世界葬まで

かんのあかね

世界葬まで

 人々の並ぶ先には大きな門が地下へと続いていた。


 汚染された大気と水を捨てて、地下へと逃れる人々の群れを哀しそうに空から見つめる。

 あの人は地下を選んで、私は他の惑星に希望を求めた。ただそれだけの事。

 地上に残る人々は自分の葬儀の準備をしている。

 ああ、サヨナラ、サヨナラ。


 宇宙から見る台風の目は、本当にまんまるで、全てを吸い込んでしまいそうな穴は青い。

 宇宙から見ると、この気象現象はとても美しいのに、地上では嵐が吹き荒れて、木はなぎ倒され川は氾濫し、家屋は破壊されてゆく。

 美しさの元にあるのが犠牲なのか、犠牲のおかけで美しいのか、それは神のみぞ知ることなのだろう。

 去りゆく母星を眺めながら、私はあの人を想う。

 地下の世界はどうですか?

 あなたにとって居心地はいいですか?


 そんなことを思いながら、まどろみを迎えて眠りについた。


***


 その向こう側にあるものは、見てはいけない夢の欠片。

 俺が手を伸ばす事は許されない世界だ。

 けれど君には素晴らしい世界なのだからしかたない。

 向こう側へと踏み出した君は理解しているのだろうか?

 その代償は孤独だと理解した上で向こう側へと向かったのだろうか?

 君をどうやったら止められたのかはわからない。

 君の一歩は寂しくもひとりでの旅立となってしまったのは許して欲しい。

 なぜならば、俺もまた旅立つからである。

 君は空へ、僕は地下へ。

 地下の世界へと向かう列に並びながら、君の飛び立つ船を見た。

 ここからそれを見ているしか出来なくて悔しかった。


 ……羨ましかった。


 俺が君と共に空を選ばなかった理由を最後まで話せなかったのは心残りだが、話したら君の尊厳と生命の価値を傷つけるだろう。


 ……空へ向かった人々は「保護対象」で「保管対象」なのだ。


 遺伝子審査で振り分けられて選ばれた者達は、この後長い眠りにつく。

 他の惑星への移住だなんて大嘘だ。

 地上が淘汰されつくし。地球の再生が終わるまでの間、選ばれた人々はずっと眠っている。

 そして再生後の地球に「他の惑星へ移住した」ていで戻される。

 君が乗った船は、その為の箱船なのだ。


 俺と君と分けたもの、それは優性遺伝子の有無だった。

 それを悲しく思わずにはいられない。

 技術の発展は世界を壊し、人の在り方すらも根底から覆した。


 これから俺は地下へ行く。 そしてこの身はは大地に返される。

 分子にまで分解されて、そして地球の一部になるのだ。


 だから、世界葬まであと少し。


 最後の願いだ。君のことを意識のある限り想わせてくれ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世界葬まで かんのあかね @kanno_akane

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ