幕間. 真実

[しずく島 秘密の浜辺]


・・・


・・・チャプ


「キュー」


ボクはアザラシ。

しずく島の海に集団で住んでいる。


スィー


この島の海は平和。

食べ物がたくさんあって、天敵がいなくて、人間が少しいる。

僕も仲間も人間が大好き。

たくさん遊んでくれるんだもん!


でも、この浜辺だけはいつも静か。

船が来ることもないし、全く整備されていない。

そんなところでも、一人だけここに来る人間がいる。


ほら、今日もいる。


「・・・」


あの人間はいつも寂しそうに夕日を眺めている。

今日もきっと何か悪いことがあったんだ。

「キュー…」

僕からあの人間に声をかけに行ったことはない。

けど、何か力になりたいってずっと思ってる。

僕に何かしてあげられることはあるのかな…?


暗くなってきたし、今日はもう帰ろう。

何もできなくてごめんね…



「いやダメでしょ!!」

「キュイ?!」バシャ

ど、どうしたんだろう、いきなり。

海に潜ろうとしたときに、あの人の大きな声が聞こえてきた。

「っ手紙書こう!」

「キュ?」

紙と入れ物を手に持ちながら、あの人間が叫んだ。

手紙って、遠くにいる相手に送る紙のことだよね。

人間は言葉をしゃべれるけど、その言葉を形に残すこともできるんだ。

いいなぁ~。


じゃあ今あの人間が持ってる紙は、誰かから届いたものなのかな?

「手紙書こう」ってことは、お返事を送るんだよね?


「キュー・・・」


************************


「よし、これでいいね」

「キュー」

狙い通りに来た!

まだ朝日が昇らない時間。

例の寂しそうな人間は、紙を入れ物に入れて目を閉じていた。

そしてそれを海に流した。


…海に流した?!

て、手紙ってそうやって送るものなのかな?

ちゃんと相手に届くのかな…?

「・・・」

「キュー」

あの人間、ずっと流した手紙を見つめてる。

いつもとは全く違う表情で。


「・・・キュイ!」

僕が届ける!

あの人間が帰った後に入れ物をキャッチした。

中にはさっきあの人間が入れていた紙…手紙が入っている。

これをあっちの方向に届ければいいはず…!

それに、泳いでいるうちにこの手紙について知っている生物に会えるかも!


お母さんには、この島の海の外には出ちゃいけないって言われてるけど…

今、初めてあの人間の力になれそうなんだ!

もしかしたら、僕が余計なことをして、この手紙がちゃんと届かないかもしれない。

迷子になって、天敵に会って帰れなくなるかもしれない。

それでも、行く!


チャプン


僕は海に潜って、向こうの海を目指して泳ぎ始めた。


************************


スイーーー


さっそく向こうの海に行くための海流に乗れた!

親切なトビエイさんがしずく島近辺の海流について教えてくれて、帰りの海流も教えてもらえた。

けど、向こうの島に着く頃には夜になっているって言われた。

トビエイさんもそんな遠くまで行ったことないって言ってたし、そこへ向かう僕のことを心配していた。

「キュー…」

そんなに遠いんだ、向こうの島は…

同じ海流に乗っている仲間もいないし、寂しいな・・・


・・・ん?

急に海の中が暗くなった。

なんだろう、天気が変わったのかな。

そう思って上を見上げてみると…

「キュイ?!」

「やぁ、アザラシちゃん」

海のギャング…シャチさんが泳いでいた。


ど、どうしよう。

周りには逃げ場がない。

助けてくれる仲間もいない。

シャチさんは僕の5倍、6倍、いやもっと大きい。

た、食べられる・・・

「ねぇねぇ」

「は、はい!!」

シャチさんに声を掛けられる。

「そんなに怖がんないでよ!悲しいだろ?

それよりキミ、この海流に乗ってるってことは、わかば島に行くのかい?」

「??」

な、なんだかよくわからないけど、いい生物なのかな?このシャチさん。

シャチは海のギャングで狂暴なんだって聞かされてきたから、そのイメージと違って驚いた。

「まさか、どこに向かうか知らないで海流に乗ってんのか?

こんなに小さいのに…もしや迷子?」

「ううん!この海流の先にある島に行きたくて…」

「じゃあわかば島だな!でも何の用だ?

アザラシの泳ぎじゃこの海流より速くは移動できないし、わかば島はまだまだ先だぞ」

わかば島…そっか、この手紙はきっとわかば島に向けて送られたんだ!

でもやっぱり、かなり遠いんだ…

「…手紙を、届けたくて…」

「手紙?その手に持ってるやつか。

でもそりゃあ人間がやるもんだろ」

「!、シャチさん、手紙のこと知ってるの?!」

「おう!もちろん!シャチは何でも知ってるんだぜ!」

シャチさんは嬉しそうに答えてくれた。

お話するの、好きなのかな?

「他の海じゃ海の上で手紙をやり取りすんのは盛んな文化なのさ。

他人の手紙と間違えないように入れ物の形や色を変えたりしてな。

でもこの海で見たのは昨日が初めてだな」

「!」

昨日…きっとわかば島から流れてきた手紙を、このシャチさんは見ていたんだ…!

「てか、なんでキミがその手紙を届けようとしてるの?」

「か、確実に届けたくて!」

「んー、でも何もしなくてもちゃんと届くと思うぜ?

この海で手紙やってんのはその1組だけっぽいし」

「そ、そっか…」

僕、何もしなくてもいいのか…

「なーにしょぼくれてんだよぉ!

そりゃあ何もしなくても届くけど、キミが届けた方が確実なのは変わりないだろ!」

「!」

そ、そうだよね!

優しいなぁ、シャチさん…


「っつっても、やっぱ時間かかるからなぁ~・・・うし!」ガパ

「ぇ…」


ガブッ


親切なシャチさんは、大きな口を広げて僕を飲み込んだ。


************************


ペッ!


「っ?!」


食べられてから3時間くらいしたころ、

僕は再び海の中に帰ってきた。


「ゆっくり眠れた?」

シャチさんは冗談を言ってきた。

いや、おそらく冗談ではないのだろう。

「着いたよ、わかば島!」

「・・・!」

ここが、わかば島・・・!

しずく島と違って大きな島!人間もいっぱい!!

そっか、シャチさんは僕を口の中に入れて、海流を利用して泳いでここまで連れて来てくれたんだ。

シャチさんは速いな~…

「そんで?その手紙はどこら辺に置くんだ?」

「あ」

どうしよう。

これ、誰に向けた手紙なんだろう…

わかば島の見慣れない浜辺を見渡しても、しずく島と違って人間がいっぱいで…


…あ


「あの人間だ!!」

僕はあの表情をよく知ってる。

あの散歩している人間を見て、手紙を待っている人だと確信した。

「お?見つかったか。じゃあ浜辺近くまで行ってきな。

俺は浅瀬に行けないんだ」

「わかった!」

速くは泳げないけど、浅瀬なら得意!

僕は手紙を待っているその人間に気づかれないように、そっと手紙を放した。

手紙が浜辺に到着したタイミングで、その人間は手紙に気づいて手に取った。


************************


「ふいー、これで一安心か?」

「うん!」

僕はシャチさんのところに戻って、手紙をちゃんと届けられたことを報告した。

「シャチさん、どうもありがとう!」

「いーや、まだまだこれからだ」

「?」

「きっとすぐに、あの人間は返事を持ってくる。

そしたらキミはどうするかな…?」

「!」

「まあ俺に任せてもらえばこの長距離を最速でキミごと手紙を運んでやるよ!

そして浅瀬になったら君の出番ってわけだ」

「で、でもいいの?シャチさん、面倒じゃ…」

「なーに、お安い御用さ!よろしくな~、アザラシちゃん!」

「シャチさん…うん!!」


こうして、僕とシャチさんとの海上郵便局が始まった。

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ボトルメール 鳳雛 @hosu-hinadori

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