第17話 期末試験
アリスはいつも通り、授業を受けている。
言葉や文字は解ると言っても、あくまでも脳内で変換されているだけに過ぎない。知らない言葉はどうにもならないし、知らない事は知らないのだ。
しかしながら千年を生きた魔法使いは伊達じゃない。元々、探求心が強く、賢いのである。家ではゲームばかりしているとは言え、教科書はしっかりと読み込んでいるし、授業も強い集中力で全てを理解している。無論、宿題だって、欠かさない。
「期末試験?」
突如として訪れたのが試験である。アリスはそれが学校での授業を受けて、どれだけ身に付いたかを測る事である事は即座に理解している。しかしながら、千年を生きた魔法使いでも試験を受けた事は無かった。無論、弟子を取ったり、部下を採用する時に試験を課した事は幾度もある。だが、アリス自身が試験を受けた事は実は今まで、一度も無い。他人に力を測られるなどあり得なかった。
「面白い・・・私の実力を見せる時が来たようだな」
勉強には自信があった。確かに、この世界に来て、初めて学ぶ事ばかりであったが、それはむしろ、彼女の探求心に火を点けた。彼女の勉強の凄さは身近に居たみのりが良く知っている。
「アリスなら学年一位は間違いなしだよ」
みのりに言われて、アリスも鼻高々で満足気に頷く。
帰宅するとアリスは早速、期末試験について、隆に尋ねる。
「期末試験かぁ・・・えぇっと」
隆は昔の試験問題を探し出す。
「こんな感じに問題が出て、答案用紙に答えを書くんだよ」
「紙に書くだけか?」
「あぁ、そうだよ」
「私が昔、弟子に課した試験だと魔法の実技もさせたわ」
「この世界には魔法が無いからね」
「知識を試すだけなら余裕だな」
「本当に?」
「こう見えてもちゃんと教科書は読んでるしな。確かに私の世界には無い理屈がいっぱいだが、解らない事もない」
アリスは余裕の笑みを浮かべながら、ゲームを始めた。
そうこうしている内に期末試験が始まる。
アリスは余裕の笑みを浮かべながら、前から回されてきた問題用紙を見る。
アリスの顔はみるみる内に青くなる。
そして、期末試験1日目が終わった。
真っ青な顔のアリスを隆は見た。
「ど、どうしたの?」
そうアリスに声を掛けると、アリスは覇気の無い声で答える。
「だ、ダメだ。まったく解らなかった」
「テスト・・・出来なかったんだ」
「じゅ、授業では解ったつもりでいたんだ。だけど・・・問題として出されるとまったく、解らなかった」
「まぁ、解ったつもりでいると、意外と理解してなかったって事はあるよね」
「授業では簡単だと思ったんだよ。特に数学とかは・・・」
「あぁ・・・だけど、今までやった事が無かったんだよね?」
「う、うん」
「じゃあ・・・それが原因じゃない?」
「そ、そうか・・・では一から勉強をし直さないと・・・ダメって事か?」
「たぶん」
「そ、そうなのかぁああああ」
アリスは発狂しそうな感じに頭をグチャグチャと両手で掻き回した。
アリスはすぐに家に戻り、二日目の試験科目である世界史と現代国語、英語の勉強を始めた。さすがに大魔法使いとしてのプライドが勉強が出来ない事を許さないらしい。それに隆も付き合わされる。
夕飯も食べずに彼女は教科書とノートに見続ける。隆は彼女のノートを初めて見たが、どうやら、授業に対して、あまり力を入れて無かったのか、ノートへの書き込みは少なかった。仕方がないので、隆のノートを見せて、勉強を教える。
「うううう・・・まさか、こんなに難しい事だらけだったとは・・・」
アリスは悶絶した。今まで適当に流して勉強してた事への罪とも言えるだろう。隆も教えていて、アリスの学力が思ったほどじゃない事に驚いた。
一夜漬けで何とか、朝までにある程度を暗記したアリスは目をギラギラさせながら、隆と共に登校をする。
「私は本当に今日のテストを無事にやり遂げる事が出来るだろうか?」
不安そうなアリスにみのりが駆け寄る。
「だ、大丈夫だよ!アリスちゃんなら、何とかなるはずっ!」
と根拠のまったくない応援をする。それでもアリスには効果があった。自信を微かに取り戻したアリスはテストに挑んだ。
結果的には一夜漬け程度ではまともな効果などが出るはずも無く、三日後に返却された答案用紙にアリスは愕然とする。
「ぬううううう・・・赤点とは・・・・」
それに答えるみのり。
「赤点って・・・落第点の事だよ。補講と追試だよ」
「補講・・・追試?」
「授業を受け直して、試験を受けるんだよ」
「ぬううううう・・・屈辱だ」
アリスはやはり悶絶した。さすがにこの結果は大魔法使いに大きな精神的ダメージを与えた。家に帰ってからもアリスは悔し涙を流しながら、部屋に閉じ籠った。
隆は仕方が無しにしゃぶしゃぶを用意して、アリスを慰める事にした。
近くのスーパーマーケットに買い物に向かおうとした時、外で不審な人物を発見した。怪しげな中年男性が家を覗こうとしていたのだ。隆は声を掛けるのが怖かったので、警察に通報しようとスマホを取り出すが、その様子を見た男は逃げ出した。
「泥棒かなぁ・・・戸締りをしっかりしておこう」
隆は不安になって、戸締りを確認する為に家の中に戻った。
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