第3話 『友だちになりたい』

Side.湊


「本当にそのまま返ってきちゃった…?(泣)」

秘密の浜辺で、私は手紙を開いたまま立ち尽くしてしまった。


『消えないで』っていう私の手紙に『どうして?』って返って来たんだけど、

私も最初の『消えたい』っていう相手に『どうして?』って返事を書いたんだよ?


このボトル、実は海の中に何個も浮かんでてプカプカさまよってるんじゃないの??

それでこれは私が書いた『どうして?』が巡ってきて・・・


・・・いや、

これ私の字じゃない。

冷静にその『どうして?』の字を見つめると、筆圧の濃い自分の字とは全く違う、鉛筆で書かれた優しい筆跡に気づいた。


「かわいらしい字書くんだなぁ、この人」

この字で『消えたい』なんてこと、言ってたんだよね。


…さて、返事返事。

紙とペンは毎回持ってくることにしたから、すぐ書いちゃえ!

『どうして』『死なないで』ほしいのか。

そろそろ短い言葉ばかりだと味気ないよね?


「スラスラ書けるようになってきたなぁ、私(笑)」

返事を書き終わらせて、バシャバシャと音を立てながら足早に浅瀬へ駆けて、

お祈りをして、ボトルを西の海に向けて手放した。

 

お返事、待ってます・・・


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Side.凪


「あ」

夜。

浜辺に行くと、流れ着いたボトルが月明かりに照らされて輝いていた。

また返事を書いてくれたのかな。

ボトルを見つけた瞬間、僕は少しだけ浮かれていた…のかもしれない。


ボトルを手にとって、紙を取り出す。

「・・・!」

そこに書かれていた一文目から、思わず目を見開いた。


『私があなたに出会えたから、消えてほしくないんです』


『私は湊。しずく島で靴を作ってます』


『あなたのことを教えてくれませんか?』


『あなたと 友だちになりたい』


********************************************


手紙とボトルを家に持ち帰り、何度も何度も、丁寧にその手紙を読み返す。


僕のことを教えてほしい?

僕と友だちになりたい?

「なんで・・・」

一体どういう・・・

だって僕、あんたに『消えたい』って、それから面倒な返事ばかり送って・・・


「みな、と」

って、読むんだよね、これ。

「・・・」

『どうして』僕に『消えないで』ほしいのか、それを訊いたんだけど、

『あなたに出会えたから』って・・・

「・・・全然、答えになってないよ(笑)」

でも、なんでだろうね。

すごく嬉しい。

嬉しくてたまらない。


やっぱりこれは“しずく島”の住人からの手紙だったんだ。

でも、このボトルが流れ着く先は手入れされていない荒れた浜辺のはずなのに、どうやってこれを見つけて拾ってくれてるんだろう。

僕が朝に流したら、そっちの島にこのボトルはいつ頃着くんだろう。


「・・・あれ?」

数日前まで、僕は本当になんとなく消えたかった。

それなのに、今はそんなことよりも、このボトルメールの返事の内容を考えている。

わからないことばかり、もっと知りたいことばかりだ。

「ふふっ」

今では、自分が完全に浮かれていることがはっきりと自覚できた。


********************************************


Side.湊


「まだかなぁ~・・・」

夕方。

秘密の浜辺で自分の目の前を横切るカニを眺めながら、私はボトルを待っていた。

朝も昼も様子を見に来たんだけど、今日はまだ来ていない。


今まではすぐに返事が来ていたんだけど、今日は忙しいのかな?

それとも、嫌われた…?

うー、やっぱりいきなり自己紹介しちゃったのがまずかったのかな?;

しかも調子乗って相手のことも聞こうとして、友だちになろうとか出会えたからとか意味不明なことばっか言っちゃったし!


混乱しながらも体は待ちきれず、気づけば浅瀬まで行って足を浸していた。

昨日は自分の感情のままにペンを走らせて、そのまま海に流しちゃったからなぁ。

今さら書いたことをなかったことにできない。でも書いた内容はあの人に届いてほしい。

でもでも!・・・あー、もうダメかも(泣)




コツン


「っ!来たぁーー!!」

誰もいない浜辺で、私は大声で叫んだ。

足元にはいつものボトルメール。

「来た!よかった!!」

安心しながらさっそくボトルを開ける。

「おお!」

何枚かある!しかもいつもみたいに短くない!

さてさて内容は・・・ん?


『ごめんなさい。』

あ、謝られた・・・

説教をしたつもりも、きつい言葉を投げつけたわけでもなかったんだけど、なんでだ?


『いきなり「消えたい」なんて手紙を拾ってビックリしましたよね?

でも本当に消えたいわけじゃないんです。』

あ、そういうことか・・・

まあ『なんとなく』『消えたい』って言ってたもんなぁ。


『でも、ありがとう。

「消えないで」って言ってくれて。』


『ずっと誰かにそう言ってもらいたかったのかもしれません。

自分が存在している意味が、わからなくなっちゃって。』


「・・・」


『凪です。

わかば島で服を作っています。』

おお!名前!

へぇ、服作ってるんだ!すごい!!

「っ!」

最後の1枚に書かれていたこの言葉は、多分この先、一生忘れない。


『出会ってくれて ありがとう』


『僕もあなたと 友だちになりたい』

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