鬼さん

ここは、町はずれの一角にひっそりとある、一人の魔女と人間の女の子が営むカフェ。

『ウィッチカフェ』

一般のお客様には見えないように魔法が掛けられており、店の前に斜めに置かれてある看板を、まっすぐに直すとお店が現れるという仕組みになっている。


ひっそりと営業しているウィッチカフェには、いろいろなお客様が訪れる。

いろいろな種族、動物、時には一般のお客様も。

仕事の合間に来る人や、ちょっとした観光、常連さんになってくださっている方も多い。

そんな方々の、ちょっとした憩いの場なのです。


さぁ、本日はどんなお客様が来てくださるのでしょうか?


カランコロン。

「いらっしゃいませ!」

「一人なんやけど、いいか?」

「は、はい……どうぞ……」


何故だか、葵ちゃんが少し恐怖している気がした。


「葵ちゃん、どうしたの?」

「あのお客さん、です」


鬼。

世の中的には空想上の霊怪。醜悪な形相と自在な怪力によって人畜に危害を与える怪物と言われている。

しかし、鬼にもいろいろな種類がいる。

凶暴な鬼や、大人しい鬼。更には人に優しい鬼までいるのだ。


あの鬼さんがどの種類の鬼なのかは、実際話してみないと分からない。


「いらっしゃいませ!ご注文はどうなさいますか?」

「お!サテラちゃんじゃねーか!おらの事覚えてるかい?」

「…………」


私は鬼さんの顔をしっかりと見たがすぐには誰だか分からなかった。

すぐには――


「あ!鬼の玄さんじゃないですか!」

「久しぶりだな!二年ぶりくらいになるか?」


鬼の玄さんは、私が学生の頃に出会った優しい鬼さん。

魔女界の森で私が怪我をしてしまった時、通りかかった鬼さんが助けてくれたのだ。

その鬼さんが、この玄さんなのだ。


「玄さん、元気にしていましたか?」

「もちろん!毎日元気やったよ。サテラちゃんは元気しとったかい?」

「はい!お陰様で」


本当に久しぶりの再会。胸躍ってしまう。


「注文どうしますか?」

「それじゃあ、あの時サテラちゃんに作ってもらったやつお願いしようかな」

「あれですね?承知しました!」


あれとは、私が玄さんに助けてもらったお礼に作ったエッグベネディクトだ。


「お待たせしました。エッグベネディクトです!」

「お~。懐かしいな。これが美味しいんだ」

「玄さん、嬉しい事言ってくれますね!」


玄さんは、無我夢中で私の作ったエッグベネディクトを頬張る。


「いや~サテラちゃんが作るエッグなんたらは本当にうまい!」

「ありがとうございます!」

「こんなに美味しかったら、お店も繁盛するわけだ」

「いやいや、そんな事無いですよ」


こう言ってくれるお客様がいるだけで、私は救われる。


「また、仲間も連れて遊びに来るわ!」

「はい、お待ちしてます!」


カランコロン。


鬼の玄さんは、地面に穴をあけ、地獄へと姿を消した。


「あの鬼さんはいい鬼なんですね」

「うん。生き物は見た目じゃないって言うからね」


と、本日のウィッチカフェはここまで。如何だったでしょうか?

本日のお客様は鬼の玄さん。昔の恩人に再会できて、私はとても嬉しかったです。

さて、明日はどんなお客様が来てくださるのでしょうか!?


それでは、いい夢を🌙

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