第7話 伝わらないより伝えたい

Side.凪


ザザァーーー・・・


「・・・」

夕方。

海を眺めたまま浜辺に立ち尽くす。

この浜辺とは反対の方向に日が沈むから、海は次第に暗く染まっていく。


返事を送ってから 一体どれくらい経っただろう。

半月、半年、一年、いいや、もっと経ってるかも。

・・・本当は、1週間なんだけど。

海のせいか、思考までだんだん暗くなっていく。

そのうち、真っ黒になった海に飲み込まれてしまいそう。


あの日だってそうだった。

真夜中の海に誘われて、もしも朝日が来なければ僕はそのまま…

だから、もう生きていたってしょうがないって思ってあの手紙を出したんだ。


本当は誰かに届いてほしかった。

そのくせ、返事は絶対来ないとわかってて海に流した。


でも、来たんだよ。

来ないと思っていた返事が。

キミから…


この1週間、暇を作ってはここに来て、それをくり返しているだけの毎日だった。

仕事、少したまっちゃったな。

けど、そんなのどうだっていい。

早く、あなたからの手紙がほしい。

早く、あなたに・・・

「湊くん・・・」



「なんですか?」

「えっ」

背中から、聞き覚えの無い声が聞こえた気が…

「いま私のこと呼びましたよね?」

「・・・」

気のせいじゃない。

声のする方に視線を向けると、ニコニコと僕に笑いかけている人がいた。

「凪さん、だよね?」

この人は、

「み、みなと、くん・・・?」

「うん!」

「っ?!」

やっぱり、と思いながらも、頭の中は大いに混乱してる。

こんなに動揺したのも初めてだ。

なのに、目の前で笑うキミを見ると、体は動いていた。

ギュッ

「っ!」

「っ・・・!」

ずっと キミに会いたかったから。


「ああぁああっあのぉ…!///」

「? あ、ごめん」

いきなり抱き着くのはさすがに失礼だったかな。

でも、

ギュ~ッ!

「えぇえ!?///」

「ふふっ」

しばらく離してあげない。

やっと会えたのに 泣き顔は見せたくない。


******************************************


Side.湊


「この浜辺にキミからの手紙が流れてくるんだ」

「へぇ~、そうなのなぁ!」

凪さんと並んで浜辺に座る。

朝にしずく島を出てきたのに、もうすぐ日が沈んでしまう。

でも、その前に見つけた。

いきなり抱き着かれたときはどうしようかと思ったけど…//

会えたんだ、凪さんに。

「僕、地図を見てボトルが流れ着く先を予想したんだけど、しずく島の位置的に岩場に流れ着かない?」

「あぁ、実は私しか知ない浜辺があってさ、そこにいつも届いてるんだ」

「そうだったんだね」

「凪さんはいつも…」

「・・・」

「?、どうかした?」

「呼ばないで」

「!」

ぐっ・・・

さっきまで普通に話せてたのに、早速本題に入ってしまった。

…思ったり考えたりするだけじゃダメ、行動しなきゃ…ちゃんと伝えなきゃ…!

「わ、私!なぎさ…あ、あなたからもらった手紙、持ってきてるんだ」

カバンから紙の束とボトルを取り出す。

「僕も、家に全部取ってあるよ」

「ホント?!嬉しいなぁ…あ、それで、最後にもらった手紙なんだけど・・・」

「うん」

「・・・なんで、名前で呼んだらダメなの?!」

「え?」

「私は名前で呼びたい!だって、友だちだから!

私は凪のこと、好きだから!!」

「っ!」


ザザァーーー・・・ 


・・・い、

言ったぁあああーーー!!!

言ってしまった!!調子に乗った!!

しかも、呼び捨ててしまった・・・

き、嫌われたかも・・・


「・・・僕」

「っ!は、はい…!」

「そんなこと書いたっけ?」

「・・・え?」

いやいやいやいや!;

「ほらコレ!;」

手紙を広げて例の文を見せる。

「ここ!『“凪さん”って呼ばないで』って!」

「あっ・・・あー;」

「?」

どうしたんだろ?困った顔して。


「言い方が悪かったね。

えっとね、さん付けをされたくなかったんだ」

「え?」

「さん付けって堅苦しいし、仕事でばかり呼ばれてるから。

湊くんにまでそう呼ばれるのは、すごく 嫌だったんだ」

「は、はぁ…」

「それに」

「ん?」

「と、友だち・・・だから・・・//」

「っ!//」


なんで私、こんなに悩んでたんだろう?

全然怖いことなんてなかったじゃん。

「やっぱり、会いに来て正解だった」

「?」

「すぐに返事をもらえるから」

伝えたいことが ちゃんと伝わるね。

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