第6話 キミと出会ってから

Side.凪


「・・・」

朝。

「おはようございます!」

「あぁ、おはよう」

寝不足のまま職場へ到着した。

「凪さん、デザイン見て頂けますか?」

「あぁ、うん」

こんなに寝なかった日は、初めて。

「・・・」

キミと出会ってから 初めてのことばかり。


******************************************


Side.湊


「お!来てる来てる♪」

夕方。

昨日の早朝に返事を出してから何度か秘密の浜辺をウロウロ徘徊してしまったけど、

すぐに返事が来なくても、もう心配しない。

信じて待っていられるよ。

凪さんは、友だちだから。


『湊くんへ』

「っ!私の名前・・・!」

って当たり前だけど!

でも、自分の名前書いてもらえるのって、なんでこんなに嬉しいんだろう。

・・・『くん』付けが気になるけど。


『語尾、独特ですね(笑)

こっちでは聞かない方言だけど、しずく島ではみんなそうなの?』


え、この「なぁ」って語尾やっぱり方言?!

でも確かに…しずく島に来る観光客の人がしゃべってるの聞いたことないなぁ…

…こんな些細なやり取りでも、すっごい満たされる。

ほんと、キミと出会ってから毎日が楽しい!



ん、下に何か書いてある。

「・・・ぇ」


******************************************


カランコロン


「よぉ湊!やってっk

「・・・|||」

「え、えぇ~;」

「あぁ、おっちゃん…いらっしゃい…」

自分の店で粛々と靴を磨いると、レストランのおっちゃんが来てくれた。


あの返事をもらってから1週間。

製造しても失敗ばかり、いいアイデアも浮かばない、会計まで間違える。

ここ最近、何をやってもうまくいかない。


「おいおい~どうしたんだよ暗ぇなぁ;そんなんじゃ売れるもんも売れねぇだろぉ」

「はぁ・・・|||」

「こりゃ重症だなぁ…何があった?」

「・・・」


昔から面倒を見てもらっているおっちゃんに、ついに話すことにした。

ボトルメールについて。


「・・・手紙」

「ん?」

「やりとりしてて、ボトルメールで。

それで私、嫌われちゃったのかなって」

「どうしてだ?」

「先週来た手紙の最後に、『名前で呼ばないで』って書かれてたんだ」

「うわ」

「私が、なれなれしかったからかな…」


まったく距離感がわからない。

16年生きてきたけど、はっきり言って、友達なんていたことなかった。

私の周りの人たちは大人ばかりで、友達との正しい関わり方なんて、

そんなの、誰も教えてくれなかった。

「・・・」

やっぱり私が一方的に自分のことばっかり書いて送ったから。

そもそも、そんな明るい始まりじゃなかったじゃん、このボトルメール。


「・・・で?」

「え?」

悩みの理由を話し終わると、おっちゃんが聞いてきたんだけど、え?

「いや、これで全部だけど、私が悩んでる理由」

「そりゃわかったが、その後どうしたかって聞いてんだ」

「え…」

その後って…

「…返事、してない。」

「いつから?」

「先週の夕方に返事をもらって、それっきり…」

「はぁー…」

いきなりおっちゃんが大きなため息をついた。

でも、でもどうしろって…

「おっちゃん、私どうすれば…」

「甘えんな」

「!!」

え、なん…

だって今まで、私に何だって教えてくれたじゃん。

この島での暮らし方も、炊事洗濯も、商売についてだって…!

なのにどうして、

「どうしてこんなに大事なことは教えてくれないの…?!」

思わず涙を流しながら、おっちゃんに訴えた。

困ったら助けてくれて、いつも気にかけてくれていたのに、いきなり崖から落とすような突き放し方をされて、感情的になっていた。


「湊、よく聞け。

今のお前の悩みはなぁ、俺にはどうすることもできない」

「そ、そんな…」

「解決できるのはお前だけなんだよ。

お前がひたすら相手のことを思いやって、悩んで、考えて、そして最後には行動しなけりゃなんねぇ」

「相手のことを、思いやる…」

「そうだ。お前の得意分野じゃねぇか(笑)」


…そういえば、

私が秘密の浜辺に向かうのは、いつだって嫌なことがあったときだけ。

あの日だって、お客さんが商品を雑に扱ってるのをうまく注意できなかった自分に落ち込んでて…

だけど、このボトルメールを拾ったあの時。

『消えたい』と言ったあの人の言葉に対して、たくさん悩んで考えて、そして返事を出した。

それ以来、私があの場所に向かう理由は…


「相手の人も、1週間返事なかったらさすがに心配してんだろなぁ」

「!」

確かに…!

どうしよう。ずっと待たせちゃってる。

「おっちゃん、でも私…

ほんと、今までこんなことなかったから、行動しなきゃいけないのはわかってるんだけど…!

な、凪さんに、嫌われるのが、怖くて…!」

毎日のようにやり取りを重ねて、少しずつお互いのことを知っていって、

でも、それが楽しいことだけじゃないなんて…こんな気持ち知らなかったから、怖いんだ。

「怖くていいんだよ」

「っ?」

「その恐怖をかき消すために行動するんだろうよ、湊」

「おっちゃん…」


「てか靴売ってくれねぇか」

「え、い、今…?」

おっちゃんタイミング…

あんなにいい言葉をもらったのに、雰囲気が…

「明日は弟子の船出なんだ!わかば島に就職すんだよ、すげーだろ?!」

「わ、わかば島!?」

それって凪さんのいる…

・・・

「おうよ!だからいい靴履いて舐められねぇようにって―――」

「おっちゃん!あ、あのさ…!!」


キミと出会ってから、初めてのことばかり。

でも、変わったことも多くある。

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