第23話 敗北と仲間と

 

 ナイトの予想通り最終的に残ったのはやはりカズマだった。

 そして、カズマとナイトの対戦となった。


 この戦いが、ここ1番の盛り上がりを見せる。


「師匠、いきますよ。手加減無しです」


 剣の代わりに棒を振り回すナイト。

 その踊るように円を描く剣筋に目を奪われる観客たち。

 その動きは美しく、俊敏な動きが時折混ざる今まで誰も見たこともない技だ。


 会場にはカツンカツンとナイトの棒とカズマの武器のぶつかる音が鳴り響く。


 ナイトの踊るようだが素早く打ち下ろされる棒を、カズマは全て弾きながら躱す。


「やはりダメか」


 とナイトは一言。


 ナイトはここで棒を捨てた。

 魔法で戦うつもりなのだろうか?





 それから、一瞬でカズマの懐へ飛び込み、拳の一撃を放つ。

 これもカズマは身をひねって躱す。


「ほうっ。ここにきてまさかの体術か。やるなぁ」


 それはカズマの気に入る技だったようだ。


「そろそろ本気でいくよっ」


 ナイトが火魔法を放つ。

 火の玉が直撃する寸前にカズマが横にずれて躱したのだが、そこにナイトの拳が待っていた。



 カズマはコレも紙一重で躱す。

 その時、カズマの足元からナイトが捨てたはずの棒が飛び込んでくる。


 ナイトは拳でカズマを殴りながら下に落ちていた棒を蹴り上げたのだ。

 カズマはそれを手に持った棒で弾いて避けた。


「今のは危なかったぞ。やるねぇ」


 とカズマは言いながら、ナイトの拳が連続で放たれるのを避けている。

 カズマの攻撃もナイトに当たらない


「もういいか?お前の動きはだいたいわかったから、そろそろ終わらすかな?」


 カズマが小さくそう言ったのが聞こえた。

 ナイトとしては面白くないので全力でいくのだが、あれほどカズマに肉薄していた拳が妙に流される。


 正拳突きで様子を見ると、ナイトの腕が伸びきった瞬間その腕を掴まれ、関節の曲がらない方向へと捻られる。

 折られるものかと飛んで躱した瞬間に地面へ叩きつけられ簡単に押さえ込まれた。


「かなり鍛えているようだがな。攻撃が単純なんだよな」


 ナイトの息は上がっているが、カズマは普段通りだ。

 これが実戦を経験した実力差なのだろう。


 ナイトはカズマによって地面に押さえつけられて動けない。

 あの瞬間、首に一撃されたら死んでいた。





「まいった」


 ナイトの降参でイベントは終わった。


「優勝。カズマ」


 領主の宣言に拍手喝采。


「やっぱりあなたは僕の師匠ですよ。僕の全力技が全く当たらなかったし。体術だけは自信があったのだけどな」


「体術を極めるのは、武術の根源だ。間違いじゃないぞ。武器は手足の延長と言い切るものもいるくらいだからな」


「これほど強いなら王都でもやっていけるのではないですか 」


「俺もそう思って王都の武術大会に出てみたのだがな」


「ダメだったのですか?」


「そうだ。それもけちょんけちょんにやられたよ」


「武術大会で優勝するには、正式な武術でないと難しい。暗器などは使えないしな。大会である以上ルールは必要なのだろうが、殺し合いの技には向かない。王都でやるなら急所を狙う俺の技より、お前の使うような正当な武術がいいだろうな」


 試合の終わった後ナイトはカズマに感想を漏らす。

 そこに領主がやってきた。

 小声でナイトに話しかける。


「2人とも、修行の話は後でしてくれ。すぐにみんなの所に戻らないといけないからな。それより俺は君のためこの村を復旧するのに力を貸すつもりなのだが、具体的には何を望む?」


「僕はこの村に来て気づいたことがあります」


 ナイトは微笑んだ。


「わかりませんか?」


「意地悪しないでくれ。それは何だ」


「僕は、この廃村を見つけた時腹が減って死にそうでした。そこで見つけたのが畑の跡地に生えていた大根だったのです。人が居なくなってずいぶん立つはずなのに、その大根はタップリと水分を含んでいました。それでこの土地が肥沃であると気がついたのです」


「土地が悪ければ、大根は細く硬くなるはずです。普通、火の山の近くであればこんな肥沃な土地ではありませんよ。ここは、まるで大きな川の近くに来たみたいに植物に元気がある」


「言われてみれば確かに」


「僕の両親は、領主の傍ら農業を営んでいました。農作業って家族だけではできないことも多いのですよ。だから近所の農家と集まって草刈りしたり、水路の整備したり、穫り入れや作物の植え付けも行います。僕はそれで作物の種類や見分け方、育て方の手順などを知ったのですけど、その中で一番重要だったのが土作りだったのです。土壌改良と言いますが、それは何十年もかけて行う作業なのです」


「ここは、その土壌改良とやらが行われたのだな。だから隣の領地は豊かなのか。スズタカは欲しがるばかりでそんな事を知らないだろうな」


 領主は納得していた。


「この場所はかなりの面積の土地が土壌改良してあります。ここに住んでいた人たちの努力によるものでしょう。だからちゃんと畑に戻せば、たくさんの収穫が期待できる場所なのです」


「それならば、農民を移住させればいいのか?」


「いいえ。僕が最初に欲しい人材は経理人と大工、それに土木技術者と料理人なのです。それと当面の食材の確保です」


「君にはまだ隠していることがありそうだな。その人材を求めるならこの村を復旧するだけじゃないだろう?目的は何だ」


「王都に留まる資産をこの領地に集めます。そのための布石です」


「俺の領地は、辺境と言われて王都に住む者からほとんど相手にもされない所だぞ。そんなことができるのか?」


「そうです。それも短期間で狙います」


「面白そうだな。それなら腕の立つ者を集めよう。開発に必要な技術者も送る事にする」


「ありがとうございます。人材に関して僕が何より重視するのは、知識と性格です。だから熟練者でなくても構いません。そこを履き違えないでくださいね」


 ナイト(シオン)を囲い込むつもりだった領主は、いつのまにかシオンの虜となっていた。

 これが彼の能力なのだろう。

 こうしてシオンは領主という者の1つの協力を得たのだ。


 そして、余興でかいた汗を流すために、また、温泉にやって来た。

 体を洗って露天風呂に行くと、先客としてカズマが浸かっていた。


「よお。先にくつろいでいたんだ。お前もそんな所に突っ立っていないで入れよ」


「弟子が師匠と一緒でいいのですか?」


「急に改まるなよ。気持ち悪い。裸の付き合いを領主様に訴えたのはお前だろ。そんなことを気にする奴とは思わなかったが・・・」


「少し虚勢を張っていたのですよ。気は小さいものですから・・・」


「嘘言っちゃいけないぞ。もう騙されないからな。お前、俺をからかって遊んでいるだろ」


「バレましたか?」


「ああ、バレバレだ。しかし、これからどうするんだ?領主様は人材を派遣してくれるらしいが、受け入れ態勢が出来ていないぞ」


「そうですねぇ。当面は、残っている家を補修してと思っているのですが・・・」


「こんな隙間風ばかりで倒れそうな建物は、これからの冬を越すには厳しいと思うな」


「そうですねぇ。この温泉の建物を補強しましょうか?共同生活なら何とかなるかもしれません」


「そうだな。それしか無いか。あと、人が来た時のための食料備蓄もしなくちゃいけないから、明日は狩りに出るぞ」


「俺もそう思っていました。兵士の皆さん、結構食べましたからね」


「それだけ美味かったんだ。よかったじゃないか」


「ええ。そうですね」


 シオンは嬉しそうに笑った。





 













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