第7話 ローナイト村の秘宝 (4)

「クソッ!どうしてだ!どうしてこんなことに!」


俺らはただ単にうまい仕事があるとしか聞かされていなかった。1週間ついていくだけでで2ヶ月遊んで暮らせるくらいの給料。何か怪しいとは思ったがそもそも依頼人が大学の先生だ。精々金持ちの道楽に付き合わされるだけだと思った。それがどうしてこんなことに、命をかけるようなことになってしまったのか。


「セシル!アルナ!早く奥まで逃げろ!こいつがここにいればしばらくは安全だろ!」

とにかく今はこんな俺より後ろの若い2人を生き残らせるほうが重要だ。未来ある若者をこれ以上減らすわけにはいかない。


「ここまで頑張ってきたあなたを置いて逃げられるわけないじゃない!アルナもそうでしょ!」

「そ、そうですよ。お、置いていけるわけないじゃないですか。ひ、ひ、1人じゃまた犠牲が増えるだけじゃないですか!」

ダメか。彼女たちは逃げてくれないようだ。でもここに3人いたらそれこそ全滅してしまう。


「いや。おじさんには秘策があるんだ。1人にならないと使えないからこれまで使わなかったが、それを使えばなんとかなると思うから早く奥に行きなさい。」

「そ。そんな嘘つかないで、、セ、セシル?う、腕引っ張らないで、、?エリックさんを置いていくの?」

「エリックさん、すいません。ありがとうございます。さ、アルナ。行くよ。」

どうやらセシルがアルナを引っ張ってくれるようだ。そうだ。それでいい。 


横目で2人が離れていっていることを確認すると、俺は再び目の前の“ヤツ”と対峙する。


「先生さんよ。そうなってまで見つけたいものがあったのかい?」

目の前にいるのは俺たちをここまで連れてきた先生、、、その“成れ果て”だ。


あの時。先生が洞窟の壁画に隠された扉を開けた時。その奥にあったのはまさに“秘宝”だった。どうやらそれは金銀財宝の類や魔導書のような文化的に価値のあるものではなく、人に取り憑いて“魔獣”に変えてしまう膨大な“魔力”だったらしい。

その“魔獣”は今、青く揺らめく炎に包まれ、目の様な2つの橙色の炎を灯した姿で俺の前に立っている。


あの2人以外の他の奴らは全て焼き殺された。誰かを犠牲にしなければ逃げる暇すら与えられない。


「さぁて。あの2人が逃げ切るまで時間を稼げればいいが。」

こっちはただの一般人。向こうは“秘宝”とやらで生まれた魔獣。一瞬で自分も灰塵と化すだろう。だがそれでもやらなければいけない。


「オラァ!」

護身用に持っていたナイフを投げる。近づいたら燃やされる以上、遠くから何とかするしかない。


『・・・・』

魔獣は何か呟きながら炎でナイフを溶かし尽くす。ダメージ云々の前にそもそも刃が届かない。


「くっ、、、それでも!」

少し距離を取りつつ、再び持っていたナイフを投擲する。今、攻撃をやめたら間違いなく燃やされる。あの2人のためにも時間を稼がねば、、。


だが、そんな攻撃は無意味だった。結局全てのナイフを燃やし溶かされ、壁際まで押しやられたせいでもう後退はできない。


「ここまで、だな。」

あの2人は逃げ切れるだろうか。俺はここまでみたいだが、まだまだ若いし生きててほしいものだ。


2人の未来を祈りながらゆっくりと目を閉じる。魔獣はこちらに手を伸ばして炎を出そうとしているのがみえた。すぐに燃やされるだろう。痛くないといいな。


その時。

「おじさん!しゃがんで!!早く!!!!」


声が聞こえた。俺は無意識に声の主のいう通りにしゃがみ込んでいた。そして次の瞬間、衝撃波が俺に襲い掛かった。


ーーーーーー

「アッシュ!ついて来れてるか?」

「はい!後ろにはなにもいないです!」

遺跡の反対側にいくために遺跡の階段を全速力で登っている。アッシュもついて来れている様だ。


「アザレアさんその服で階段を走れるのすごいですね!たまに来る教会のシスターよく転んでるのに!」

「慣れればどうってことはないのさ!そろそろ天辺だぞ!周囲の警戒を怠るn」ドン!

周囲に大きな音が響き渡る。おそらくユリが交戦しているのだろう。


「急ぐぞ!」

「はい!」

走る速度を維持しながら頂上の展望台の様な場所に突っ込む。


「ユリ!無事か!!?」

さっきまで自分たちがいた場所から遺跡を挟んでちょうど逆側。そこにはユリと青く燃える魔獣?がちょうど相対しているのが見えた。ユリの後ろには気絶しているのだろうか、倒れて動かない男がいる。

そして、残念なことに今いる場所から逆側に降りる階段は見当たらない。


「こっち側からは降りられそうにないな。ロープ使えないかな?」

どうにかして降りられないか考えていたら、逆側を見ていたアッシュが叫んだ。


「アザレアさん!後ろ!2人走ってます!」

そう言われて後ろの地面を見ると、赤髪の背の高い少女と低い少女が手を繋いで走っているのが見えた。が、その走りは遅く、多少の衰弱を感じさせた。


「何!?例のやつはいるのか?」

「遠くてわかりませんが、、、何となく彼女っぽいです!」

いたならば問題ない。アッシュの初恋の行方を見に来たのにお相手がいないんじゃあダメだ。


「じゃあ、そっちの保護に行くぞ!」

「ユリさんは大丈夫なんですか?」

「あいつは大丈夫。一対一なら絶対に負けない。複数いなければ問題ない。」

でも実際のところ今の彼女ならば複数でも大丈夫だと思う。


「行くぞ!降りる時は重心に気をつけろ!滑って転がったら死ぬぞ!」

「はい!」

そう言って、私とアッシュは来た道を引き返し始めた。


ーーーーー


「痛ったあ、、、」

気がつくと俺はうつ伏せになっていた。どうやらあの時の衝撃で気を失っていたらしい。


「あ?起きましたか?もうちょっと待っててください?出来るだけ動かない様に。」

この声は、、、俺にしゃがめって言った声と同じ声。少し離れたとこ理にいるその姿は背格好と声質からして10代前半くらいの少女だろうか?


「ハァッ!」

その少女が魔獣に蹴りを入れる。魔獣はそれを受け止めて投げようとするも少女抵抗し、逆に魔獣のバランスを崩そうとする。


「アザレアあっち行っちゃったしなあ、、。もうちょいバフかけて貰えばよかった。」

そう呟きつつ、魔獣のバランスを崩すことに成功した彼女はその勢いのまま魔獣を遠くにぶん投げた。


「よし!行きますよ!とりあえず外まで案内しますね!」

「ちょっと待ってくれ!あと2人、いるんだ。さっき逃したんだけどその子たちも、「仲間が保護しにいってます。なので大丈夫ですよ。さて、反対側まで走りますよ!あいつは私が対応するので何も考えずに全速力でお願いします。」

魔獣を一瞥しながら彼女はそう言った。


「ああ。ありがとう。行こうか。」

そう言って俺は彼女の前に出て全速力で走り出した。


ーーーーーーー


「おい!そこの2人!大丈夫か?」

おそらくあの魔獣から逃げてきたであろう2人に声をかける。2人はこちらの声に気づいた様だが、何か様子がおかしい。何かに怯えている?とりあえず安心させないといけない。



「僕たちは貴女方をを助けに来ました!そんなにおびえなくて、、「エリックを殺して私達まで殺すの?騙されないわよ!!」

背の高い方はアッシュの言葉を遮ってそう言った。背の低い方は高い方の影に隠れている。

どうやら2人とも混乱しているらしい。まあ、化け物に追いかけられてほとんど休憩も取れていないところに突然人間が2人も現れたらそりゃ混乱する。自分もしない自信はない。


「魔獣が化けているとしてもこんな聖職者然とした魔獣とその辺の村人風な魔獣なんていないだろ?」

「その辺の村人はともかく、お前みたいな粗暴な口調で身軽な聖職者がいるわけないだろ!本当に聖職者なら回復魔法の1つや2つ使ってみろよ!!」

「これでどうだ?ほいっ。」

混乱しているとはいえちょっとカチンと来たので無詠唱で簡単な回復魔法を彼女たちにかける。これで多少落ち着いてくれれば良いが。


「え?本当に使えた?じゃあ本当に助けにきてくれたの?」

「最初から言っているだろう。ほら、この坊主に見覚えはないか?」

思い出させるために、アッシュを自分の前に引っ張り出す。


「え、あ、その、、、。セシルさんとアルナさんでしたよね。ちょっと前にローナイト村にお泊まりになった際に「ああ!あのアルナに熱い視線を釘付けにしていたあの子供ね!思い出した!ほら!アルナ?あの食事中にあなたをガン見していたあのガキよ!覚えてる?」

「え?あ、うん。一応、、。」

ちょっと酷い言いようだなこの背の高いセシルとかいう女、、、。単に口が悪いだけなのかはたまた悪意でもあるのか、、、?あとアルナはセシルの影に隠れてないでもうちょっと

まあ、そんなことよりとりあえずここから逃さないと。ユリはあの男を連れてこっちに来るだろうし。その時にあの“魔獣“も連れてくるだろうから。


「じゃあ行こうか。走れるか?」

「私は大丈夫。あ、ちょっと待って!あの魔獣は出口に近づくと転移して襲ってくるのよ?大丈夫なの?」

「私の仲間が抑えてくれている筈だ。そうでなくと私がこの3人を守れるくらいは出来る。」

だって、あの魔王の魔力を耐えたんだから。別にあの魔獣の攻撃くらい十分に防げる。

「本当かしら。まあ、そこまで言い切る自信があるなら、回復させてくれたし信用してあげるわ。それでエリックは?エリックはどうなったの?」

エリック?知らないが多分ユリの後ろで倒れてた男の事だろう。


「あっちにいた男なら私の仲間が保護してこっちに向かっているはずだ。」

「ああ、よかったぁ。3人だけでも助かるのね。」

セシルは心から安心した様子でそう呟く。なんだかんだ根はいいやつなのかもしれない。


「あの、あの、先生、、いや魔獣はどうなったんですか?」

セシルの後ろに隠れていたアルナがそう問いかけてきた。


「多分ユリを追っかけているんじゃないか?」

あの男を守りながらだから倒せてはいないだろうがダメージを与えつつ男を逃がそうとしているだろう。


「え?それじゃあ、、、。」

「あ、ユリと言うのは私の仲間の名前だ。可愛い名だろう?ちなみに私はアザレアという。」

「あの魔獣、、もうすぐここにくるんじゃないですか?」

「恐らくは。だから早く行くぞ。」

この子はこの子で当たり前のことを聞いてくる。そりゃあ向こうも出口を目指している以上はこっちにくるだろうに。

だが、答えた瞬間、アルナの顔が急に青ざめたかと思うとこう言った。


「こっち側は窪地になっていて足元に可燃性ガスがたまってるんです。だからあいつがくると恐らく爆発します!」

は?それはヤバい。洞窟内での爆発で落盤でもした日には助かりっこなくなるしそもそも爆風をまともに食らったらよくて即死悪くて魔獣の餌食だ。


「走るぞ!」

そう言おうとした瞬間。後ろから最悪にタイミングが悪い声が聞こえた。


「おーい!アザレア!アッシュ!おじさん連れてきたから早く走って逃げて〜!魔獣に追いつかれちゃ「ユリは飛べ!プロテクション!」


‘魔獣’。その単語が出た瞬間、私達4人を守るために防護魔法を唱え、ユリには飛んで爆風から距離を取る様に指示した。

そして、防護魔法が私たちを覆った瞬間。可燃性ガスは魔獣の炎と反応し、爆発を起こした。

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