第33話 前へ向かって
いよいよシオンにとって、最後の試合だ。
観客が居るだけに、師匠も真剣にやるだろう。
シオンとしても、全力で挑みたいとは思っているが、今までまともに勝てた試しがない。
まあ、日頃の鍛錬により、前より少しはマシになっているとは思うが、師匠のレベルはまだまだ先にあるのだ。
これに、カミシロさんが加わったのか?
俺の周りは、強者が集まってくる?
まあ、味方であるだけ頼もしいのかもしれないが。
(うーん。師匠に勝つには、どうするかだなぁ)
いつも手合わせしているだけに、勝てるイメージが浮かばないのが悔しいが。
シオンが悩んでいる間に休憩時間が終わってしまった。
もう、成るように成るだろうとヤケクソな考えで開始位置に着く。
「それでは、第五回戦開始っ」
無情にも試合が開始された。
(あの構えは、居合か?)
師匠カズマの得意技だ。
シオンが転移して間合いに入った瞬間に斬り捨てるつもりだろうか?
こちらには、式神と言う味方があるから、その視界で距離を測り、師匠の裏をかいて、間合いギリギリ外側に転移すれば斬られずに済むかもしれない。
しかし、師匠の事だから、あまりギリギリでも腕を伸ばして対処しそうだ。
それなら2メートルほど離れた場所に転移し、刀が過ぎた瞬間を狙えばイケるか?
師匠の誘いに乗ったフリをしてその上を行けば、流石に師匠としても成長に驚くだろう。
ほんの一瞬で閃いたにしては、我ながらよくできた作戦だと思う。
間合いから2メートル、この辺りだな。
式神の移動も上手くいった。
師匠は目をつぶったまま、精神を集中して居合の構えを解かない。
チャンスだ。
式神を配置した場所に転移。
シオンの予測通り、気配を察知した師匠が剣を抜くとともに横薙ぎに斬り捨てる。
「今だっ!」
身体強化していたまま、飛び込もうとした瞬間に打撃を受けた。
シオンが、前に飛び込もうとしていた分の勢いが、師匠からの打撃に加わり衝撃は倍増した。
(何故っ?)
と瞬間的に思った時には、勝負が決していたのだ。
間合いは、式神を使ったので、正確に測れたはずだ。
カミシロさんも師匠も変な技を使うものだと感心するシオン。
さて、次は、カミシロさんと師匠との対戦である。
自分の対戦は全て終えたので気楽だが、2人のあの技を見た以上、何一つ見逃したく無い気持ちになる。
試合前の緊張感。
何故か、それを見つめるシオンまで緊張していた。
「それでは、第六回戦開始っ」
ついに、本日の最終戦が始まった。
誰にでもわかるほどの高レベルの戦い。
観客も酒を片手に応援にも力が入る。
「凄っ!アレを避けるか」
カズマの連続突きをその場で動く事なく躱すカミシロさん。
お互いが隙を見つけては、反撃するのでなかなか見応えがある試合だ。
シオンは、試合後に我ながら良くやったと思っていたのだが、この2人は全く実力を出していなかったらしい。
「アレは?どう見てもナイトが使う技だよなぁ」
「さっきの試合でナイトから技を盗んだのか?」
シオンから見れば、圧倒的にカミシロさんの動きが上なのだが、ここの観客にはそれがわからないようなので、勝手に誤解してくれている。
(ああして、避けて攻撃に繋ぐのか。あの動きは敵の刀の方向をズラす為か)
シオンにしてみると、カミシロさんの技を学ぶことは大きい。
(おっ、師匠の構えが変わった。居合斬り?いや、少し違うな?)
師匠が瞬間的に5メートルほど飛び込んだのを見て、シオンは驚いた。
師匠と色々訓練して来たのだが、今までに見たことがない技である。
それを驚く事もなく軽く躱せるカミシロさんもなかなかにおかしい。
勝負は、一進一退を繰り返し、なかなか決着がつかず、このまま、延々と続けるわけにもいかないので、結局、引き分けとなった。
興奮冷めやらぬまま、宴会は続いている。
シオンは、酒癖の悪いカミシロさんと師匠の間に挟まれて大変だ。
「師匠が、距離を詰めた技は何ですか?初めて見ましたけど」
「アレは、『縮地』というヤツだな。ナイトが覚えるには、まだ早い。今やると足の筋肉が断絶するぞ」
「そうですね。もう少し筋力と体幹を鍛えないといけません。でも、剣舞を使うのには驚きましたよ。幼少の頃は西洋剣しか学んでいないはずですし、あの不器用な親から学ぶはずもないのですけど・・・」
「それにしても、神主さんと聞いていたが、なかなかの武芸者ですね」
「いやいや貴方こそ。さすが里の生き残りです。これでも勝ち進む自信があったのですよ」
「お互い、こうして知り得たのも何かの縁です。一緒にナイトを鍛えましょう。コイツは、まだ、何か隠してそうだから、追い込まないと」
「そうですね。私もあの未完成で乱暴な剣舞は鍛え直さないとダメだと思いました。それにしても、最初の2試合で見せた技が納得いかないのですが、カズマさんが教えたのですか?」
「そうそう、思い出した。ナイト!アレは何だ?魔法の感じもしなかったし、一瞬で場所移動したろ」
「あのー。秘密ですから、小声でお願いしますね。実は、式神が使えるようになったんです。まだ未熟ですけど、式神と場所を交換できる技を覚えたんですよ」
「何じゃ?その式神って」
「師匠は知りませんか?紙とか葉っぱとかを依り代にして使役する技です」
「話を聞く限り、妖怪みたいな感じだなぁ」
「私は使えませんが、昔の先祖は、それで軍隊を作ったり、身の回りの世話をさせたりしたと聞きました。まさか、それが本当だとは思いませんでしたけどね」
「俺もそうなるといいなと思うのですが、今は、まだ偵察に使える小さな生き物しか作れません。遠くを見聞きするのに、ゴミのように小さい式神だと相手に見つからないので重宝してますよ」
「おおっ!夢のような技だ。ナイトっ、さあ、教えてくれ!今、今すぐだっ」
「何を言っているんですか?師匠の事だから、覗きでもしようとしてるのでしょう?鼻の下が伸びてますよ。それに教えたいのは山々ですが、どう言って説明していいのかわかりません。だから諦めてください」
「そう言わないで、何とか・・・」
「何ともなりませんって。上手く言えませんが、魔力に変わるような何かの力を使って操るのですけど、それが説明できないから無理です」
「確かに、それは、神に仕える技だと聞いた覚えがあります。その言い伝えでは誰でも使える物ではないらしいですよ。でも、不思議ですね。剣舞といい、式神といい誰から教わったのか?」
「カミシロさんが言うところの神託です。ここに辿り着けたのも神の導きなのだと思います。ご先祖様を夢で見て、色々教えていただきましたし・・・。実を言うとわ今、この里を復活させようとしているのも、神託があったからなんです。だからこそ、神社の復旧をするためにカミシロさんを呼んだのですよ」
「そうか。何となくだが納得できた。俺に神託が降ったことはないが、俺にこちらへの移住が決まったのも奇跡みたいなものだしな。あそこで神主は、税も納めないし役に立っていないとみなされていたんだ。あのまま、あそこに残っていたら、かなりヤバイ状況になりそうだった所へこの移住の話だろ、不思議なタイミングだと思っていたけど、神に助けられたのかもしれないな」
「それについては俺も全く、そうだと言うしかない。ナイトに知り合う前の俺は、結構腐っていたから。俺の知りうる限りをナイトに引き継ごうと考えたのも偶然と思えないし」
こうして、夜が更けていく。
酔った頭の割には、なかなか充実した話を聞けた夜であった。
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