第34話 里
「うえぇ、頭いてぇ。もう飲まん。禁酒するぞ」
「俺もです。師匠の飲みっぷりに対抗した俺がバカでした」
「アホっ、あんまり大きい声で言うな!頭に響くだろ!」
次の日の午前中、二日酔いで苦しみながらも、里に向かってカミシロさんの引越しが始まった。
子弟で飲み比べをして二日酔いで後悔するのは、最近、いつもの事であるし、その度に禁酒宣言するのもお互いが聴き慣れている。
それでも、シッカリと荷物運びを手伝っているのだから大したものだ。
その頑張りがあってか、夕方早くに里に着いた。
「ねぇ?セリナが何で居るの?」
いつの間に?
「えへっ、来ちゃった」
どうやらカミシロさんの荷物に紛れていたらしい。
「えへっ、じゃないだろ!親が心配するだろうが」
「大丈夫だもん。ナイトのところへ行くって置き手紙してきたから」
「えー、ますますダメじゃん。それって家出だし」
シオンは、慌てて連れ帰ろうとしたのだが、頑なに抵抗するセリナ。
「ねぇー、ナイトー、私が邪魔なのー」
抱きつかれ、下から見上げられて甘えられると、流石に可哀想に思えてくる。
それに、貧しい膨らみの胸でも、押し付けられてくると頭の中でエロエロモードの妄想が・・・。
(ああっー、これに埋もれて、安らぎを堪能したいー)
実際に埋もれるほどの大きさは無いのだが、そこは妄想が補填してしまう。
いくら小さくても、2つの柔らかな膨らみの感触による破壊力は巨大なのだ。
結果、シオンの負けであった。
それを見ていた師匠がニヤニヤしているのが何故か悔しい。
「まあ、その何だな。ナイトもそろそろ観念する事だ」
「何をですか?よくわからないけど、師匠の新たな修行なら挑戦しますよ」
「このっ、ナイトのにぶちん!」
ゴチンと後ろから頭をぶたれるシオン。
「何でセリナが後ろから叩く?確かに油断してたけど。新たな修行はこういう事?」
「お前につける薬はないなぁ?何時もに加えて、昨日も領主様に言われたろ、『娘を頼む』って。覚えていないのか?」
「確かに会うたびに言われますけどね。これでもちゃんとセリナを守ってますよ。護衛としては優秀なはずです」
「はああああああー、こりゃダメだぁ」
その日最大の呆れ声が、里中に響いた。
それはさておき、シオンはカミシロさんに会いに来ている。
カミシロさんの引っ越し荷物の整理もあらかた終わったようなので、あとは、奥さんに残りを任せ、カミシロさんを神社へと案内するついでにいろんな話をするためだ。
「カミシロさん、こないだ俺が受けた神託の話をしましたよね。実はアレには続きがあって、占いの能力を伸ばすように言われたのだけど、俺、どうすればいいのかわからないんです」
「そうか、それで豊穣祭と神社の復興を考えたんだな」
「そうなんですよ。この間の話で、神様を祀り一緒に楽しんで神様を喜ばすと言う考えには共感しました。ただ、それで上手くいくのかどうか悩んでいるんですよ」
「・・・うーん。俺もそれに応えられるような知識はないからなぁ。ただ、何もしないよりいいとは思う。神を祀るのは間違いじゃないよな。人は、試練に会うと、何かしらすがるものが必要だ」
「そうですね。今は、手探りですがやれる事をするしかないです。それはそうと、こないだの模擬戦では、僕の攻撃が当たらないのは何故なんですか?これでも結構自信があったんですよ」
「ナイト、虚実って師匠から教わったか?」
「フェイントくらいなら。それを追求していくと理解できるようになるって言っていました」
「そうか。まあ、間違いじゃないが・・・。俺たちは、無意識下で相手の気配を察知して体が動くように鍛錬を積むよな?」
「そうですね。そうしないと回避が間に合わない相手に対処できませんから」
「そこが、まだ未熟という事さ」
シオンは、後ろに殺気を感じて臨戦態勢となり振り返るが、そこには何もいなかった。
「これが、その答えだ。偽物の本気を放ち、相手を惑わす」
「えっ?今のカミシロさん?」
「何も武術を学んでいない者は、目で相手を追って、それから対処する。が、ある程度武術に染まる事になると相手の動きの先読みをするようになる。その後に達するのは相手の気を読んで対処するようになる。君は、今この辺りまで成長したという事だ」
「それで嘘の気配に騙されてしまう・・・という事」
「そうだ。達人になる程、そんな騙し合いが含まれるんだ。だが、中には力技だけで豪快に振る舞う者も存在するから、面白い。まあ、面白いのは模擬戦だからかもしれないがな。これが実戦となれば、命のやりとりだ。少しの油断やミスが命取りになる事もある。集中が切れて死ぬ事もある。それにいくら強い個体でも、数の暴力には逆らえない。あの故郷がやられたのもこの数の暴力だ。俺たちは負けたが、その分奴らにはかなりの痛手があったらしく、あれから傭兵を派遣していないと聞くぞ」
「そうですね。時折、式神を送ってあの領地の様子を見ていますが、圧政をしていないのは自分たちの武力低下によるところもあるのでしょうね」
「そうだと思う。もし今反乱が起きたら、押さえる力は無いのだろう。だが、そのうちに元に戻るだろうから余り悠長にはしていられないな」
「カミシロさん。話は変わりますが、これを見てもらえますか?」
シオンは、取り返してきた剣を見せた。
「これって!破邪の剣。本物か?」
「鈴が有りませんが、父が大事にしていたので多分本物だと思っています」
「鈴はまた付ければいい。ほら、ここを良く見てごらん」
カミシロさんが示したのは、波打つ波紋である。
言われるままにその部分をよく見ると、そこには細かなヲシテ文字がギッシリと刻まれていた。
「コレが、この剣の肝なんだ。呪符の金属版と考えても良い」
「コレが魔を祓うのは本当なんですね」
「今は魔を信じない者も多いのだが、確かに存在しているからね」
「神、精霊、妖、妖精、妖怪、悪魔など、普段目に見えないものが確かに居るのですね」
「我々の先祖には身近だったようだな。我々が見なくなったのか見えなくなったのかわからないが、それで失われた物が沢山ある。さっき尋ねられた占いもその一つだ。やり方は何となくわかるが、それが果たして正しいのかさえわからないんだ。それに、占いをやったとしても今はもう読み解きができないから、その意味するものも不明なんだ」
「そうですか。それなら、祭りを復活させても意味はないでしょうね」
「得られるものは無くても、神に少しは伝わるかもな。何もやらないよりマシだろう。神に仕える立場だからというわけではないが、こちらが神と疎遠にしていた分、歩み寄る姿勢は大切だと思うぞ」
「因みに、カミシロさんの『神』は、どの神を?」
「知ってのとおり、我が先祖代々八百万の神だからなぁ。全てのものに神が宿るのが教えであるし。この里はどうするつもりだ?新たな神社に神を祀るにあたって、主神は決めておかねばならない事だぞ。俺の知る限りでは、この領地での神はルーン系のはずだが?」
「そうなれば教会ですよね。これから移住者も募る事だしそれも考えないといけませんね。神社については、主神は星々を作りし天の御中主で、祭神はもちろん八百万の神々でいくつもりです」
「ここの領主は、俺が神主であると知っているから揉めることは無いだろうが、信仰の違いで争いになる事も多々あるから気をつけないと。狂信者になると他の宗教は邪教だと決めつけ、排除に動く者までいるくらいだ」
確かに、宗教問題は今後あり得る懸案事項であった。
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