第8話 ローナイト村の秘宝 (5)

「アッシュ、アルナ、セシル、大丈夫か?」

「はい。僕は大丈夫です。」

「私も大丈夫。」

「と、とりあえずは、、」

とりあえず多少の衝撃はあったものの防護魔法は爆発から守ってくれたらしい。急だったから範囲指定が心配だったがなんとか4人を守れるサイズではあった様だ。

だが、外は砂埃で何もわからない。幸いにして落盤はしていなさそうだがどこが崩れているかわからない。今出るのは危険だ。


「砂埃が落ち着くまで少しこの中で待機していようか。この中ならあいつの攻撃も貫通はしないだろう。多分あの魔獣は遠くに吹っ飛んでると思うから少しは安心できるな。」

「ねえ、エリックは?あなたの味方とやらは爆発

から人を守れるの?」

確かに。今の彼女とはいえこの爆発で五体満足の可能性は低いのではないか?エリックとやらを守るのに余計な怪我を負っていないか?

心配がぐるぐると頭を回る。それに合わせて言葉も弱気なものとなっていく。


「大丈夫だと、信じたい。彼女はなんだかんだ頭は回る方だし最低限のダメージに抑えている、、はずだ。」

ああ、ユリは大丈夫だろうか。怪我を負っていないだろうか。あの魔獣に追っかけられていないだろうか。あの男を守って、怪我なんてしていないだろうか。

この5年間離れたことなど一度もない相手が急にいなくなってしまったという不安感が自分を襲う。


足が震え、それに合わせてカチャカチャと背中の荷物が音を立てる。

落ち着かなければ。そう思えば思うほど不安は増していく。



その時、座っていたセシルが急に立ち上がるとこう言い放った。

「ああ!もう!さっきからあなたが弱気になってどうするのよ!?私たちを助けにきてくれたんでしょ!守ってくれるんでしょ!だったらこういう時は多少足が震えていても虚勢でいいから張るものよ?『生きてるから大丈夫』とか『心配はいらない』とかいうものよ?」


そうだった。私たちは彼女たちを助けにきたのだ。そんな時に弱気になって仕舞えば彼女たちも不安になってしまう。よく見れば彼女も足が震え ていた。アルナは俯いてるしアッシュはアルナに声をかけているもののどこか不安そうだ。

虚勢でいいから勢いがなければそれは周りに伝播し、悪いことにしかならない。そう気付かされた。


「そうだな、、。申し訳なかった。じゃあ言い直そう。彼女もエリックも大丈「アザレア〜!!どこ〜?おじさんまた気絶しちゃった〜。息はしてるんだけど〜。」大丈夫そうだな。」

その虚勢を張ろうとした瞬間、結界の外から気の抜けた声が聞こえた。


「おーい、私たちはこっちだぞー。とりあえずそっちも無事か?」

「私は問題ないよ〜。おじさんは気絶したけど特に大きな問題はないと思う。今からそっち行くね〜。」

2人が無事だとわかり、結界の中の空気が緩む。荷物のカチャカチャ音も消え、私とセシルの足の震えも止まった様だ。


「なんとかなりそうね、アルナ。さっきから黙ってるけど大丈夫?」

セシルは俯いているアルナに声をかける。

「セ、セシル?気のせいじゃなければユリさんの後ろの方から何か聞こえるんだけど、、」

「何言ってるのよ。あいつは遠くまで吹っ飛んでったのよ?」

アルナの発言に嫌な予感がした。確かに耳を凝らすと何かの唸り声が聞こえる様な、、、?


「ユリさん?もしかして後ろに何かいたりします?」

同じく嫌な予感がしたのだろうか。アッシュがこっちに向かっているであろうユリに尋ねる。


「あ、うん。あの魔獣が後ろにピッタリくっついて追っかけてくるんだよね。だから「こっちに来るな!」

発言を途中で遮る。


「魔獣がこっちにきたら全員守れるか分からないぞ!?この結界だってそうそう持たないし!」

「いや、もう目の前にいるし今更言われても、、。」

エリックを背負ったユリが結界の前に現れる。


「どうして大事なことを最初に言わないんだ!魔獣に追っかけられてるのに人が多い方に来るな!」

魔獣が追っかけてきてることくらい言って欲しい。何も準備してないし。


「だって〜このおじさんどうにかしないといけないし。」

「そうだけど!もう結界貼り直す魔力残ってないんだから!さっきの時点で言ってくれればポーション飲んだよ!」

魔獣の音からして今からカバン下ろしてポーションを探し当てて飲むのは恐らく間に合わない。

こうなっては仕方ない。


「あんたたち何乳繰り合ってるのよ!あいつもう来るんじゃないの!?どうするの?逃げるの?」

「迎え撃つしかないだろうな。結界の張り直しができない以上一気に決めるしかない。」

「まあそうだね。アザレアは攻撃魔法使えないから今の結界一応維持しといて。それくらいの魔力はあるでしょ?あとそこの俯いてる子?君戦えるよね。手伝って。」

「え!アルナに戦わせ「わ、分かりました。び、微力ながらお手伝いします。」ア、アルナ?大丈夫なの?」「うん。多分。」

アルナが戦える?パッと見て華奢な肉体で魔力もあんまり多くない様に見えるが、、、。ユリが言うならそうなんだろう。アルナも何か自信があるみたいだし。


「よし、じゃあとりあえずあっちに行って!」ガキン!


ユリが後ろから迫っていた魔獣を蹴りで後ろに大きく飛ばす。魔獣のダメージ自体は大きくなさそうだが、少し距離が生まれる。


「じゃあおじさん置いてくからよろしく!アルナは勝手に攻撃していいよ!こっちで合わせるからぁ!」ガァン!

そう言ってユリは結界を蹴り、その反動で魔獣の方に向かう。置いていかれたエリックは多少の傷はあるもののとりあえずは生きている様だ。


「まったく。この結界だって限界はあるんだからな。破れたらどうするんだ。」

「あんたの相方ってなんと言うか、、、自由ね。」

「まあ、ユリさんってテンション高い人みたいですし。」

「いや、いつも高いわけじゃないんだが、、、あれ?アルナはどこに行った?」

「あ!本当だ!どこいったんですかね?出ていった様子もないですし。」

ユリの自由っぷりに呆れているうちに、アルナがどこかへいってしまった様だ。戦える、、、とは言っても何処にいったんだ?


私とアッシュの頭に?マークが浮かぶ中、セシルは心配はしているものの驚きもしていない様子だった。

「アルナなら、、、多分大丈夫よ。長引きさえしなければね。なんてったって」

セシルは少し勿体ぶる様にこう言った。

「今代の“勇者”に負けたことがないんだから。」


ーーーーーーーー


「歴代最強とも言われた勇者よりも強いんですか!?」

アッシュが大声で聞き返した。確かに当時の勇者様は歴代最強とか人の域を超えているとか言われていたし実際すごい強かったが、、、。それよりも強いと?


「まあ、魔物相手にはその辺の国の正規兵より強いってくらいだけどね。アルナは、、人の心が読めるのよ。」

「すごいです!まるで神の寵愛を受けたかの様な!!」

アッシュはさっきから感心しっぱなしだ。確かに人の心を読めるのならば対人戦では有利だろう。だが、それが事実であるならば大きな問題がある。

それはユリの心を読み取られることだ。

騒ぎにならない様にお忍びで旅をしている私たちにとって正体がバレることは非常にまずい。何かいい方法はないか、、?

と考えている間にもアッシュはセシルに質問攻めをしている。


「なるほど!!じゃあ、魔獣の心とかも読めるんですか?それならあの魔獣も倒せるかも!?」

「残念ながら魔獣の心は読めない、、、具体的には種族が違いすぎて何が心かわからないらしいわよ。でも、純粋な腕はあるからそこは問題ないと思うわ。」

魔獣の心が読めないということは上位の存在である魔神の心も読めない、、、という解釈でいいのだろうか?それならばいいけど。


「じゃあなんでそんなに強いのに魔獣と戦わなかったんですか?勇者様に勝てるほどの実力ならば流石に倒せるのでは?」

「確かに。対魔獣戦においては使えない能力を差し引いても十分な強化だと思うんだが。どうして逃げに徹していたんだ?」

「その理由は2つあってね。あの子は敵の視線や注意の外側に入り込んで奇襲する戦い方が得意なのよ。でもあの魔獣は全方位を探知できるみたいで誰かが注意を惹きつけないとダメだったの。しかも、私たちの中にあいつを引きつけられるほど強い人がいなかったから得意な戦法で戦えなかったっていうのが一つ。もう一つは、、」

セシルが少し言い淀んだ。


「言いにくいことなら言わなくていいんだぞ。責めたいわけじゃあない。」

「言いにくいというか、、言うとちょっと恥ずかしいというか、、、その、あの子ってすごい気が弱くて、、。魔獣相手だとどうしても萎縮しちゃうのよね、、。それで昔私に怪我をさせたことを甚く気にしているみたいで。別に跡も残ってないのに未だに『あの時はごめん。』って言ってくるのよ。」

「それって戦闘に問題はないのか?例えば大事な時に手を出せないとかあったりしないか?」

「どうなのかしらね、、。流石にそこまで行くことはないと思うけど、、、」

「だ、大丈夫ですよ!勇者様に勝てるのなら問題ないですって!」

辛気臭くなっている空気を破る様にアッシュが言う。


「まあ、アッシュの言う様に戦闘能力に問題がないんだったら大丈夫だろう。とりあえず今はユリとアルナが勝つのを祈りつつ、、、エリックの傷の手当てでもするか。」

「「忘れてた!!」」

「おいおい、、アッシュはともかくセシルは一応仲間だろ、、。忘れてやるな、、。」

と、完全にエリックについて忘れていたらしい2人にツッコミつつ、エリックの傷の様子を見ることにした。

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