第4話 ローナイト村の秘宝 (1)

とある洞窟。この山岳地帯には数多くの洞窟があり、ここもその一つに過ぎない。特に山深い場所にあるこの洞窟は本来、野生動物すらほとんど訪れない。しかし、その洞窟の奥には今、何人かの人間がいた。


「親方ぁ。ついにわっしらの夢が叶うんですね!」


そう話すのはいかにもお偉いさんの腰巾着と言った中年。その周りには荷運び役の若人を3人ほど従わせていた。

そして、この中年が話しかけた「親方」はいま、何もない壁に向かっている人物のようである。


「ああ、皆!ここまでありがとう!あとはこれをこうすれば、、」


「親方」と呼ばれた人物は壁に魔法陣を描くとそこに魔力を流し込み始める。彼はまだ30歳くらいのいかにも学者然とした格好の男性である。


「これで開くはずだ!」


ガチャリ。


そのような音とともにただの壁だったはずの岩が開いていく。「親方」は後ろを振り向きながら嬉しそうな声を上げる。


「やった!秘宝がついに私の手に!!我が家の長年の夢がついに叶った!みんなの助力のおかげだ!あれ?みんなどうした?もっと喜んでいいんだぞ!?」


 「親方」は困惑していた。というのも、振り向いた「親方」が見たのは後ろを指差しながら凍りついているかのように動かない4人の姿であったからである。


「お前ら!喜び過ぎて声もで「親方!!後ろに何か!!いる!!」


中年が「親方」の言葉を遮りながら恐怖を浮かべた顔で叫んだ。


「後ろに何かって、、。こんなところに何がい、、、」


言葉を遮られたことに不満げな「親方」はそう言いながら後ろを振り向くが、後ろを見た瞬間、他の4人のように凍りついてしまう。


というのも、そこにあったのは金銀財宝や高価な武具などではなくただ青色に燃え盛る人型の炎であったからだ。


振り向いた次の瞬間、その炎は「親方」に向けて手を伸ばす。


「お、お前は、、一体、うわああああ!!」


「親方」の叫びが洞窟に響いた。



ーーーーーー


「アザレア?次の村の名前なんでしたっけ?」

「ローナイト村ですね。穀物が名産品だそうで。」

「へー。美味しいパンでも食べられるといいですね。」

「そうですね〜。ユリが『川で泳ぐ!』って言って飛び込んだ瞬間に流されなければ今頃についたんですよ〜。」

「あはは、まさかこの体があんなに重いとは思わなくて、、。現実侵食に水が絡むとすごい難しいことも知らなかったし、、、、ごめんなさい!」

「大きな街道通れなくてただでさえ時間かかっているんですから、、。ほら、急ぎますよ。」


出発してから2ヶ月が経った。大きい町に入れないということは大きな街道を通れないため、基本的には森の中の小道を進むことが多い。だから寄り道は控えめにしたいと思っていたが、、


「アザレア!あそこに見たことない木の実が!」

「またですか!あれは毒入ってますから食べれませんよ!ほら!日が落ちるまでにローナイト村に着きたいんですから!」


こうである。この勇者、寄り道が非常に多い。前の時はそんなことはなかったのに。本人曰く「前の時はできるだけ早く魔王を倒さないといけな勝ったから我慢していたんです。」とのこと。


「アザレア!アザレア!」

「今度はなんですか!?いいから早くローナイト村に行きますよ!」

「あっちで悲鳴が聞こえた。行くよ!」

と言いったっきり、勇者は駆け出して行ってしまった。


「全く、いきなり何なんですか、、。こんな辺境の村と村の間にそうそう人なんて、、」

「アザレアー!早く!人が倒れてます!」

「いるんかい!はいはい!今いくよ!」


人がいるため、カモフラージュ用の口調に切り替える。


「きた!回復魔法お願い!」


倒れていたのは13歳くらいのまだあどけない少年だった。頭から少し血が流れているが、それ以外に大きな傷はだそうだ。

このくらいなら1番単純な回復魔法で十分だろう。


「はーい。任せな!回復<<キュア>>。」


回復魔法を唱えると効果はすぐに現れ、頭の出血は止まった。


「とりあえずこれで怪我は大丈夫だね。とりあえず近くのローナイト村に運ぼうか。」

「わかりました。私が持ちますからアザレアは周囲の警戒を。」

「あいよ。」


警戒とは言ってもこの辺りは魔獣も少なく、平和だからどちらかというと村までの最短経路を考える方が大事そうだ。


結局、特に何も道中に問題は起きず、1時間ぐらいでローナイト村に到着した。


ーーーーーーーーーー


「アッシュ!無事だったか!」


ローナイト村に入ると、村の入り口近くにいた一人の男性がこちらに向かって来た。


「アッシュ!アッシュ!よかった息はある。早く運ぶぞ!あ、運んでくださった旅の方ありがとうございます。あとでお礼をいたしますので少し待っててください!」

その男性はこう捲し立てた後にユリから少年を受け取ると走って行ってしまった。


「え?今の何?」

「つい渡しちゃいましたけどどちらですか?」


などと困惑しているとまた別の男、さっきの男と少し顔立ちが似ている、が声をかけて来た。


「うちの兄がすいません。アッシュをわざわざ運んでくれてありがとうございます。」


「ああ、こちらこそ道端で倒れていた彼、アッシュさんを見かけただけですから。」


「2、3日家に帰って来なかったので兄は彼のことを心配していたんですよ。子供のことを愛しているのはいいことなんですが、いまだに子離れできないのは流石に、、、。」


「まあ、子を愛する気持ちは暴走しがちですから。ああ、この村に泊まれる場所ってありますか?」


「うちが宿屋をやっていますからご案内しますね。ええと、お名前は?」


「私がユリで」「あたしがアザレアってんだ。」


「ユリさんとアザレアさんですね。私はアルベルトと申します。では行きましょうか。」


「お願いします。アザレア、行きますよ。」

「言われなくてもわかってるよ。」


ーーーーーーーー


宿屋、とはいうもののこのような辺境の村では最低限の部屋とベッドくらいしかついていない。都会であれば様々なグレードの部屋があるが精々役人か行商人が1泊くらいしかしないので設備が豪華である必要がないのだ。


夜になり、私とユリは宿屋一階の酒場で食事を取ることにした。どうやら昼間助けたアッシュのお父様が切り盛りしているらしい。

「おっちゃん!鶏肉2人前と酒お願い!」

「あ、私は水で。」

「あ、昼間はありがとうございました。うちの息子がお世話になりまして、、。お詫びにウチで一番うまい鶏肉を1番うまく料理するからちょっと待ってて下さいな!」

というと、お父様は豪快に鶏肉を焼き始めた。


出来上がりまでそこそこかかるらしいので椅子に座って飲み物を飲みながらくるのを待つことにした。


「ああ゛〜。酒は疲れた体に効くね゛〜。」

「ちょっとお下品ですよ。アザレア。」


ユリに窘められたがそもそも疲れたのはユリが道草食ってたせいなのだ。ちょっとくらい文句言ってもバチは当たらないだろう。


「ユリが寄り道なんかするからすっかり腹ペコだよ。」

「まあ、そのかわりアッシュさんを助けられたんだからいいじゃないですか。」

「まあ、そうだけど、、、あ!そのアッシュ!いた!」


ユリから少し目線をずらした時、そのアッシュがちょうど目の前にいた。まだ体調は万全ではないのか少し顔色は悪いようだ。


「おおー!アッシュ!元気になったか?」

「ああ、もうダル絡みしてぇ、、。あ、私がユリで、こっちがアザレアです。今日森で倒れてたあなたをここまで連れて来たものです。」

「あ、ありがとうございます。」

「お礼はいいんだよ。それよりどうしてあんなところにいたんだい?好きな女の子のプレゼントでも探してたかい?」

そりゃあんんなところにいたんだからそりゃ何かあったに決まっているなぁ??

「ああ、お酒が入ると毎回決まってこうなるんだから、、、。昔っから変わりませんね、アザレアも。」

「あ、そのことであとでちょっとお話があるんですけどいいですか?」

お話ぃ?そりゃ思春期の男の子がする話と言ったらそりゃアレしかないっしょ!

「いいよぉ!何だい?好きな女の子にh、アブシ!」

痛ったぁ!何なんだ急に。

「アザレアさ〜ん?そこまでですよ。それ以上言ったら、、わかってますよね?」

この痛みの原因はユリの手刀か、、。どうやら酒に呑まれて変なことを口走っていたところを助けてくれたみたいだ。

「お前の手刀は相変わらず威力が高いなぁ。わかったよ。そっちで話してな。こっちで酒飲んでるから。おっちゃん!もう一杯!」

「飲み過ぎはダメですよ!!」

「分かってるって!」


その後、鶏肉が来るまでの間私は酒を飲み続け、ユリとアッシュは向こうで話し続けていた。


ーーーーーーーーーー


「ああ、美味かったです〜!」


まさか鶏肉を焼いてスパイスをかけただけなのにあんなに美味しくなるとは思わなかった。あのおじさんの腕は超一流だ。


「確かに美味しかったですね。また食べに来たいものです。」

「元に戻れたらまた来ましょうね〜。」

「まだ酔ってますね?明日に影響でないでしょうね??あ、そろそろ時間ですね。」

「何のですか〜?」

「アッシュさんですよ。お話があるとか何とかでそろそろ来るらしい、、」 


コンコン


「あ、来たみたいですね。どうぞ〜。」

「し、失礼します。」

「そんなに固くならなくていいぞ〜。」

「まだ酔ってますねこの人は、、。で、お話とは何ですか?」

とユリが言った途端アッシュは頭を下げてこう言いました。


「頼む!アイツを!アイツを助けてくれ!」



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