第14話
森に足を踏み入れる。こちら側には、やはり道はなく、未開の地という感じがした。実際には未開ではないだろうが、人が頻繁に立ち入っている様子はない。整地されていないが故に段差や斜面が多く、土の表面が苔で覆われている一帯もあった。外の草原は、どちらかというと乾いた印象だが、こちらは湿っている。木の根も曲がりくねったものが多く、ハイキングをするには大変そうだった。
少し奥まで入ったところで、斜面を上り、僕たちは適当な場所に腰をかけた。適当な場所というのは、地面という意味ではない。地面には土だけではなく、大小様々な岩が配置されていたので、その中から適当なものを選んで、僕とリィルは並んで座った。
「ちょっと、寒いね」リィルが言った。
「たしかに」
辺りを見渡すと、圧倒的に陰樹が多いのが分かる。形成されてから、かなり年月の経っている森のようだ。クレイルは、もしかすると、自分の親からあの家を引き継いだのかもしれない。万年筆も、代々伝わるものだと言っていたし、その可能性もあるだろう。
僕も、リィルも、暫くの間黙って休憩した。
たまには、こんな大自然の中で一息吐くのも、悪くなかった。
というよりも、僕は、常に、こうした環境を求めている。
ただ、都会に住んでいると、その色に馴染んでしまうのだ。
だから、チャンスがあれば、意識的に、こうした場所に訪れるようにしている。
きっと……。
僕の中には、人が創ったもの、人工的なものに染まり切りたくない、という思いが存在する。
それは、なぜか?
自分は、人工的に作られた存在だというのに……。
「少し、話したいことがあるんだ」僕は、隣に座るリィルに顔を向けて、話した。
「何?」顔を上に向けていた彼女は、僕の方を見る。
僕は一呼吸置いて、呟くように声を発した。
「予言書について」
僕の言葉を聞いても、リィルは表情を変えなかった。まるで、このタイミングで僕がその言葉を口にすることを、前々から予測していたみたいだ。
「いいよ、聞かせて」
僕はもう一度彼女を見て、それから頷いた。
予言書というのは、前回の依頼で、僕たちが偶然にも入手した、とある書物のことだ。いや、偶然にも、というのは違うかもしれない。それすらも、誰かによって予定されていた可能性もある。とにかく、僕たちはその書物を何の働きかけをすることもなく手に入れた。
その書物には、予言書という名前の通り、未来のことが記されている。ただし、記されているのはとある施設の方針を示す事柄だけで、さらに、その未来とは、すでに訪れた未来、つまり過去に関することだけだった。その書物には鍵がかかっていると言われていたが、僕がそれを受け取ったときには、すでにそれはなくなっていた。だから、僕は内容を確認することができた。
「うん、だから……」上記の内容の内、リィルが知らない部分を話してから、僕は言った。「僕たちは、これ以上、予言書に頼ることはできない」
リィルは、少し小さめな岩に腰かけたまま、ずっと下を向いていた。その顔は無表情。怒りも、悲しみも、何も映していなかった。
「でも、それって……」リィルは、意を決したように顔を上げて、僕に尋ねる。「……ルルが、私達にそれを託した意味が、何もないってことだよね?」
ルルというのが、その書物を記した人物の名前だ。そして、おそらく、僕にそれを手渡した張本人でもある。どうして定かではないかというと、受け取りは本当に瞬間的なもので、僕はその人物の容貌を確認することができなかったからだ。
「そう思う?」僕は尋ね返す。
リィルは、今度は険しい顔をして、また顔を下に向ける。しかし、それは熟考しているときに見せる彼女の癖で、エネルギーを消費している証拠でもある。
「……意味がないはずはない、か」
「そう」僕は頷く。「実は、予言書には、不可思議なところがあった」
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