第16話 魔法少女は悪魔認定されちゃいました。
アリスは家庭用ゲーム機で遊んだまま、疲れて眠ってしまった。
千年を生きた大魔法使い。
そんな威厳など微塵も無かった。
炭酸飲料とポテトチップスを広げ、ラフな姿で寝ている姿はただの少女だった。
宿題を終えた隆は溜息をつきながら、彼女に毛布を掛ける。
彼女がこの世界に来て、1ヵ月が過ぎた。
しっかりとこの世界に馴染んでしまった異世界の住人。
その事はどうでも良かったが、正直、この先、彼女はどうするつもりなのか。それは聞きたくてもなかなか聞けない事だった。
隆は自室に戻ろうとした時、不意に何かの視線を窓から感じた。窓に寄って、外を眺める。だが、誰も居なかった。当然だろうと隆は思い、カーテンを閉めた。
武藤家の塀に隠れるようにしているのは神父であった。彼は懸命に背筋を伸ばし、塀越しに家の中を覗いていたのである。無論、そんな光景を誰かに見られたら、変態だと思われ、通報されるので、周囲を確認しながらの行動だ。すると窓に近付く人影があり、慌てて、隠れたのである。
心臓が飛び出るかと思うぐらいにドキドキする。
だが、確かに、この家から魔力を感じたのだ。
ここに悪魔が居るはず。
確信してみたものの、明らかに普通の家なので、こうして、外から確認しようとしていたのだ。
「しかし・・・こうしている間にもこの家に魔力を感じる。確かにここに悪魔が・・・居るはずだ。必ず、正体を暴いてやるからな」
神父はそう呟きながら、去って行った。
翌朝、アリスは起きて、欠伸をしている。
隆は呆れたように居間で寝ていたアリスに声を掛ける。
「アリス。結局、あのまま、朝まで寝てたの?」
「ふにゃ・・・このゲームが面白くて、やり過ぎてしまった」
アリスは立ち上がり、フラフラと洗面所へと向かう。
その間に隆はゲーム機などを片付ける。
顔を洗ったアリスだが、まだ、寝ぼけた感じで食卓に着く。
「隆、朝ごはんはまだですか?」
「まだだよ。牛乳でも飲んで待っていてよ」
アリスは再び、フラフラと立ち上がりながら、冷蔵庫へと向かう。
冷蔵庫から冷えた牛乳を取り出し、コップを手に取り、食卓に戻って来た。
「冷え冷え~」
アリスは嬉しそうに冷えた牛乳をコップに注ぐ。
彼女の世界では牛乳は腐り易いので、牛を飼っている農家ぐらいしか飲めなかったそうだ。それもこれだけ冷やした牛乳を飲むなんて考えもしなかったそうだ。
「美味しい。ついつい飲み過ぎて、お腹がギュルルルになっちゃうのだ」
「学校でお腹を壊さないようにほどほどにするんだよ」
その間に隆は目玉焼きとレタスとプチトマトのサラダを皿に盛った。そして、トースターから焼いた食パンを取り出し、アリスの前に置く。
「バター、バター♪」
アリスはバターナイフでバターを切り取り、熱々のトーストに塗りたくる。
「あんまり多く塗るなよ」
隆は微笑みながら目玉焼きを食べる。不意にアリスは牛乳を見る。
「冷たい牛乳も良いが、温かいのも飲みたいな」
「じゃあ、レンジに掛ける?」
「いや、こいつで」
アリスは牛乳に手をかざした。すると仄かに赤い光にグラスが包まれる。
それを見た隆はそれが魔法だと感じ取った。
「おいおい・・・」
僅かな時間で光は収まる。そして、アリスはグラスを手に取り、一口、牛乳を飲む。
「ふむ。ちょうど良い温度だ」
「牛乳を温めるぐらいに魔法を使うなよ」
「これぐらいしか使い物にならない。これで今日の魔法は終わり」
「何だか勿体ない使い方だな」
隆は美味しそうに牛乳を飲むアリスを見て、呆れ果てる。
その時、インターフォンのチャイムが鳴った。隆はこんな朝に誰だろうと思い、インターフォンの端末へと向かう。
画面には一人の男が立っていた。明らかに怪しい感じだった。どこか視線は宙を泳ぎ、何かを言いたげに口元がプルプルと震えていた。
「何でしょうか?」
隆がそう尋ねると、彼は堰を切ったように話し出す。
「こ、ここに、ここに、悪魔が居るだろう?今、魔力を感じたのだ。悪魔だ。悪魔がここに居るはずなんだ。頼む。扉を開けてくれ。私が悪魔を退治する。私は神父だ。神に仕える者だ。悪魔の倒し方は長年、学んでいる。倒せるはずだ。早く・・・」
隆は怖くなり、インターフォンの端末を止めた。
それを聞いていたアリスはトーストを口に咥えながら尋ねる。
「なんだ?悪魔がどうとか?」
隆は振り返り、困惑した表情をする。
「さぁ?とにかく・・・警察を呼ぶよ」
数分後にパトカーがやって来て、玄関前で騒ぐ男を確保した。
隆は玄関先で警察官と会話をした後、登校の準備をする。
「何だか・・・学校の周りにもウロウロしていたんだって・・・変質者らしいから、暫くは僕と一緒に登下校するよ」
隆に言われて、アリスは頷く。
「ところで・・・変質者ってなんだ?」
「あぁ・・・」
隆は呆れ顔で彼女に変質者の説明をした。
それからアリスと共に学校へと向かう。
学校へと到着すると変質者が逮捕された事が話題になっていた。
その頃、警察署の取調室では警察官相手に神父は怒鳴っていた。
「あそこに確かに悪魔が居るんだ!間違いが無い!」
さすがに警察官達は呆れ果てて、どうしようかと考え込む有様だった。
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