第20話 魔法少女、働く。
ホームレス生活二週間目になるフィオネ。
服も小汚なくなり、洗濯をしたいところだが、着替えも無い。
さすがのフィオネもこれだけ長い間、体をまともに洗うことも出来ないのはまずいと感じていた。
だが、働くこともままならないのではと思いつつ、空き缶集めに早朝の町を歩いていると、いつも弁当を買いに行くコンビニの店長と出くわす。
「あっ、おはようございます」
店長はまだ、30代中頃の何の特徴も無さそうな男だった。挨拶をされて、フィオネも挨拶を返す。
「大変そうですね」
集めた空き缶の袋を見て、店長は笑顔で声を掛けてきた。
「ふむ・・・だが、そろそろ、まともに働いて、家を手に入れれねばならない」
「はぁ・・・何か事情があるんですか?」
「うむ。別の世界から来てな。無一文のまま放り出されたのだ」
明らかに外国人らしい少女がそう言うと、不法入国者じゃないかと店長は疑う。
「あぁ・・・だったら、あなたの国の大使館とか領事館とかに行ったら保護して貰えるのじゃないですか?」
「大使館とかはよく解らないが、この世界には私が居た国は無くてな」
それを聞いた時、店長の低い偏差値の頭脳がおかしな答えを導き出す。
この子は戦争か何かで国を失い、難民となって、着の身着のまま、日本に流れ着いたに違いない。
「解りました。僅かな間ですが、私が、住む場所と仕事を世話します」
その言葉にフィオネは驚いた。
「ほ、本当か?」
「はい。うちは昔からマンションやアパートを幾つか持っており、空室も幾つかありますし、仕事だって、このコンビニで働けばいいです」
「神かっ!」
フィオネはこの世界で初めて、頼りになる者を見付けた気がした。
「私の名前は菊池栄一。あなたのお名前は?」
「私は・・・フィオネ=アルマダ=ラグラン」
一瞬、北の魔女と言いそうになったのを堪えた。この世界に魔法が無いことははっきりとしている。使える魔法も夜中に明かりを得る程度しか使えないし。
「フィオネさんと呼べば良いでしょうか?」
「ふむ。それで構わない。これからよろしく頼む」
こうして、フィオネのホームレス生活は唐突に終わりを告げた。
店長に連れられて、やって来たのは築50年以上は経っているだろうアパートであった。明らかにオンボロなのだが、住めないわけじゃない。
二階の片隅が空室となっていると言うか、かなり空室が多い。
「ごめんね。いつ取り壊しになっても良いようにあまり新規の入居を断っている物件なんだよ」
家賃さえまともに払って貰えるかわからない少女を相手にまともな部屋など貸せないのは当然だとフィオネは思った。
だが、中は思ったよりも綺麗に掃除がなされていた。畳敷きの四畳半一間。押し入れあり、キッチンあり、風呂無しトイレあり物件である。
「お風呂は近くに銭湯があるから。コインランドリーもあるから。これ、少ないけど、着替えなどを買って、風呂とコインランドリーと今日の夕飯ぐらいはあるから。あと、明日から仕事をして貰うから、明日の朝、9時にはコンビニに来てください」
そう言い残すと、店長は去って行った。
フィオネはこれほど、人の優しさを感じた事は無いとただただ、その背中に感謝するだけであった。
布団は無いが、段ボールハウスに比べれば遥かに快適に畳の上で眠れた。
風呂にも入り、新しい服にも着替えられた。これだけでも生活が一変したようだった。フィオネは気分爽快で、コンビニに向かった。
コンビニは朝の忙しさが終わり、お客さんの少ない時間となっていた。
店長とおばさんの店員が店に居た。
「おはようございます。店長」
フィオネがそう声を掛けると、店長が笑顔で返事をする。
「やあ、見違えるようですね」
さすがに二週間も風呂に入ってなかったことから考えると、まさに美少女感が漂っていた。
「あら、店長!彼女?」
おばさん店員は店長の脇腹を肘で突っつきながら、からかう。
「違いますよ。新しく働いて貰う人です」
「こんな可愛いのに?」
「何でもわけがあって、国を失って、難民になってしまったらしいですよ」
「ほんとうかい?それは大変だね。まだ、子供なのに。わかった。ここの仕事は私が教えてあげるから、頑張って働くんだよ」
「よ、よろしくお願いする」
よくわからないテンションの高さにフィオネは少し引いた。
コンビニのバックヤードにあるロッカー室で渡された制服に着替える。腰まである長い髪は渡されたゴムバンドで纏めた。
バックヤードから出てきた姿に店長と店員、偶然、居た男子大学生の客は見惚れる。それ程に彼女はやはり、美少女であった。
「言葉は喋れるが・・・文字が読めないのだけど」
フィオネがそう言うと、丁寧に店長と店員が仕事の仕方や商品名などを読み上げる。大魔法使いと呼ばれた存在のフィオネはそれをすぐに覚え、尚且つ、文字などもすぐに覚えていった。
「ふむ。文法などの違いあるが、それほど、読むのに苦労する言葉では無いな」
あまりの覚えの良さに二人が唖然とするほどであった。
なんだかんだで、夕方までには一人で仕事が出来るほどになっていた。そして、夕方のコンビニには美少女の店員が入ったと噂が広まり、近隣の大学や高校から客が殺到した。
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