第1話 5年前 (1)

魔王と勇者。其れ等は対をなすとされる存在。


魔王。それは「正常な生物」に害をなし、「魔獣」に変え、それらに力を与える存在。この世界のヒトの歴史において、おおよそ500年に一度現れる存在。


勇者。それは魔王と対をなす存在。「正常な生物」を強化し、「魔獣」の力を削ぐことのできる存在。魔王が現れた時、「勇者」に最も適した人間が何者かに「選ばれた」存在。時に一人で、時に仲間と共に、魔王を討伐する存在。


この2つが対をなす存在と言われるのは歴史上魔王を倒した後に勇者は生きて帰ったことがなく、それが対消滅に例えられたからである。


実際のところがどうであれ、勇者が生きて帰ってきたことはない。それでも、だとしても、愛する人のため、民衆のため、信仰のため、世界のため、「勇者」は往く。魔王を倒すために。信じたもののところへ還るために。


◇◇◇◇◇


魔王の所在地である魔王城は野生動物ですら近寄らないが今、門の前に4人の人影があった。

「これが魔王城ねぇ。全体的に黒くてトゲトゲして、、、悪趣味なデザインしてるねぇ。」

そう言ったのは、首から下に赤い鎧を身につけ、腰に大きな剣をぶら下げた女剣士。

「あんまり人様のセンスを悪くいうもんじゃないぜ。とは言ってもこれは流石におじさんの好みではないがな。」

そう返したのは黒いローブを羽織り、腰ほどまである杖を持った中年魔術師。

「ま、まあ。好みは人それぞれですからいいんじゃないですか?こういうトゲトゲした感じ悪くないと思いますよ。そ、そう思いますよね?勇者様?」

と、無理やりフォローしたのは長い黒髪を持った聖職者。

「センスは悪いと思いますよ。威圧感、という意味での装飾なら、、、それでも悪いですね。さ、皆さん行きますよ。僕たちは魔王城のセンス判定にきたわけじゃないんですから。」

と、聖職者のフォローをバッサリ切ったのは見た目はまだ少年だが、魔王の配下を数多く倒してきた勇者。

「ああ、扉蹴破るぜ!下がってな!」

「おじさんの魔法であけれ「オラァ!!」」

魔術師が解錠の魔法を使う前に女剣士が扉を蹴ると、鍵がかかっていなかったように難なく扉は開いた。

「相変わらずバーサーカーみたいな筋力してるなぁお前。」

「お前は一言多いんだよ!」

「魔術師さんも剣士さんも喧嘩しないでください。さ、行きますよ。」

「「「ああ(うーい)(はい)!」」」

そして、4人は魔王城の中へ入っていった。


ーーーーーーーーー

扉を開けると外観と同じようなトゲトゲや豪華なシャンデリアのある大広間があった。そして、その奥には豪華な玉座があり、そこに魔王は座っていた。

「あれが、魔王ですか??」

その姿は一見人間と変わらないかのように見えたが、よくみると異様なものであった。顔面は仮面で隠されているためわからないが、目が青く光っておりただの生物ではないことを伺わせる。体には黒いインナーの上に黒いローブをかけ、手には黒い手袋をはめていた。そして、最も人と違うのは背中から生えている2本の巨大な腕であった。その2本の腕はうっすらと青色に光っており、魔力を帯びている。

「おい、魔王!そんなとこでふんぞり返ってないでこっちに来な!やるよ!」

女騎士が剣を構えながら叫ぶ。魔王はそれに何も答えずに巨大な腕に魔力を集中させ、魔力を打ち出そうとしていた。

「それが答えってか!行くよ!勇者!」

「はい!魔術師さんと聖職者さんはフォローお願いします。」

「おじさんに任せな。」「は、はいぃ!」

それに対応するように4人はいつものフォーメーションを組む。そして、魔王と勇者の最後の戦闘が始まった。


ーーーーーーー

「魔力反射<<リフレクト>>!」

聖職者は声を上げる。魔王は魔法を多く使うため、攻撃は当たらないように、当たっても威力を打ち消せるような魔法を常にかけ続けねばならなかった。

(これが最後の戦い。これが終わったら勇者様は姫様とご結婚なさるのですね。)

勇者は元はとある国の姫の従者のうちの一人であった。勇者が勇者として選ばれた時、もともと恋仲であった姫にプロポーズしたと聞いていた。

(このたびが終わってしまったら、私は教会に戻らなければいけません。そうなれば、もう勇者様とは、、、)

もう会えない。その言葉だけは思い浮かばないようにしていた。そもそも敵からの呪いを防ぐために勇者様の本名さえ私は知らない。

(もっとこの旅が続いて、、、いや。これは世界を救う旅なのだからそんなことを思っていてはいけないですね。)

「浄化の光<<ホーリーレイ>>!」

魔王の放ったまとわりつく亡霊を浄化しながら聖職者は考え続ける。

(でも、でも、やっぱり私は勇者様が、、好きです。)

聖職者がそう思った次の瞬間、「これで!終わりだー!!」という声が響いた。

勇者が魔王を討ち取った瞬間であった。

「終わった、、のかい?」女剣士が尋ねる。

「はい。魔王の首を取りました。」といい、勇者のは魔王の首を見せた。

「やったな!」

「ああ、これで平和になるな!」

「やりました!!!」

大広間には4人の歓声が響いていた。

(これで世界は平和になりますね。でも、勇者といれる時間はもうほとんどないんですね。)

「勇者様は帰ったら姫様と結婚するんだって??いいねぇ。おじさんも誰か可愛い子紹介してほしいなぁ。」

「何言ってんだい。あんたにはもう3人の元妻と10人くらいの子供がいるじゃあないか。」

「ああ?“元”だから今はいないんですぅー。」

「はははっ。さあ、帰る準備しますよ。後ろで聖職者さん待ってますよ。」

3人は談笑しながら後ろにいた聖職者の方に歩いていた。

(ああ、この旅が、、、)

聖職者は笑顔を浮かべながらも思う。自分の望みを、それが最も非現実的でただの願望にすぎないものだとしても。

「終わらなければいいのに。」

そう呟いた瞬間、聖職者は玉座に残された魔王の胴体から膨大な禍々しい魔力が生まれようとしていることに気づく。3人は背を向けて向けて歩いているため気づいていないようだ。

「皆さん!後ろが!!魔力反射<<リフレクト>>!!」

「「「え?」」」

聖職者は叫び、3人を守るために呪文を唱える。

しかし、叫んだ直後に魔力は一気に膨張、爆発した。

声を上げる暇もなく、4人はその魔力に包まれていった。

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