第17話 屋敷での報告
領主の娘は、勝手にシオンを鑑定していた。
そしてその結果を師である魔術師に話しているところだ。
「それが、お嬢様の鑑定結果なのですか?」
「そう。彼が、もしも隠れた能力に目覚めれば、この世界全てがあの人に跪くの。指導者が居ないので、たぶん、あの人が能力に目覚める事はないでしょうけど。それでも凄い実力でしょ。貴方の魔力に屈しないどころか、貴方あの人の前だとダメダメだったじゃない。絶対にお父様も興味を持つはずだわ」
「確かに。あの者にはなぜか敵わないと感じた。本格的に威圧もされていないのに、体を巡る魔力操作ができなくなったのも初めてだ。今までも修羅場はあったけど、言葉だけでチビリそうになったのは初めてさ。でも不思議と恐ろしくはない、穏やかな人だったな」
「あの人に嫌われたり、敵にならない限りは大丈夫よ。それに私でも鑑定できないものがたくさん。料理もうまいし。どれだけ凄い人なのだろう?こんなのは、私の鑑定した中で初めてよ。私の前なら人は全てをさらけ出すはずだったのにな。あーあ、自信を無くすわよ」
「国家鑑定士のお嬢様が鑑定できなければ、この世の誰も彼の本性を知り得ないことになりますよ。今は、彼の人柄が良かったことで、良しとしときましょう。最終判断は、領主様に任せればいいのですよ」
「そうね。そうするわ。でも、何とか彼にうちに来てほしいなぁ。そしたら毎日美味しいものが食べられるでしょ?」
こうして話しながらセリナは家に戻ったのだが、危なくセリナたちの捜索隊が、屋敷を出発するところだった。
「ご領主様。お嬢さまを危険に巻き込んでしまったのは、私の不徳とするところです。申し訳ありません」
「お父様。心配かけました。でも、ジュエルを責めないでください。お陰で新たな出会いがあったのですわ」
それからセリナは、今日の出来事を事細かに父に話した。
「最果ての村か。久しぶり聞く名前だな。まだ残っていたのか?かなり荒れていただろう?」
「はい。かろうじて村とわかるくらいにボロボロになっていました。でもいち部分は、ナイトによって復旧されていましたよ。あっ。ナイトって助けてくれた人の事。頭を打って名前が思い出せないみたいなので私が付けたの。その人が作る料理がとてもとても美味しくて・・・」
「助けてもらった上にご馳走になったのか?」
さすがに領主が呆れた。
領主の娘が庶民にご馳走になるなど、普通ならばあり得ないことなのだ。
領主の娘セリナが、今日の出来事を父に報告するのだが、話が進むにつれて、だんだんとセリナのノロケ話のようになってきた。
父としては面白くないのだが、領主としては、それでも聞かなければならない。
何故だかその横にいるセリナの母親がニンマリしているのだが、当人のセリナは父への説明に必死だ。
「それがね。初めて見る見たこともない凄い料理なの。ジュエルは、それが倭人の料理である和食だと言っていたわ。だって、食べ出すと無くなるまで止まらないのよ。魔法みたいな料理なの。ああっ、もう1回食べたいなぁ」
思い出したのか、ヨダレをジュルッと拭う。
我が娘とは思えない、はしたない姿だ。
ポテチが和食だとは思わないのだが、セリナにとっては同じ括りなのだろう。
「それでね。助けてもらうのに危ない人だといけないじゃない?だから私その人を鑑定したの。お父様。ここから重要なんだけど、その人に覇者の相が出たのよ。もう、私ビックリしちゃって思わず勧誘しちゃった」
「それで?鑑定では、その人物は危険な人なのか?」
セリナの恩人が、覇者の相を持つ人物と聞いて父は興味を持ったらしい。
椅子に腰掛けていたのが、知らぬ間に前のめりになってきている。
「歳は私くらいの優しい人。でも怒らせてはダメだと感じたの。覇者の気だと思うけど、誤って怒らせそうになった時、凄く怖い感じがしたもの」
「そうか。伝説だと思っていたのだが。実在したのか。それが人格者なら、言い伝えを守るためにもなんとか囲い込まないといけないな」
先祖の恩人。
詳細は伝わっていないのだが、先祖の危機を身をもって救ってくれた覇者が、言い伝えのとおり、またこの領地に現れてくれたらしいのだ。
「あの人、なぜか強くなる事にこだわっていたし、その為にあの村から離れられないと言っていたわ」
「それなら、セリナを助けてくれたお礼を兼ねて会いに行ってみるか?」
「それなら自然ね。さすがお父様。私もそれはいい考えだと思うわ」
「ついでにカズマを連れて行こう。故郷を離れて久しいから懐かしいはずだ」
「あっ。そういえばお土産をもらってた。はい、これ」
セリナは、足元に置いていた竹かごを、父に見せる。
危機を助けてもらった上に、食事に呼ばれただけでも信じられない出来事なのに、セリナはお土産まで貰っていた。
まるであべこべである。
どちらに主権があるのか、領主としては、考えられない出来事だったのだ。
それを知って、領主はますます頭をかかえた。
セリナの見せた竹かごの中には、数個の石鹸、ロウソク、紙に包まれた川魚の干物が入っていた。
ともに添えてあった紙には、石鹸とロウソクの使い方、魚は火で炙って食べるように説明が書いてあった。
セリナの鑑定にあるように、危険人物でなければ、セリナへの親切心から行ったものだろう。
この行為に野心や下心がないとすれば、何とも親切な少年らしい。
それにもう1つ気になることもあった。
「コレは?」
領主は驚いていた。
紙自体が珍しいのだ。
手紙というかメモに使うのは理解できるが、包み紙として使うなどあまりにも贅沢である。
それに文字が書ける知識。
その少年は、かなりの教育を受けているに違いない。
「お父様。この石鹸は、私がもらってもいいですか?コレを使うと汚れが不思議と落ちるのよ。お母様に使って見せたいの」
「それは構わないが。このロウソクや紙の質は素晴らしい。本当に独り暮らしなのか?」
「そうよ。他には誰も見なかったもの。じゃあ、お母様。見ていてよ」
セリナは、水に濡らした手に石鹸を泡立てて見せ、自分の事のように自慢する。
「あらあら。セリナは子どもみたいね」
「この泡を、きれいな水で流すとね。ほらっ」
セリナの白い手がますます真っ白になった。
「凄いわね。これならお化粧を落とすのにいいかもしれないわ」
毎日、女性は寝る前に化粧を落とすのだが、これがなかなか落ちなくて大変なのだ。
「それにいい香りがするのよ。ナイトの髪の毛もツヤツヤでいい香りだったわ」
「えっ?」
父が固まった。
先程まで、微笑ましく娘を見ていた母までも。
「ねぇ。勘違いしないで。私が足をくじいて歩けなかったので、ナイトにおぶってもらっただけよ」
父と母は、ホッとする。
セリナが年頃の娘なので気を使うのだ。
実際にお見合いの話が多々あっているが、セリナ本人がことごとく断っている。
セリナが国家鑑定師になったのも、戦略結婚を断る為らしい。
鑑定師の発言には重みがあり、その権限は皇帝に次ぐものだからだ。
元々、家系的に鑑定能力に優れているのだが、セリナには稀に見る才能があった。
セリナは、それだけで満足せずに並々ならぬ努力で鑑定士となり、その後も知識を蓄えて昨年には国家鑑定師にまで上り詰めたのだ。
国家鑑定師の意思は、何より尊重されるし、本人の発言力も高まるのである。
だが、年頃なのに、男に全く興味を示さないセリナに両親は焦っていた。
そして母親は、娘と、恋話をするのが夢だった。
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