第2話 5年前 (2)

「うう、、、」

爆発からどれだけ経ったのだろうか。私を中心とする1mくらいの範囲は魔力反射外の魔法のおかげで外の魔力に侵食されていない。しかし、その外側は外の魔力で全く見えない。

まず、体の傷を確認する。手と足は、、、付いているようだ。細かい擦り傷はあるものの、致命的な傷はない。

「何が、、何があったのでしょう?」

一回思い出してみよう。あの時、倒したはずの魔王の死体から急に魔力が溢れてきて、、魔力反射をみんなに貼ろうとして、、そのあと衝撃で体が浮いてから叩きつけられて、、、。そこから先は気を失ったので覚えていない。

「魔法が間に合っていればいいのですが、、、。」

奇跡的に間に合っていると信じたいが、おそらく間に合っていない。しかし、間に合っていないと認識してしまえば、3人の生存を諦めることになってしまう。せめて、この魔力が晴れるまでは信じていたい。

が、そこにも問題がある。

「この魔力はいつ晴れるのでしょう?」

どれくらい気絶していたかはわからないが、魔力反射の魔法自体は数日間は有効のはずである。ただ、自分は水も食料も持ち合わせていない。晴れる前に餓死してしまっては意味がない。



と、その時。周囲の魔力が勢いよく吸い込まれていくような動きを見せた。魔力の減少により視界も開けていく。

勇者様が壁に穴でも開けたのかもしれないと思った私は魔力が吸い込まれていく方向を見た。



すると、そこには2匹の魔獣がいた。


「ひぃっ!そ、そんな、、、。」


片方は狼のような魔獣、もう片方はフクロウのような魔獣である。しかし、驚いたのはそこではなく、、


「せ、戦士さんと魔術師さん!?どうして、、、」

狼のような魔獣には女戦士のつけていた鎧が外骨格のように張り付いており、フクロウのような魔獣は目の色が魔道士の杖にある魔石と同じ色であった。


「そんな、、後は帰るだけだったのに、、。ゆ、勇者様?勇者様は!?」

魔力に巻き込まれた3人のうち勇者のみ見つけられていないことに気づいた。


そして、魔力が完全に何かに吸い込まれ、視界がクリアになる。


「あ、ああ、あああああああああ!」


見た。見えた。見えてしまった。

そこには“何か”がいた。“何か”がそこにはいた。名状し難き“何か”がいた。3次元の存在に過ぎない人間の目ではその全容を解き明かすことは能わず、認識しただけで発狂してもおかしくない存在。3次元空間に無理やり高次元の物体を顕現させているかのような、いや実際に顕現しているのかもしれない、存在があった。

「ゆ、ゆ、ゆゆ、ゆーしゃ、さま?」

が、精神はギリギリで踏みとどまってしまっていた。あの存在が勇者であると確信したから、勇者はそこにいると思ったからだった。

が、だからといって何もできない。

勇者はどうなったのか?どうすればいいのか?何を行えばいいのか?そもそもあれは何なのか?

何もわからない。何も考えられない。何も考えたくない。これは夢だ。一回寝ればまた元に戻るはず。

そう思いながら私は意識を手放していく。薄れゆく意識の中、2匹の魔獣が“何か”に喰われていくのが見えたが、もう何も思えなかった。


ーーーーーーーー

“何か”と聖職者しかいなくなった空間。2匹の魔獣を喰らった“何か”はさらなる食べ物を求めて動き出し、聖職者の方を“見た”。その瞬間、“何か”は“蠢き出す”。空間をねじ曲げるように、時間を折り曲げるように、次元を折りたたむように見えたその動きはすぐに止まった。

そして、“何か“はその姿を変えていく。高次元の存在から3次元の存在へと。

そして、一瞬暗黒に包まれたかと思うと次に現れたのは小さな少女であった。長い白髪と赤い目をした少女は倒れている聖職者に近づくとその隣に座って目を閉じた。

次の瞬間、魔王城から2人の姿は消え、静寂のみがそこには遺されていた。


ーーーーーー

「う、うーん」

意識がゆっくりと覚醒していく。ここはどこだろう?確か魔王城に入って、みんなが戦って、、、。

「聖職者さん?起きたんですか??」

この声は、、?女の子の声のようだけれど何処と無くどこかで聞いたことのあるような、、?

「まだちょっとお眠ですかね?聖職者さーん?」

目の焦点がだんだんと風景に合っていく。

「もう朝ですよ〜?3日くらい寝てましたから回復が遅いのもしょうがないですけど、、。」

みっか、、3日!?

「私そんなに寝てたんですか!?」

「ええ、そうですよ。起きないから頭でも打ったんじゃないかと心配していたんですから?」

私は驚きながらもその声の方へ体を向ける。

「ああ、ありがとうございます。」

そこにいたのは華奢な女の子だった。髪の毛は地面につくくらい長い白髪で目はまるで血のような赤色。顔つきは幼く、未だ親の庇護下にいるくらいの年齢に見えた。

おそらくトラップか何かでどこかに飛ばされたのだろう。親御さんに挨拶をして早く勇者様と合流しなくては。

「お父様かお母様はいらっしゃいますか?お礼を申し上げたいので。」

「あ、その必要はありません。僕にはそういう関係の人は今はいないので。」

今はいない?孤児なのだろうか?

「あ、まだ気づきませんか?こんな姿になってしまいましたが、勇者です。ここまであなたを移動させたのも僕ですよ。」

え?今なんて?

「あら、まだ信じられないって顔していますね。聖職者さん。名前は存じてはいませんが年齢は16歳。王都西18区出身で家族構成は両親、兄と弟が一人ずつ。スリーサイズは上から6」

「あー!!あーー!!分かりましたって!とりあえず信じられないですけどあなたは勇者様なんですね?」

私がそう尋ねると勇者様、、目の前の少女は笑いながらこう答えた。

「そうですよ。」

さらに満面の笑みで彼女は言った。

「僕は嘘なんかつかないですから。」

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