第31話 また、武闘祭りだー
神主であるカミシロさんを放っておいて、領主と熱い会話を始めたシオンの側にいつもの男がやってきた。
「いよおっ、ナイトっ。待ったかー」
込み入った話に割り込んできた男、師匠の登場である。
久しぶりに戻った領主の屋敷、やっと知り合いへの挨拶が終わったらしい。
「おっ、貴方が神主さんですか。お待ちしてました。ナイトの事だから、久しぶりに会ったら、感動で涙したのじゃないですかぁ。ガハハハ」
師匠は、俺の出所や事情を知っているから、こんな話をしても問題ないが、少しは気を使ってほしいものだ。
それに今日の師匠は、何だか野蛮だ。
男らしく見せようとしているのか?
師匠の事だから、多分、あれがカッコいいとでも思っているのだろう。
まあ、色々残念な人だから仕方ない。
「失礼しました。俺は、カズマと言います。里の生き残りといった方がわかりやすいでしょうか?」
まあ、まともに挨拶を始めたので悪気はなかったらしい。
「この人が、俺の武術師匠です。鍛えてもらってます」
「シオッ、いや、ナイトくんの?そうですか。じゃあ、ついでに後で手合わせを。その方がお互いの理解が早いでしょう?」
カミシロさん、やはりあなたも戦闘狂か?
それにあれほど言ったのに『シオン』と言いかけただろ。
奥さんは、何故止めない!
アッサリと模擬戦が決まってしまった。
これで、今晩はここで一泊決定だ。
全く、いつになったら里に帰れるのか。
「手合わせするなら、もちろんナイトも参加だな」
師匠!何を言ってるの?
「それはいいね。成長した姿を肌で感じれるなんて嬉しい限りだ」
カミシロさんも!何でこうなる。
里に戻った先の事を考えると不安になるシオンだった。
「ナイトー。来てたのね」
そこに現れたのは、セリナ。
領主のひとり娘である。
また、新たな問題児がー。
シオンの頭が痛くなる。
「来たなら来たで、私に挨拶くらいしてもいいでしょ」
少々お冠だ。
「いやぁ、ごめんごめん。色々とやる事があってね」
「もうっ、お父さまも自分だけで、ズルいわ」
「おやおや、今度はコッチかい?酷い八つ当たりだな。でも、良いところはきたようだ。これからナイトが模擬戦をするらしいぞ」
さすが矛先をかわすのが上手い、だが、確実に油に火を注ぎやがった。
「そうなの?また、あの勇姿が見られるのね」
「それは聞き捨てならないですね。もちろん、私も参加しますよー」
そこに現れた魔術師ジュエル。
何処から現れた?
お嬢様の魔術教師である。
また、厄介なのが増えたー。
それに、何でやる気を見せるのか?
色々と残念な人とは知っているが、もしかして戦闘が好きなのか?
シオンは泣きそうになる気持ちを我慢する。
「そうだ、それなら兵士たちも呼ぼう。盛り上がるぞ」
別に盛り上がる必要は全く無いのだが・・・。
何で領主までノリノリなのか?
俺はこんなアホな人たちに囲まれていたのかー。
シオンの虚しい叫びは、言葉にもできず、心の中で消えていった。
「なっ、何で俺だけー!」
兵士長対ジュエル
ジュエル対ナイト
兵士長対ナイト
カミシロ対ナイト
カズマ対ナイト
カズマ対カミシロ
領主に発表された模擬戦内容。
何故だかシオンだけ総当たり戦だ。
(何じゃコリャー!)
「仕方ないだろ。希望を聞いたら、ナイトとヤリ合いたい者ばかりだからな。それにナイトの試合を見たいとの数々の要望もあった。これでも調整したんだ。こんな領主としての苦労もお前ならわかるだろ、適当に休憩も挟むから納得してくれ」
納得しろって、
アンタが焚きつけたんだろうが・・・。
それに希望を聞くなよ、俺には希望は聞かなかったし、どう言う事だ?
そもそも、試合を見たいのはアンタだろー。
シオンは、心の中で領主に色々と悪態をついているが、止める事はできない状況だ。
屋敷の広い庭に急遽準備された格闘場という名の広場。
立食パーティーと言うか、バーベキュースタイルで食べ物や飲み物も配置済みだ。
もう、どうしょうもないくらいに盛り上がっている
「ナイトー、頑張って。私応援するからね」
また、人ごとのように・・・・娘も娘だ。
あの親にしてこの子あり!
「ぼっちゃ・・・ナイトさん、頑張ってー」
はあっー、カミシロさんの奥さんまで・・・。
夕暮れとなり、辺りが薄暗くなってきた中で、第1試合が始まった。
会場を照らしているのは、広場の所々に設置された焚き火の明かりだけである。
それが、かえって雰囲気を盛り上げている。
次がシオンの試合でなければ、並べられた料理を楽しめたのに残念だ。
「おおっ」
ジュエルの魔法が兵士長に向かって炸裂する。
魔術は昔習っていたが、魔術による戦闘を見るのは初めてだ。
初めて目にする遠距離攻撃。
シオンは、ジュエルが次の対戦相手になる事など忘れ、魔術師の戦い方に魅入られていた。
兵士長も手練れだけあって、魔術対策も万全らしい。
何かの道具でジュエルの攻撃をギリギリで交わしながら、一太刀浴びせようと斬り込んでいくのだが、やはり距離を保って攻撃する魔術には分が悪いようだ。
「うへぇ、凄いっ」
兵士長が何かを投げると、網のように広がってジュエルを包んだのだ。
「アイツめ、隠してたな」
いつの間にか師匠が横に立っていた。
兵士長の飛び道具が気に入らないようだ。
時折、一緒に訓練しているようだから、お互いに隠し技があるとは思うが、考えが甘いのだろうか?
「ナイトは、対人観覧しているが、魔術師との想定訓練はまだだよなぁ。大丈夫か?」
「それが、師匠としての言葉ですか?ここは、対策や戦い方を教えるところでしょ」
「そう言われてもな。教えなくても、ナイトは大体の事が出来るから、正直あまり心配しとらん。まあ、死なない程度に死んでこい」
「それって死んでるじゃないですか?アホなの?アホなのですかぁ」
「まあ、魔術師相手ならこんな見通しのいい場所は最悪だなぁ。俺は暗殺系だから特に森の中や街の中で魔術師の背後などの死角からの攻撃か、奇襲攻撃になるが、奴らには索敵魔法でこちらの位置がバレる。こちらも気配察知の技があるから化かしあいが中心の戦いになる」
「それで、こんな広い場所では?」
「基本は、『逃げ』だな。魔術師は、魔力にもよるが、遠距離攻撃できるからな。俺たちの飛び道具と差が出るのは仕方ない事だ」
「じゃあ、魔術師が有利なのですか?」
「集団戦や消耗戦になれば、まあ、こちらに分があるな。人と技術によるところが大きいのは、何にしても変わりない。あとは、経験だな」
兵士長の間合いに入る前に、ジュエルは素早く網から抜け出した。
短剣を手にしてるが、何をするつもりだろうか?
「おおりゃあー」
素早く、兵士長へと飛び込んで行くジュエル。
普段大人しいジュエルが叫んだのには、シオンも驚いた。
横に居る師匠の説明では、身体能力を上げる魔法で体術を使うのがジュエルの得意とする戦い方らしい。
(やはり・・・戦闘狂だ)
シオンは自分の人を見る目の無さにガッカリしていた。
こうなると、普通に見慣れた戦いになると思うのだが、ジュエルは、時折魔法を混ぜ、兵士長は、色んな小道具を使う。
シオンの見たことがない戦い方であり、なかなか勉強になる。
もし、自分だったならどうするか?
嫌でも次はシオンの番だ。
式神の事はバレても構わないが、まだまだ経験不足で重いものは持たせられないし、スキルも低い。
ある程度、風を操る事はできるが、ジュエルの使う風魔法ほどではない。
さて、どうしようか?
幼少時に学んだ魔法は、この相手には低級すぎてとても使えないから問題外だ。
シオンが悩んでいるうちに、戦いが終わった。
先に体力が無くなった兵士長が負けを認めたので、ジュエルの勝ちである。
それにしても、普段鍛えている兵士相手に体術勝負とはなかなかのものだ。
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