暴食の魔女さん

ここは、町はずれの一角にひっそりとある、一人の魔女と子犬が営むカフェ。

『ウィッチカフェ』

一般のお客様には見えないように魔法が掛けられており、店の前に斜めに置かれてある看板を、まっすぐに直すとお店が現れるという仕組みになっている。


ひっそりと営業しているウィッチカフェには、いろいろなお客様が訪れる。

いろいろな種族、動物、時には一般のお客様も。

仕事の合間に来る人や、ちょっとした観光、常連さんになってくださっている方も多い。

そんな方々の、ちょっとした憩いの場なのです。


さぁ、本日はどんなお客様が来てくださるのでしょうか?


カランコロン。

「いらっしゃいませ!」

「1人なんだけど行けるかね?」

「はい、大丈夫ですよ!こちらの席へどうぞ!」

私は、お客様を席へご案内し、お水とおしぼりをお出しした。


「ご注文はどうなさいますか?」

「この店にある物全部くれるかね?」

「ぜ、全部?ですか?」


お客様は無言で頭を縦に振る。

さすがにお店にある物全てをお出ししてしまうと、明日の営業に支障をきたしてしまう。


「すみません、全部というのはちょっと……」

「何か言ったかね?私は全部食いたのかね。早く用意するかね」

「……かしこまりました」


明日は休業にしよう。私はそう決め、キッチンへと入った。

全ての食材を使い、料理するのは初めてな為、2時間調理にかかった。


「お待たせしました。これが当店で出来るすべての料理になります」

「ありがとうかね」


お客様はそう言って、勢いよく食べ始めた。

凄まじい速さで食べすすめ、ほんの5分で残り一品になっていた。


「は、はやっ……」

唖然茫然過ぎて、私の開いた口は閉じない。

最後の一品も食べ終わり、お客様はこう言った。


「うまかったかね。また食べに来るから今度はもっと用意しておくかね」

「か、かしこまりました……」


愛想笑いしか出来なかった。


「それじゃあ、私は帰るかね」

「あ、あの。あなたは?」

私は、こんな勢いで食べ終わる人を初めて見たので、ついつい名前を聞いてしまった。

「私はカーミラン。暴食の魔女と言った方が分かりやすいかね」


名前と噂は聞いたことがあった。

暴食の魔女。ありとあらゆるお店で全ての食材を平らげ、挙句の果てには、最高地位の大魔女様の屋敷にある食料にまで手を出したとされている魔女だ。

それが、暴食の魔女カーミラン。


ただ、カーミランさんが訪れたお店は、さらに繁盛したと言われている。


「またいらしてください。今度はもっとたくさん作りますので!」

「楽しみにしているかね」


カランコロン。

「ありがとうございました」


カーミランさんは、異次元へのゲートに入り、姿を消した。


では、本日のウィッチカフェはここまで。如何だったでしょうか?

本日のお客様は暴食の魔女カーミランさん。まさか、お店の食料が全部なくなるとは……。という事で、明日は臨時休業です。

明後日は通常通り開店しますので、皆様もお越しください。


それでは、いい夢を🌙

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