第32話 勝負の行方
二回戦は、休憩を挟む事になった。
ジュエルは、前回にシオンが使った技を完全にマスターして兵士長と戦っていたのが気になるところだが、今回も秘策があるのでそれほどでもない。
休憩があるのは、ジュエルの連続試合となるので、領主からの心遣いだろうが、出場する者にとってはそれほど意味はない。
戦場では休憩が与えられるなど、考えもしないから、それを見越して鍛錬しているのだ。
戦士でないシオンでさえ、いつも師匠に言われている事である。
この休憩中に仕込んだものが上手くいけば、シオンは一瞬でジュエルに勝てる。
いや、ここの試合全部に勝てるのだ。
その上、シオンが全く疲れないというおまけ付きだ。
だが、欠点もあって、シオンとしては不安要素があるのも事実なのだが、訓練と思えばいい経験になるだろう。
第二回戦。
やる気満々のジュエルが構え、試合開始の合図を待っている。
(よしっ、準備は出来た)
シオンの集中も高まっている。
「それでは、始めっ」
審判の合図と共に、ジュエルの首にシオンの持つ剣が添えられていた。
「なっ?冷たっ!」
一瞬で静まり返る会場の中で、ジュエルの首に剣を添えたナイトが笑顔で佇んでいる。
ジュエルは試合開始の緊張より、添えられた剣の冷たさが上回ったらしくビックリしていた。
「うおおっー、凄いっ」
「どうやったんだ?あまりに速くて見えなかったぞ」
「ナイトー、凄いわっ、ヤッパリ私のナイトが一番よー」
少々変なのも混じっているが、静けさの直後に広場に歓声が轟いた。
呆気にとられていた審判が再起動してシオンの勝ちを宣言する。
「勝者、ナイト」
「ナイト、アレは転移術かい?」
ジュエルが冷静に聞いてきた。
「いいえ、違いますよ。タネは開かせませんけど、魔術じゃないですね」
「転移術なら、魔術界がひっくり返るほどの事だけどなぁ。今、必死に研究しているところだし、理論としてはあるけれど、今の所実現不可能な魔術だからね」
「前回のように俺の技を自分の技にしたいのでしょうけど、おだてても無駄ですよ。秘密は明かしません」
「チェッ!」
残念そうなジュエルと別れ、シオンは次の試合に集中しようとしたが、能天気な師匠が近づいてくるのが目に入り、自分の休憩時間が無くなったのだと自覚した。
シオンの予想通り、「あれは何だ?どうやった?」とうるさく付きまとってくる師匠によって次に試合は集中不足だが、次の相手である兵士長の戦法は予測済みだ。
何度も共に訓練した兵士長の性格から、開始直後にこちらへとイノシシのように突っ込んでくるつもりだろうと確信している。
だから、今回は別の手段で倒すつもりだ。
「それでは、第三回戦開始っ」
審判の合図を待っていたように飛び出して加速する兵士長。
シオンの予測的中である。
シオンは、刀の鞘を式神と交換する。
小さな式神は、兵士長の通過点に刀の鞘を突き刺して開けた穴に居るので、シオンがタイミングよく交換すれば、地面に刀の鞘が突き立っている形になるのだ。
この穴は、ジュエルとの対戦後に、刀を杖を突くように使い、戻りながら地面の所々に開けておいたものなので、誰も不思議に思わなかっただろう。
「ドテッ!ガチャッ、ガガッ」
シオンの思惑どおり、突然足元に現れた刀の鞘に引っ掛かり、鎧ごと地面に転がる兵士長。
タイミングよくもう一つの式神と入れ替わり、刀を突き刺す真似をして2勝した。
シオンは心配していたが、このくらいの距離ならば何度でも術が使えそうだ。
覚えてそれほど間もない術だが、極秘訓練による効果は高かったし、何より使い勝手がいい。
次の相手はカミシロさんだが、どんな闘い方をするのだろう。
シオンが、神主の仕事をしているところしか見たことないだけに不気味である。
第四回戦の前、休憩時間を利用してシオンは式神の準備を行なっている。
用意した式神を風を操作して目的の場所に配置するのであるが、傍目には紙屑が風に舞っているくらいに見えているはずである。
これなら、誰も気にしないまま仕込みが出来るのだ。
今回使っている式神が小さな紙によるものなので、地面に落ちていてもゴミくらいにしか思われないのが強みであるし、シオンが式神を使えることは誰も知らない。
さて、いよいよ開戦となるのだが、カミシロさんの武器はシオンの見たことも無いものだった。
モーニングスターに似ているので使い方もある程度予測はできるが、片側に鎌が付いているのは、切り裂く攻撃も出来ると言う事だ。
師匠が驚いたところを見ると、師匠は、あれが何なのかわかっているのだろう。
「それでは、第四回戦開始っ」
カミシロさんに対しては、情報不足だが、師匠と似たような感じがするので、油断は禁物だ。
既に式神を使った転移を、二種類見せているので、恐らくこちらの出方を見るだろうが、ここで、焦るのはマズイ。
どんな技にも瞬時に対応する訓練はして来たつもりだから、ここは、無難な攻撃が正解だろう。
転移も考えたが、カミシロさんが師匠のように開始直前から気を放っているので、転移した瞬間にカウンターで斬りつけられて、反撃を受ける可能性が高いのだ。
両者動かないまま、時が過ぎていく。
最初に動いたのはカミシロさんだった。
こちらに向かってくる、カミシロさんを観察したところ、足元の警戒もしているようだから、兵士長は使った技は使えない。
恐らく、あの武器は、鎖の伸びる範囲が危険だろうから、魔法による遠距離攻撃が正解なのだろうが、シオンの使える魔法では全く効果は無いだろう。
残す道は、あの間合いに入った一瞬のタイミングに合わせて身体強化し、懐に飛び込んで一撃を加える事になるだろう。
初めてジュエルと対戦した時に使った技である。
こんな場合は、使い慣れた技が一番リスクが低いのだ。
このいろんな検討は、実際、一瞬の事なのだが、それが勝敗を分ける事になる。
迷いや躊躇いは、敵が強いほど負けを意味するからだ。
「今だっ!」
シオンは、一瞬でカミシロさんの懐へ飛び込む。
カミシロさんの放った重り付きの鎖が、頬をかすめ、シオンの予測的中である。
あのまま、身体強化していなかったら、危なかったはずだ。
今、シオンの間合いにカミシロさんの体があるので、刀を横薙ぎに払うが、カミシロさんの体をフッと刀が通り過ぎる。
その瞬間、シオンの勘が危険を告げ、身を屈めると、首のあった辺りをカミシロさんの持っていた鎌がシュッと通った。
「危なかった!」
急いで飛び退いたシオンは冷や汗をかいていた。
仕留めたと思ったところに反撃を受けたのだから当然だ。
だが、何故シオンの剣がカミシロさんに当たらなかったのか、シオンにはわからない。
外すような距離ではないし、タイミングもバッチリだったはずだ。
カミシロさんは、どんな技を使ったのだろう。
シオンは、あの踊るような剣さばきでカミシロさんの繰り出す攻撃を躱しながら、隙を伺う。
「ほおっ、剣舞が使えるのか?だが、まだまだだな」
カミシロさんの感嘆の声とともに、シオンの剣が鎖に捕らわれ、シオンは負けを認めた。
「おおっー」
「凄かったぞー」
シオンの集中が解けて、ギャラリーの騒ぎ声が聞こえて来た。
負けてしまったが、いい試合だった事に間違いない。
(強い!師匠と互角かそれ以上だ)
カミシロさんは、ただの神主ではないらしい。
それはさておき、あと1試合残っている。
(師匠とは、いつもやりあっているからなぁ。それに、転移も見せたから何らかの対策をしてくるだろうし。正直、やりづれぇなぁ)
どう考えても、師匠からボゴボコにされるイメージしか浮かばない。
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