第3話 5年前 (3)
「で、何があったか説明していただけないでしょうか。」
とりあえず目の前の色々知っていそうな勇者に尋ねる。
「逆に聖職者さんはどこまで覚えていますか?それによって内容も変わってくるのですが。」
「えーと、魔王を倒して、、魔力に包まれて、、、魔力反射<<リフレクト>>を発動させて、、どうなったんでしたっけ?」
「ではその後を説明しましょうか。魔王の体から放たれた魔力に包まれたとき、何かが体に干渉している感覚がありました。おそらく何か呪いのようなものを受けたのでしょう。その後、気がつくと体がこんな女の子になっていました。女剣士さんと魔術師さんは、、お亡くなりになっていました。あの魔力には耐えられなかったのかもしれません。」
「亡くなられたんですね。ああ、、主よ、、。」
名前を知らないとはいえ旅の間一緒にいた仲間だ。冥福を祈らずにはいられなかった。
「一回休憩しますか?」
勇者が優しく聞いてくる。
「いいえ、大丈夫です。続けてください。」
「そうですか。その後は倒れているあなたを見つけたので解放しようと思ってここまでテレポートして来ました。」
「そうですか。わざわざ助けてくださってありがとうございます。ただ、、ここはどこですか?家の中の様ですが。」
「ここは僕の実家の近くの廃村です。聖職者さんを介抱するならもっといい場所の方がいいんでしょうけど、ちょっと今の僕では人の住んでいるところには行けなくて、、、。」
「何でですか?別に怪しいところは何も、、。」
「今の僕は人間じゃないんですよ。」
人間じゃない?邪な気は感じないし別に普通に見えるけど、、、?
「は、はい?どっからどう見ても、、」
「実は現実侵食能力によって人間の少女に見せているだけで実際の自分は魔獣の一種、、おそらく“魔神”と呼ばれる存在になっているのではないかと思うのです。」
「魔神?御伽噺とかによく登場するあの?」
「はい。魔獣を生み出す原因の一つではないかと言われているあの魔神です。」
魔神。詳しくは知らないが、御伽話ではよく悪者にされている存在である。有名な御伽噺では魔獣の元凶として位置付けられている。
「邪な魔力も感じませんし別に普通の人間に見えますが、、?」
「現実侵食能力で抑えてるだけですよ。少し能力を弱めただけでも、、、ほら。」
その瞬間、強い不快感と吐き気を覚える。
「こんな感じで周りに悪影響が、、、ああ、やり過ぎちゃいましたか?」
あ、やばい、これ無理。抑えないとやばい!
「いえ、だいじょうヴェエエエ」
「ああ、、ああああ、本当にすいません。今拭くもの持ってくるのでちょっと待っててください。」
「桶かなんかオグェエエエ」
吐いても吐いても気分が良くならない。というのも出てるのは胃の内容物ではなく自身の魔力であり、あのおかしい魔力に当てられた分を排出しないとこれは治らないやつ、、!
「本当にだ、大丈夫ですか?」
「ああ、多分そろそろオグヴェエエエ」
「本当に!?本当に大丈夫!?ですか!!??」
「大丈夫!一通り吐けヴァグォブェエエエ」
「魔力の流出とはいえ流石に出過ぎじゃないですか!?本当に命の危険はないんですか!!?」
「あ、もう大丈夫です。一通り吐き切りましたから。」
魔力が当てられただけなのでその魔力さえ出して仕舞えばどうってことはなくなる。
「そんなにパニックにならなくても大丈夫ですよ勇者様。で、どこまで話しましたっけ?」
「切り替え早いですね。本当に大丈夫なんですか?」
「あ、はい。また勇者様が“あんなこと”しなければ大丈夫ですよ。」
「すいません、、、。」
「そんなに気になさらなくても大丈夫ですよ。魔力吐きとかよくあるじゃないですか。」
一部の魔力の淀んだ空間ではよくあることだし、冒険の途中で何回か経験したことだからそこまで気にしなくてもいいのに。
「それよりも続き。お願いします。」
「どこまで話しましたっけ、、えーと、、僕が人じゃなくなったところからですね。それで、現実侵食能力は主要な町だと結界に阻まれて使えないのでそういうところにはいけないんですよ。結界のない小さなところはコミュニティが小さいから忍び込めませんし。」
「別にバレても良くないですか?勇者様ならどうとでもなるでしょう。」
「今のこの状態考えてください?こんな魔神なんか実験施設で実験隊になるか処刑されるかのどちらかしかないですよ?そもそも僕が勇者だった信じてもらえなかったら討伐対象でしょうし、そうなると一緒にいるあなたもまとめて襲われてしまいますし、、。やっぱり勇者として愛する人を襲われるのが許せないですし。」
え?今愛する人って言った?勇者様って出身国の姫様とイチャラブカップルって聞いたけど、、、?
「愛する人って、、勇者様って出身国の姫様と婚約してませんでした?」
「あれ政略結婚ですし、姫様好きな人別にいらっしゃるので今頃行方不明と聞いて喜んでるんじゃないですか?」
「え?じゃあ、、私のことが勇者様はおすきだと、、、?」
「え、あ、はい。そうです。」
勇者は自分が何を言ったか気づいたのか顔を赤らめながらこう返して来た。
「あっ、、。聖職者さんは僕のことが実はお嫌、、「大好きに決まってるじゃないですか!異性として、いや今は同性ですけど、愛してますよ!」
「え!???」
「あ!???」
言っちゃった!言っちゃったよ!!
2人の間を無言の時間が流れる。勇者も、おそらく私も目を合わせられず、顔を真っ赤にしている。
「ふ、ふつつかものですか!よろしくお願いします!勇者様!」
「あ、は、はひぃ!よろしくお願いします!聖職者、、、いや!本名を教えてください!」
「あ、アザレアと申しましゅ!」
「僕は、、ユリと申します!よろしくお願いします!!!」
勇者様、、ユリっていうんだ、、、。初めて名前知った、、、。
「ユリさん、、、」
「アザレアさん、、、」
名前を知ってからもっと狂おしいほど好きになっていくのがわかる。ああ、触れたい、体温を感じたい、、。
「こ、これからどうしましょうか!?ゆりさん!?」
「あ、ああ。。とりあえず自分への負荷を抑えながらやばい魔力を垂れ流さないようにする練習がしたいですし、聖職者さんもお疲れでしょうからしばらくこの廃屋で過ごしましょうか、、!。」
「は、はい!まるで新婚旅行みたい、、、。」
「し、新婚旅行!!」
「え、はっ、そんな、私ったら、、、」
「と、とりあえずご飯にしましょう!」
「あ、はい!」
結局その日から3日くらいは何かするたびに顔が赤くなって仕事が手につきませんでした。
ーーーーーーーーーーー
あれから1週間くらい経って、ようやく勇者との新婚生活も慣れて来ました。
私思うんです。勇者と私が一緒にいれるようになったのは嬉しいですけどもう彼、いや彼女は人間ではなくなってしまいました。これからそこについてはどうすればいいのか彼女に聞こうとしたところ、彼女の方から大事な話があると言われました。
「単刀直入にいうと魔王城へ戻りたいと思います。」
「え?何でよりによってですか?ここからすごい遠いですよ?」
「恐らくですが、僕が元に戻るためには魔王の魔力を解析しないといけないんですよ。でも、今のこの魔力は魔王の魔力と元の僕の魔力が混ざったものなので解析しても意味がないんですね。だから、もう一度行かないといけないんですよ。」
「じゃあ早速行きましょうか。テレポートでひとっ飛びしてさっさといきましょう。」
それならほぼ一瞬で帰ってこれる。解析は勇者様の方が詳しそうだしそっちに任せればいい。
「いや、、テレポートは予め登録してないといけないので使えないんですよね。」
「じゃあ歩きですか?」
「まあ、そうなりますね。」
「仕方ないですね。いつ出発します?明後日くらいには行けません?」
行けないのは仕方がない。だったら早く行った方がいいに決まっている。
「この地方はこれから冬なのでまともに外を歩けません。雪解けしてからですね。」
「結構先ですね。じゃあそれまで、、、一緒に暮らせますね。」
この地方の冬はきついらしいが勇者様と一緒だし何とかなるでしょう。なので冬さえ終われば行くだけですね。
「じゃあ、とりあえず薪割りましょうか。」
「あ、はい。お手伝いします。」
この時の私は知らなかった。この地方の冬は3年くらい続くものということを。
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3年後。ようやく冬も終わり、長い春が始まる。勇者様曰く、春は5年くらいあるとか。
「じゃあいきましょうか、ユリ。」
3年間は非常に長く、その間に私たちは名前で呼び合える仲になっていた。
「実はそのことなんですけど、、、なんか近くで戦争が始まったみたいで、、、。峠が通れないらしいんですよね。」
「え?」
今なんて?
「峠を迂回する道は山脈越えしかないけど危なすぎるから通れるようになるまで延期ですね。」
「え?今初めて聞きましたよ!?ていうかどうやって知ったんですか?」
「この体の練習がてら散歩しに行ったら始まってました。」
「え?じゃあこの干し肉とかは、、、?」
「まあ、1年くらいは持つんじゃないですか?」
「そんな〜〜、、。せっかくの準備が、、、」
何で人は戦争するんでしょうね。
ーーーーーーーーー
それから1年後。ようやく峠も通れるようになったようなのでついに出発です。
「さあ、行きましょうか、ユリ!」
「その前に一ついいですか?」
「何でしょう?また戦争ですか?」
また戦争で足止めはごめん被る。せっかく勇者様が元の戻れるというのに邪魔する国は許せない。
「いえ、申し訳ないのですが、目立たないように髪の毛の色を染めていただけないかと。」
「ああ、黒い髪の聖職者とか私くらいしかないですしね。4年経って生きてることがわかったら間違いなく面倒くさいですからね。」
「赤とかなら一般的な色じゃないですか?名前の方はどうですか?変えた方が良かったりします?」
赤か、、確かにいいかもしれない。
「いえ、アザレアはよくある名前なので問題ないですね。勇者様こそぽろっと喋ったりしないでくださいよ?」
「大丈夫ですって。僕はそういうのしっかりしてる方ですから。」
「じゃあ魔法でささっと変えますね。魔力被覆<<コーティング>>。」
髪の毛を魔力で包み、他人から見ると赤色になるように調整する。
「どうですか?」
「大丈夫ですね。問題ないと思います。」
「あ、そうだ。ついでに口調も変えときますね。流石にここまで変えればバレやしないだろうさ。」
「アザレアにはそれ似合ってないですよ。ハハハハ。」
勇者は面白そうに笑う。
「別にいいじゃないですかぁ、、。こういう人かっこいいじゃないですか、、。」
「確かにそこまですれば怪しまれないかもしれませんね。じゃあ行きましょうか。アザレア。」
「はい。行きましょうか。ユリ。」
「そこは『行こうか。』じゃないんですか?口調帰るんじゃないんですか?」
「ユリの前では素の口調で喋ったっていいじゃないですか!」
だって、ユリには素の自分を見て欲しいから。
「ふふっ。ちょっとした意地悪ですよ。アザレアはどっちも可愛いですから。」
「可愛いだなんて、そんな、、。じゃあ褒めてくれたところで!行きましょう!ユリ。」
「ええ。行きましょう!アザレア。」
ーーーーーーーーー
これが私たちの旅の始まり。魔王城までの2回目の旅。
そして、私のあの子との最後の旅。
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