みたいだな。



「大丈夫か?」


「う、うむ、助けてくれてありがとうなのだ」


「んー、そうだな。まだ助かったワケじゃないがお礼は受け取っておこう」


「ふへ?」



 そう言われてみれば此処は何処なのだ?

 やけに薄暗いが......まるで。



「ここは牢屋みたいではないか?」


「いや、牢屋なんだけどね」


「......?」


「いや、そんなワケがわからないみたいな顔されても困るんだけど」


「そんな事を言われてもワケが分からないのだ」



 だって牢屋と言ったら悪いことをしたら入れられる場所ではないのか?

 リムは何も悪いことをしていないのだ、とっても良い子にしているのだぞ?


 それなのに、牢屋に入れられるわけがないのだ。



「ワケって、君も捕まって連れてこられたんじゃないのか?」


「捕まって?」



 .......あれ?



「そういえば、なんでリムは此処にいるのだ?」


「なんでって......奴らに捕まったから此処にいるんだろうよ

 それよりその『リム』っていうのは君の名前かい?」


「うんっ、リムは『インベントリム』と言うのだ、リムと呼ぶと良いぞっ」


「いんべん......変わったな名前だな

 長いからお言葉に甘えて『リム』って呼ばせてもらうよ

 僕の事は.......そうだな、フィリスって呼んでくれるか?」


「フィリスだな、わかったのだ」


「ああ、こんな所でなんなんだが、宜しくなリム」


「うむ、それでなんでフィリスはこんなところに捕まっているのだ?」


「いや、こんなとこって、君も捕まっているんだけど」


「.......?」


「いや、......うん、わかった、ちゃんと説明する

 だからそうやって首をかしげるのは辞めてくれ」



 ふむむ。

 そんなことを言われてもリムの首は理解できないと勝手に傾げてしまうのだ。

 確かに説明してくれれば傾げなくなるかもなのだが。


 ......。


 ...。


 そうしてこの場所についてフィリスに説明してもらったのだが。

 その内容はリムが思ってた以上に驚きの内容だったのだ。





 

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