第24話 村おこし?いや、町おこしか?
昨日の余興の汗を流そうと風呂へやってきたシオン。
そこには先客として、カズマが居た。
風呂に浸かって和やかに話をする2人。
突然、カズマがザバッと風呂の中で立ち上がってシオンに頭を下げた。
風呂に浸かった深さが肩までなので、立ち上がるとちょうど腰の下くらいの深さである。
そのため、カズマの大事な部分がシオンの目の前にぶら下がっている。
「ナイト。ありがとう。感謝している」
「なっ、何ですか突然」
お礼を言われても、カズマが動くたびに見たくもないものが目の前でブラブラ揺れるので、シオンは、どうしていいのかわからなかった。
同性といえど、間近で見るものではないし、シオンにはそんな趣味は無いのである。
異性相手の実戦となれば、コレが凶器と化すのだろうが、今は大人しい状態だ。
だが、この状態でも目の前に持って来られると、シオンの精神をガリガリと削ってくるシロモノだった。
残念ながら、今のシオンにコレをどうにかする術は無い。
「俺は、この里の事を忘れようとしていたんだ。でも、生まれ育ったこの土地を忘れられなかった。心の何処かで何も出来ない自分に言い訳しながら生きて来たんだ。それをナイト、お前が変えてくれた。本当にありがとう」
「師匠。まだ、始まったばかりじゃないですか。これからですよ。ここから初めて俺たちで天下を取りましょう」
「ああ。俺もお前の夢を見させて貰う」
そう言ってカズマは男泣きしている。
その度に目の前でブラブラするので、シオンとしては、目の前のものを早くどけて欲しいのだが・・・。
「師匠。風邪ひきますよ。風呂に浸かるか、上がって体を乾かさないと。明日から開拓が始まるんでしょ」
「ああ、そうだな。だが、俺はこの里が復活すると思うと嬉しくてなぁ・・・」
「じゃあ、師匠はそこでひとり泣いていてください。俺は先に上がりますから」
「お前。冷たいなぁ。だが、そういうところは嫌いじゃないぞ」
「ハイハイ。・・・お先に」
そう言って、シオンは風呂を出た。
そんなシオンの目にも涙が溢れそうだったのだ。
カズマの苦労を考えたら、これまでのシオンへの出来事が思い出されて泣けて来たのだ。
だが、男2人で泣き合うのは避けたかった。
シオンの意地である。
翌朝、ナイトは早朝から小麦粉を捏ねて寝かせていたパンを焼いた。
パンの発酵用に山ブドウで作った酵母を使っているやつだ。
昨日は楽しかったし、朝食にサンドイッチを作るつもりでいる。
残ったパンは、みんなにここまで来てくれたお礼として持たせるつもりだ。
領主が帰っていった数日後には、シオンの求める人材が食料とともにこの村へとやってきた。
経理人と大工、それに土木技術者と料理人が、それぞれ2人ずつ。
鑑定能力のある領主のメガネに適った者だろうから、能力には間違いないはずである。
彼らは、領主の命令でここに赴いたのだが、まだ若いシオンのことを信用したわけではない。
「ようこそ。最果ての村へ。皆さんはご存知でしょうが、俺がナイトです。これから普通にナイトと呼んでもらって構いません。皆さんこの土地へ来たのが初めてでしょうから、今日は俺がおもてなしします。そして、この場所のポテンシャルを知ってください。とりあえず、長旅で疲れがたまっているでしょうから、温泉を堪能してもらいます」
そうして、露天風呂へと案内される。
湯に浸かる文化のない者を風呂に入れるのだから、最初に効果と効能を言い聞かせる所から始まった。
俺のひと通りの話にウンザリしたようなので、体を洗わせ風呂へ浸からせる。
習うより慣れろだ。
実践して初めて理解できる事もある。
「ナイト、さっきの話はウンザリだったが、石鹸、シャンプー、リンス、これは貴族の奥様方にに高く売れそうだ。そして、外で湯に浸かるのは、贅沢な事だな。勧められるのがよくわかった」
そう言ってきたのは経理人の1人。
すでに金の匂いを嗅ぎつけたらしい。
ナイトは、また、新たな移住者を受け入れた。
領主は、何度かに分けて移住者を送ってくるようだ。
その方がこちらとしても、とても助かる。
受け入れ体制が整うのにも時間がかかるものだから、当面は共同生活してもらう事も了承済みなのだ。
ナイトによって、ある程度の生活基盤はできているのだが、村を復興するとなるとまだまだやるべき事が多い。
「まずは、都市計画ですな」
少し年配で、落ち着いたダンディなおじさんが話し始める。
「いいえ、その前に地図作成です。そして出来上がった地図を元に都市計画をしましょう」
まだ若そうだが、しっかりした青年がおじさんの話の腰を折った。
「確かにそうだな。いやぁ、すまんすまん。新たな村を作ると聞いて、少し気が焦っていたようだ」
アッサリと非を認めるおじさん。
二人とも癖がありそうだが、領主はなかなか有用な人材を派遣してくれたらしい。
「それなら、これって役にたつかな?」
ナイトが取り出したのは、式神を使って空の上から見たこの村の地形図である。
「私は一時期、測量専門にやっていましたから、この図面の正確さがわかります。だけど、これをあなた一人で作ったのですか?測量技術をどうしたのかわかりませんが、大変だったでしょう」
「まあ、細かい事は言えませんが、いろんなやりようがあるのですよ。それよりも、これが使えますかね?」
「使えるって言うレベルじゃないです。計画に使うのに十分すぎる精度ですよ。それよりも、この図を僕が欲しいくらいだ。この図を写してもいいですか?」
「ええ、構いませんよ。なんなら、もう一枚出しましょうか?」
「えっ?まだ、あるのですか?それなら色々と地図に書き込んでもいいですね」
「そうだな。地図上で村・・・いや町の将来の形を作ってみよう」
こうして話し合いは続く。
何度もケンカにならかけながら、地図上に未来の姿が浮かび上がっていく。
最初は、領主から派遣されて嫌々ながら参加した連中も居たようだが、それぞれが自分の町に対する想いを現実にする夢を語り出したので、真剣な話し合いへと変貌していった。
「図面上では、みんなの夢が詰まったけど、これを現実まで持って行くには、問題となるのが開拓資金だな」
「そうだねー。これだけの事になると、領主様の持つ全資金数年分でも全く足りないだろうな」
「有力な貴族か国王にでも取り入って資金を得るか?」
「領主様の領地内に他の者からの資金はマズイだろ。それに、利権が絡むとこれからの開発に支障が出てくる。金は出すけど、口も出すと言う何処かの国がよくやるパターンだ」
「それなら、別の何かで稼いでこの地にその稼ぎを突っ込むか?」
「それはどう考えても違うな」
「それじゃあ、出来る部分と言うか、優先順位を決めて開発し、あわよくば資金を得るやり方しか無いのか?」
「先ずは、農地整備をして作物を植えましょう。その作物が育つ間に道の整備ですね。道の下には各家に引く飲料水と下水の水路も埋めるつもりです。どうせ作るなら誰もが驚くような物にしないと、こんな辺鄙な所には誰も来ませんよ」
結局は、こうしてナイトが話をまとめるのであった。
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