第三章 不思議な夢

 気が付くと、アシュリンは森の中を歩いていた。鳥のさえずり一つなく、静まり返っている。来たことのない場所なので、皆目検討がつかない。乳白色の霧で視界が悪いうえ、歩いても歩いてもこの森の中から抜け出せない。


 よく見るといつの間に着替えたのか、アシュリンはフリルとリボンで飾られた、ふんわりと広がるドレスを身に着けていた。まるで何処かの王国の姫君のようだ。裾をつまんで歩かないと、つまずいて転びそうになる。


 此処に来て一体どの位時間が経ったのだろう? そう思った時、ささやくような声が聞こえた。


 耳というより心に直接響いてくるような、語りかけてくるような、優しい声。でも、その声はどこか悲しい色を帯びていた。


“クレア……”


――誰?


“クレア……”


――ひょっとして私を呼んでいるの……? 私はクレアじゃないわ。アシュリンよ!


“クレア……貴女あなたは何処にいる……? ”


――ねぇ……貴方は一体誰なの……?


“クレア……”


 声を出そうとしたら、今まで聞いたこともない者の名前がアシュリンの口から勝手に飛び出した。


“わたくしは此処にりますわ。リアム! 貴方は何処にいらっしゃるの? 。”


――リアム……? リアムって一体誰……?


 今まで会ったことがないのに、その名前を口にした途端、温かいがどこか胸が締め付けられるような悲しみに襲われ、目の前が真っ暗になった。

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