第4話 『「消えないで」なんていくらでも』
Side.湊
「~♪」
「おう湊ぉ!今日はご機嫌だなぁ!」
「うん!あ、おっちゃんカレーライス!」
「あいよ!」
夜。
ご飯を食べにレストランに来た。
ボトルメールを持って。
「わかば島なぁ」
改めて届いた手紙を読む。
「なぎ、さん…なぎさん、凪さん!」
ボトルメールの相手の名前を何度も繰り返す。
「この人は服作ってるんだ」
今までは短い文のやりとりだけで、それも内容が内容だったから、手紙の相手がどんな人なのか想像しにくかった。
けど、もう友だち…だよね!
名前や職業がわかっただけで、顔も声も好きな食べ物もわからないけど、とにかくもう私たちは友だちなんだよ!
それに、今はまだわからなくたって、こうやってやりとりを続けてくうちに凪さんのこと、もっといろいろわかってくるはず。
『出会ってくれて ありがとう』
手紙の一文を手でなぞる。
「こっちこそ、ありがとうなぁ」
「何がだ?」
「うっわおっちゃん!!;」
いきなり横からヌルッと出て来ないでよ!そのイカツイ顔面で!!;
「?、ほい、カレーライス! つーかなんだぁ?その紙と空きビン」
「な、なんでもないよ!いただきます!」
なんとなく秘密にしたくて、手紙をボトルに入れてカバンにしまった。
「っアッツ!!;」
「ハッハッハァ!急いで食うからなぁ!」
慌ててカレーライスを口に入れてしまい、口を火傷してしまった。
「ミナちゃん、そんな急がなくてもカレーは逃げないよ~!w」
「そーだそーだ、ゆっくり食いなぁ!w」
「~~~っ(泣)」
顔なじみのおっちゃんたちからもからかわれた。
てか本当に熱い!!!
「フー、フーーッ!!」
「よっと。湊ぉ、最近どうだ?」
「ん?」
激熱カレーを全力で冷ましていると、おっちゃんが隣に座って話しかけてきた。
「俺はお前が心配なんだ。人が良すぎるところとか、苦しい時でも無理に笑おうとするところとか」
「おっちゃん・・・」
このレストランのおっちゃんは、私が小さい頃から私のことを見守ってくれている。
私は、小さい頃から今の靴屋を営んでいる。
親は私に借金を残してどこかの島へ消えたと聞いている。
借金は正直きついけど、それでも全然生きてこられた。
この島では、困っている人間を家族同様に助ける不文律があるから、本当に不自由なく生きることができた。
このおっちゃんは特に、生活の基本から商売のノウハウまで、すべて面倒を見てくれた。
今でも島のみんなが私の様子を見に来てくれたり靴屋を利用してくれたりで、この島に生まれてよかったって思ってる。
でも…そうなぁ…
「にしても、今日のお前見て安心した! 何か良いことでもあったのか?」
「!、まあなぁ!」
おっちゃんや他の島民にもこの喜ばしい出来事を伝えたいけど、でも言わない。
秘密の浜辺を知られたくないし、このボトルをゴミと思われてしまったら、もう手紙のやり取りはできなくなる。
私も凪さんも罰せられちゃうかもしれない。
まだ顔も見てないのに…
「何があったか知らねぁが、モリモリ食ってもっと元気になれよ!」
「痛っ!!;あ、ありがとなぁ、おっちゃん;」
「おう!お、っらっしゃい船長!例の弟子なんだがぁ―――」
私の背中を盛大に叩いて、おっちゃんは仕事に戻っていった。
「・・・」
私、今までそんなに暗い顔してたのかなぁ?
帰ったら鏡見てみよう。
そして、手紙の返事を考えよう。
******************************************
家に帰ってからずいぶん経ったけど、まだ返事を書いていない。
というか、まだ内容を考えようとすらしていない。
だって・・・
「・・・へへへ~♪」
嬉しい!!
改めて感じるこの嬉しさは何だろう?
今までは家に帰ったらすることもなかったし、この手紙が来てからもマイナスな内容を考えてばかりだった。
だから実感する。
誰かとやり取りするのって楽しいし、心が満たされる。
よっし、まずはこの気持ちを手紙に…
『俺はお前が心配なんだ』
「・・・」
今日レストランでおっちゃんからかけられた言葉が頭を過る。
良いことも悪いことも、全部お見通だなぁ、おっちゃんには。
…さて、浮かれてないでお返事しなきゃ。
『消えないで』って、誰かに言ってほしかったんだね。
そんなの…
『自分が存在してる意味』
「・・・」
******************************************
Side.凪
「まだ、来ないか」
昼。
浜辺を徘徊。
あのボトル…あの人からの返事はまだ来ていない。
昨日の夜、今日の朝もここに来て…なんだか馬鹿みたい。
何期待しちゃってるんだろ。
「・・・」
それでも僕は今日の夜も、またここに来るんだろう。
「・・・っ!」
海の上。
波に乗ってあのボトルがこっちに向かってくるのが見える。
「っ」
僕はそれを待っていられなくて、海の中に足を進める。
膝の辺りまで海に入ったところでボトルを捕まえた。
早く手紙を読みたくて、着ていた服で手とボトルを拭いてフタを開けた。
『凪さんへ
お返事ありがとう!
すっごく嬉しい!!
わかば島って、私のいるしずく島のお隣さんだよね!
晴れの日にしずく島のどこか高い建物から西の方見たらわかば島が見えるかも!』
テンション高いな(笑)
ん、もう1枚ある。
『「消えないで」なんていくらでも言うよ。消えてほしくないもん。』
『自分の存在の意味については、私バカだから難しいことは考えられないんだけど、』
「っ!」
『少なくとも、私には凪さんが必要です。』
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