第7話 度重なる偶然と発見


 見つけた廃村の探検は続き、偶然、地下室を見つけた。


 試しにいくつか壺の封を開けてみる。

 封に印のある壺の中には、いろんな種類の乾物が保存されていた。

 見つけた地下室の壺から、厳重に保管された乾物類が多量に出てきたのは嬉しかった。

 ここにはシロアリが侵入した跡も無く、全てがシッカリしている。


 この地下室が水を通す性質の岩盤内にあるために、雨水などは下へと染み込んで岩の中を流れていくらしい。

 この岩盤は吸湿性にも優れているため、室内は乾燥してしまうのだ。


 我が領地でも、この地層を利用した保管場所は多々あるので、地質学の教師に散々教え込まれている。

 この地層の側には、水を通さない不透水層が必ず存在しているのが自然の不思議だ。


 この地下室は乾燥しており、乾物の保管を目的として作られたようだ。

壺だけではなく、棚には干し椎茸や干し魚、干し鮑などの高価そうな物がたくさん保管されていた。




 床には、大豆などの豆類や塩などが仕分けされ、入れられた麻袋に封をしてたくさん保管されていた。

 この時は塩だと思っていたのだが、壺に保管された少し茶色いザラザラした粉はなんと、高級品である砂糖だったのである。


 豆などの乾物類がどのくらいの期間保存可能なのかはわからないが、匂いを嗅いだり目で見る限りでは大丈夫のように見える。


 これを売るだけでもひと財産築けるくらいの量がある。

 観察したところ、蓋や袋に描かれた印が中の物を示しているようだ。

 床に並べられた麻袋からは、種もみと思われる米や麦なども新たに見つかった。




 離れで偶然にも乾燥用の地下室を見つけた事から、我が領地と同じ文化だと思う。

 それならば、湿度が一定の地下室も近くに存在するはずである。

 我が領地の文化の原点である隠れ里と同じならば絶対にあるはずだ。


 もう一度注意して廃村の全建物を調査したところ、離れの隣にある本家らしい建物跡にもう一つ地下室を発見した。

 床に隠された密閉度の高い石の蓋を持ち上げて外すと地下室への階段があり、降り立ったそこには、予測通り酒と味噌が保管されていた。




 味噌は、他領と違う独自文化の我が領地と同じ調味料だ。

 隠れ里に近いためなのか?

 やはり、不透水層を利用して作られた一定の湿度がある保管場所だ。

 我が領地では、主に醸造場所として使われている。

 この地下室は適度に湿気もあり、我が領地と同じように酒や味噌の醸造のために利用されていたようだ。


 その証拠に味噌と酒造りの道具も保管されている。

 ここが醸造菌を使う作業場兼保管場所だったのだろう。

 保存状態が良い感じがするので、酒は大丈夫だろうが、味噌はどうなのだろうか?


 醸造菌にはたくさんの種類があるらしく、壁や棚の木材などには自然に醸造菌が付着して、その酒蔵や味噌蔵特有の醸造となるために酒や味噌の風味が蔵によって違うらしい。


 木樽に保管されている物と壺に保管されているものがある事から、ここの酒は何種類かあるようだった。

 何か新しい酒の研究をしていたのかもしれない。




 真っ暗なため地下室の奥まで完全に見たわけではないが、結構先まで続く通路のような作りになっている。

 恐らく、不透水層の岩盤に沿って掘られたものだと思う。


 蓋のゆるい壺に入れられた酒の一部は残念な事に酢に変わっていたのだが、それはそれで使いようがある。




 この廃村を見つけ、ひょんな事から調味料を色々と手に入れる事ができた。

 これで基本生活が一気に贅沢になる。


 流石に大根が続くのは勘弁してほしいので、朝、川にミミズを餌とした蟹カゴを沈めてある。

 明日には何か川のものが食べられると思う。


 この蟹カゴも廃村の民家で見つけたものだ。

 鰻を取るために使う竹筒も見つけたのだが、入り口のトラップとなる部分が風化しており、新たに竹を見つけて加工しないと使えない。




 何事にも生活基盤が整わないと手がつけられない。

 生活基盤とは。

 それは衣食住のことである。


 離れまで運んできた壺には、掃除を終えた井戸から汲んだ水が満たされ、鍋や食器も整理して置いてある。

 1人だけの生活で、どれだけうまく衣食住の安定をやれるかが問題だ。

とりあえず住については、完了らしい。


 今晩はここでお決まりの大根を煮て食べる事にする。

 鍋に砕いた干し椎茸と干し魚を入れて煮込み、ダシが出たところに角切りした大根を入れる。


 大根に火が通ったら、薪を引き弱火にして味噌を足すと大根の味噌汁の完成だ。

できた味噌汁を食器によそい、一口食べる。


「ウメェェェッ」


 決してヤギではない。

 あまりに美味しいので思わず声が出たのだ。

 今までの記憶にある味噌汁の中では最高の出来だ。


 心配していた古物味噌の状態もいいようだ。

 腐ってもいないし経年劣化 もしていないらしい。

 この辺りの植物は若干であるが、前に暮らしていた領地での記憶にあるものと違う。

 その辺りが、保存期限が変わる原因なのかもしれない。




 飲み水代わりに一緒に準備したコップ一杯の酒は、ドブロクのようで少し酸っぱ味があるが悪くない。


 未成年でも、ここに存在する人間は1人だから酒を飲んでも誰にも咎められないのである。

 どこかの国みたいに、水の代わりにワインを飲むようなものと思うがどうだろうか?

 酒を飲んだ瞬間、喉から胃にかけてカァーッと灼けるような熱さを感じるような酒だ。

 舌の上に残る甘味とその後に鼻から酒のいい香りが逃げていく。




 大根の味噌汁の味付けは、甘めの味噌だったのだがそれがいい。

 口の中に広がる絶妙な塩加減に上品な乾物のダシが、なんとも表現できない美味しさを作り出している。


 口の中でホロホロと崩れる大根もよく味が染みている。


 これほどまでに美味しいのは腹が減っていたためだけではない。

 料理の手際の良さは自分でも惚れ惚れするくらいだ。

 よく考えてみれば、調理の記憶もないのに包丁が難なく研げる事自体不思議な話である。


 味噌汁へ加えるダシについても、なんとなく体が動いた結果だった。

 俺は前世で料理人だったのだろうか

 疑問が頭をよぎるのだが、まったく何も思い出せない。


 色々考えている間に完食してしまった。

 でも、これは何を原料とする味噌なのだろう。

 個人的に甘めの米と麦の合わせ味噌が好きだったのだが、それとはかけ離れているのは間違いない。




 ここで見つけた味噌は、八丁味噌や赤味噌とも風味が違う。

味噌は地下にまだたくさん残っているが、材料と作り方が分かるまでは、大事に使う事にした。

 まぁ、それだけ美味しい味噌だと言う事なのだ。


 それに食べた瞬間から体に力がみなぎってくる。

 大根や乾物は、直接かじってみているから原因は味噌で間違いない。

 なんにしろ貴重な品だ。


 味噌を水に溶いて鍋に移し、三分の一になるくらいまで煮詰めていく。

 これを綺麗な布で濾せば、醤油の代わりになるのだ。

 これを陶器の甕に移し味噌と同じ場所に保管する。


 この地下室は蓋が頑丈なので、しっかりと閉めていればネズミなどの害獣も入れないだろう。




 翌日は、川に仕掛けた蟹カゴにモクズガニが3匹入っていたので、3匹とも生きたまま石臼に入れ殻ごと細かくなるまで叩き潰した。

 モクズガニは、上海蟹と同じ種類だ。

 殻ごと潰して粗めの布で濾せばいいダシになる。


 この濾した汁に味噌を溶かし、弱火で温めるとカニのタンパク質がフワフワした塊になってくる。

 カニまき汁と言われる料理だ。

 これがまた美味い。


「プファッ。上手いいいいいー。沁みるぅ」


 思わず叫ばずにいられない旨さだ。

 それに体が芯からが暖まる。

 夜に冷える今の季節には最高だ。



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