第21話 魔法少女は補講を受けなければならない。

 テストで赤点を取ってしまったアリスに補講を受ける事が命じられる。

 彼女が赤点を取った教科は数学と英語と化学。

 数学はそもそも九九さえ習ったことが無いアリスが高校の数学に挑戦した事が無理があった。そして、英語も同じだ。日本語が解る理屈通り、英語も脳内の自動翻訳で理解が出来る為に実際に読み書きとなれば、日本語を覚えたと同じぐらいに苦労するのである。そして化学。アリスの世界にはまったく無い知識であり、アリスは一から覚える必要がある事だらけだった。

 大魔法使いとしての威厳が赤点を取ってしまったという現実を許さない。

 屈辱。

 まさに屈辱だった。

 アリスは生まれて初めての屈辱を知ったと言えるだろう。

 生まれながらに強大な魔力を有し、圧倒的な才能で魔法を次々と習得し、そして、新たな魔法を産み出し続けた天才である。

 数学だって、余裕で覚えられると思った。

 だが、魔道の世界で必要なのはせいざいが足し算引き算程度。

 いざ、高校の数学を学び始めれば、まったく足りてない事に気付いた。

 それは英語、科学も同じだ。

 最初から圧倒的に分が悪い事は解っていた。

 だから、必死になって追い付くべく、勉学をしたが・・・。

 結果的には天才と言えども、時間が足りなかったわけだ。

 「むぅうううううう」

 苦悶するアリス。

 一から勉強をすることの苦悩はアリスを苦しめる。

 「アリス・・・唸っても捗らないぞ」

 彼女の前で勉強を教える隆は呆れ果てる。

 「そう言うがなぁ。これまで触った事の無い知識を叩き込むじゃぞ?」

 「仕方が無いだろう。日本人で言ったら小学生レベルの数学なんだぞ?」

 「九九ってなんじゃ。こんなの覚えられるか?」

 「魔法はスラスラと呪文を唱えられるだろ?」

 「むぅ・・・確かに呪文っぽくも無いが、呪文は言葉の羅列ではなく、文章だからなぁ」

 「へぇ・・・文章なんだ」

 「そうじゃ。意味の無い文字の羅列なんぞで魔法は発動せんよ」

 「そんなことを言われても・・・」

 「九九なんぞ・・・ただの数字の羅列では無いか?」

 「それが便利なんだろ?」

 「確かに・・・この世界に来て、電卓やらスマホやら便利な道具に溢れている。多分、そうした事が科学の発展の基礎になってるんだろうな」

 「やっぱり、魔法と科学じゃ違うんだ」

 「ふむ。魔法は魔導素子と呼ばれる存在が人の心と干渉して、発動されるとされている。魔導素子は人の思ったことを具現化する。だから、光ったり、水となったり、火となる。そんな便利な存在が無い世界ではこれらを欲するには自然の力を利用するしか他ならない。だから、魔法はチート的な力と言わざる終えない」

 「チートかぁ・・・」

 「まぁ、頼り過ぎた結果、私の世界では科学が発達せず、何もかも魔法に頼り切ってしまったのだがね。科学が発達しておれば、こちらの世界のような裕福さも手に入れておっただろうに」

 「なるほど・・・便利過ぎて、その文化レベルに落ち着いたって感じ?」

 「そうなるな。だから、帰って、奴らに科学の素晴らしさを教えてやりたいな。特に電気に関しては万能感が半端ない。発電は魔法でいくらでも雷が発生させられるしな」

 「魔法発電って」

 「まぁ・・・まずは私が勉強して、それらの理屈を理解せねば、始まらないがな」

 アリスは無駄話をやめて、再び勉強に戻った。


 補講は1週間。

 1週間後には再テストが行われ、ここで及第点以上を取らないと、再補講となる。

 さすがのアリスも再補講などと言う屈辱には耐えられない。

 午前中の全てが補講となっている。

 朝一番からアリスは登校して、補講を受ける。

 補講の受講者は全部で6人。

 病気で試験を受けられなかった1人を除いては、皆、問題児っぽい。

 その一人、明らかに不良少女っぽい女子生徒は深刻な表情で教師の話を聞いていた。

 「くそ・・・何も解らないぜ」

 その呟きに教師が反応する。

 「久世・・・まだ、補講についての説明しかしてないぞ」

 「うるせぇ。なんであっしが補講を受けないといけないんだ」

 「赤点を取ったからだよ」

 「授業に出てないんだから仕方がないだろ」

 「いや、出ろよ。お前、赤点もそうだけど、出席日数不足で留年するぞ?」

 「留年だと・・・だったら中退だ」

 「良いけど・・・お前、働くの?」

 「くぅ・・・働きたくない」

 「えぇ・・・だったら、高校ぐらい卒業しなさい」

 「解った。それで、補講でちゃんと単位くれるんだよな?」

 「最後の試験に受かったらな」

 「試験?また、試験をするのか?」

 「当然だろ。ちゃんと補講を聞いていたかをチェックしないと意味が無いだろ?」

 久世は金髪の頭をグチャグチャと両手で掻く。不意に彼女は隣に座るアリスに気付く。

 「んっ?そういえば、あっし並に髪の毛を染めてるあんたは何者?」

 そう問われて、アリスは自己紹介をする。

 「ふむ・・・私はアリスだ。お前は外国人と言うやつか?」

 「いや・・・染めているだけだって・・・あんたは違うのか?」

 「染める?髪の毛を染める事が出来るのか?」

 「あぁ・・・そんなことも知らないのか?何色にだって染められるぜ」

 「そ、そうなのか・・・それじゃ、お前の金髪も・・・」

 「あぁ。地毛は黒だよ」

 その時、教師が地味にツッコミを入れる。

 「久世・・・染めるのは校則違反だぞ。黒に戻せ」

 それを無視して、久世はアリスに話しかける。

 「すげぇ、外国人かよ。こんな人形みたいな外国人美少女、はじめて見た」

 「ふむ・・・容姿の良さは自覚しておる」

 「お・・・おう。すげぇ、自信だな。面と向かって言われるとひくわ」

 「それより、おまえは学校に来るのが嫌いなのか?」

 「嫌いじゃないよ。ただ、低血圧で、朝が起きられないからな」

 「それは何となくわかるな。私も朝は苦手だ」

 「へっ。まぁ、それでも高校ぐらいは出ておかないとな」

 「高校ぐらいか。高校を出たら働くのか?」

 「それしかないっしょ。頭が悪いから大学は難しいし。下の兄弟も居るから、家に金を入れてやりたいしな」

 「それは殊勝じゃな。では、まずはこの補講を乗り切らねばな」

 「そうだな」

 アリスは何となく、久世が不良少女の割りに気が合うと思った。

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