第23話 魔法少女はデートに出掛ける。

 そして、日曜日はやって来た。

 フィオネはおばさん店員からなるべくオシャレをするのよと言われて、彼女のなりに気を遣った服装をしてみた。

 とは言え、実は彼女、これまでおしゃれなど気にした事など無かった。

 その為か、今の服装は近所の洋品店で売っていたピンクのパーカーに安っぽいソフトジーンズである。美人の要素を台無しにしている事を彼女自身は気にする様子は一切ない。そこに現れたのが、根がおたく気質な店長。彼もどこで売っていたかを確認したくなるイラストの入ったTシャツに奇しくもお揃いとなってしまうソフトジーンズ姿であった。

 「フォオネさん。待たせたね」

 「いえ。少し早く来た程度です」

 「じゃあ、行こうか」

 デートの仕切りは店長。おばさん店員からの指示である。

 そして、年齢=彼女いない歴の店長には初めてのデートである。

 「ま、まずは買い物に行こうか?」

 「買い出しですか?」

 「いや・・・デパートに行って、色々と見て回ると言うか・・・」

 「はぁ・・・資金があまり無いので、買い物と言っても」

 フィオネは懐具合を心配する。

 「だ、大丈夫。僕が出すから」

 「よろしいのですか?」

 「あぁ・・・任せて」

 こう見えてもコンビニオーナーである。

 同年代の平均からすれば、裕福な方なのだ。

 「ありがとうございます」

 フィオネは深々とお辞儀をした。

 それから、デパートで買い物を楽しむ。

 最初は買い出し程度と思っていたフィオネもデパートの品揃えに驚き、そして、やはり女の子なのだろうか。流行りの服や装飾品に目を輝かせる。

 店長はそんな年相応な雰囲気に更に目が離せなくなる。

 そして、彼の財布は一気に消費された。

 

 「さて、お昼ご飯でも食べようか」

 「お昼ですか・・・ですが、何か高そうな」

 貧困生活を送っていたフィオネにはデパートの飲食店街の価格は目を見張るものだった。だが、そこは店長。

 「予約してある店があるから」

 そう言って、ちょっとお高めの寿司屋へと向かった。

 カウンターしかないお店には頑固そうな店主が寿司を握っている。

 雰囲気はダサめの二人が入るには場違いであったが、一流店だけあり、そこを咎める事などしない。

 二人がカウンターに着くと、店主は頑固そうな表情を崩し、笑顔で「何にしやす?」と尋ねてくれる。

 とは言え、お品書きには時価がズラリと並ぶ。

 「時価とは何ですか?」

 フィオネはその意味が解らなかった。

 「時価ってのはネタによっては旬があって、相場が変わるんです。なので、その時の値段でやらしていただいています」

 店主は丁寧に説明してくれる。

 「時価・・・値段が解らないと頼みにくいような」

 フィオネが悩んだ時、店長は店主に頼んだ。

 「一人、1万円でお願いします」

 「1万円!」

 聞いていたフィオネが驚く。

 「へい。わかりました」

 店主は寿司を握り始めた。

 「そんなに高いんですか?」

 「頼み方にもよるけど、僕は予算をそれぐらいに見積もってきたから」

 「す、すごいのですね」

 フィオネの尊敬の眼差しに店長は自信満々になる。

 さすが一流店の寿司だけあり、ふたりは満足して食べ終わる。

 そして、今度は映画館へと向かった。

 映画は定番とも言える恋愛物。

 そもそもフィオネは恋愛が何かを知らないとおばさん店員のアドバイスにより、決まった事だった。

 映画と言うか、フィオネが居た世界では劇はあった。役者が舞台で物語を演じるのを見る。数少ない娯楽の一つであった。

 「凄いな。大きなテレビだ」

 フィオネは映画館のスクリーンを見渡し、驚く。

 「ははは。テレビとは違うけど・・・」

 店長は苦笑いをしてしまう。

 そして、映画が始まった。

 ありきたりな恋愛物であったが、感動のラストは主人公とヒロインのキスシーンであった。

 店長はそれをフィオネと重ねてしまい、顔を赤らめる。

 映画が終わり、夕刻に映画館を出る。

 「この後・・・夕飯もあるんだけど」

 「そうですか・・・ありがとうございます。服も装飾品も買っていただいて、豪勢な料理まで・・・店長には何から何までお世話になりっぱなしで・・・」

 「い、いいよ。僕が好きでやってるんだし」

 「好きですか・・・」

 フィオネの一言に店長はドキリとする。

 その時、誰かが通りかかった。

 「あっ・・・フィオネだ」

 金髪碧眼の美少女はフィオネを指さした。

 「あんたはアリス!」

 フィオネは咄嗟に戦闘態勢を取る。

 「何してるの?」

 「何って・・・」

 尋ねられて、急に恥ずかしくなったフィオネ。

 正直、デートを始めるまではただ、出掛けるだけだと思っていたが、こうして、一日を過ごす。何だか気恥ずかしさを感じていたのだ。

 「で、デートだよ」

 「デートって何?」

 「デートはデートよ。煩い!自分で調べろ!バーカ!店長行くよ!」

 フィオネは店長の肘に肘を掛けて、強引にその場から離れる。

 奇しくもそれは店長にとって、思いもよらぬ接触であった。

 そうして、去って行く二人をアリスは不思議そうに見送った。

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