第13話 魔法同好会

 アリスはみのりと共に校内を散策していた。

 目的は活動場所を探すためだ。

 折角、立ち上げた魔法同好会だが、内容が内容だけに人前で活動するのはちょっと恥ずかしいみのりが言うので、人目につかない場所を探したのだ。

 

 「ここが素晴らしい」

 そこはあまり使われない理科実験準備室だった。本来なら鍵が掛かっているのだが、アリスは魔法を使って、内側から鍵を動かしたのだ。

 「暗幕が掛かって、暗いですね」

 みのりは教室の灯りを点ける為にスイッチに手を伸ばす。

 LED蛍光灯によって、明るくなった途端、みのりの目の前には骸骨があった。

 一瞬、みのりは悲鳴を上げ掛ける。

 「何とも白骨が飾ってある。悪趣味な」

 アリスは白骨標本を眺めながら、そう呟くだけだった。

 「アリスさんは怖くないの?」

 「そうだな。白骨や死体など見飽きたわ」

 アリスは中へと入って行く。

 「ふむ。そこそこ暗くて、広いな。それになにやら面白そうな道具もいっぱいあるしな」

 アリスは道具を手に取りながら、ニヤニヤとする。

 「うわぁ。埃がいっぱい。どんだけ使われてなかったんだろう」

 みのりは机の上の埃を気にする。

 「まずは掃除からだな。掃除道具入れから道具を持って来る」

 アリスは教室の隅にある道具入れから箒や雑巾などを持ち出す。

 二人は30分程度、時間を掛けて、それなりに使えるように掃除をした。

 「よしっ。綺麗になったな」

 アリスは額の汗を拭いながら、満足気に言う。

 「ここが活動の場所になるんですね」

 「そうじゃ。魔法同好会の活動拠点である」

 二人は中央に置かれた4人掛けの机に向かい合わせで座る。

 「それで・・・魔法って何を調べるの?」

 みのりはアリスにそう尋ねた。

 「ふふふ。みのりは魔法を信じるかね?」

 アリスは意味深にみのりに尋ねる。彼女は少し考え込んだ。

 「あると思うよ」

 「ほっほー。なるほど。魔法を信じるか」

 「うん」

 「よかろう。今から魔法を見せる」

 アリスは右手を開き、掌を上に向けた。

 「まずは炎を生み出してやる」

 彼女がそう言うと、右手の上に火の玉が生まれた。

 「わぁああああ。凄い」

 みのりは突然の事に驚き、仰け反る。

 「ははは。安心しなさい。魔法で生まれた炎は燃焼物があるわけじゃないからすぐに消えるし、熱さも左程はありはしないわ」

 「そうなの?」

 「うむ。こちらの化学とやらを少し齧って何となく理解したが、つまり、本来、物が燃えるには可燃物が酸素と激しく反応して発生する現象なのだ。魔法は可燃物のところをマナが代用しているわけで、可燃物に比べて酸素と結びつきづらい物質に力を加えて、燃やしているだけだから、可燃物が燃えるに比べれば、力も時間も小さくなってしまう。だから、魔法で火を出した場合はすぐに可燃物に移すのが常識よ」

 「じゃあ、よくアニメやゲームに出て来るみたいに火の玉を生み出して飛ばすのは出来ないの?」

 「そういうのは可燃物に着火して、更に風の魔法などで飛ばすのよ」

 「そうかぁ!」

 みのりはアリスの説明に酷く納得した。

 「うむ。しかし、風の魔法と火の魔法を同時に使うと炎の噴き付ける事は出来る。ドラゴンの炎もこの応用よ。ドラゴンの場合は風の魔法じゃなくて、息を吐くだけだけど」

 「ドラゴンはやっぱり炎を吐けるんだね」

 「そう。ドラゴンは炎を吐く。水辺に棲息するドラゴンは水を噴き付ける。その勢いは鋭く、木ですら切断する」

 「ヤバい」

 「そうだ。ヤバいだろ?」

 そんなこんな魔法の世界の話をしているとアリスは部屋に大き目の模造紙があることに気付く。

 「大きな紙があるな。これは素晴らしい」

 「ただの模造紙だよ?」

 「模造紙?ふむ・・・よく解らないが、これだけ綺麗な紙を作れるのは凄い事なのよ」

 「へぇ・・・アリスの居た国では紙は珍しいの?」

 「あぁ、とても貴重だし、あまり大きな紙は手に入らなかった」

 机の上に模造紙を広げた。

 「これなら、可能かな」

 アリスは鞄から筆箱を取り出す。

 「マジックペンと言う便利なペンを貰ったからな」

 そう言って、マジックペンの蓋を取り、模造紙に何かを書き始めた。

 「なになに?」

 みのりは興味津々で見ている。

 「ふふふ。見ていなさい。これから魔法陣を描くから」

 慣れた手つきでアリスは魔法陣を描いていく。

 幾重にも円を描き、星のような模様に見た事も無い文字を連ねた魔法陣。

 「これでマナがここに集められ、魔法陣に描かれた方程式に沿って、魔法が発動される。この魔法陣を動かす切っ掛けはちょっと力を加えてやるだけ。みのりでも魔法が発動が出来るかもしれない」

 「ほんと?」

 「あぁ、本来、魔法陣と言うのは魔力の増幅、自動化などの為に構築されるからな」

 「どうやってやるの?」

 「魔法陣の中心に手を置くの」

 みのりは緊張しながら魔法陣の中心に手を置いた。

 「そして、集中するの。この場合は目の前に炎が出るように」

 「う、うん」

 みのりは言われた通りに集中した。

 瞬間、魔法陣の黒い線が青白く輝いた。

 「えっ」

 みのりは驚く。その瞬間、目の前に一瞬だけ炎が生まれた。

 ボシュ!

 突然、炎が出て、消えたのを見て、みのりは更に驚き、飛び退いた。

 「ははは。驚いたか」

 アリスはその様子に大笑いをする。

 「もう!すごい驚いたよ」

 「それが魔法だ。何もない所に火が出ただろ?」

 アリスに言われて、みのりは納得した。

 「本当に魔法ってあるんだね」

 「まぁ、この世界では魔法陣を使ってもそれぐらいしか出来ないけどね。マナが少な過ぎるのよ。あんな一瞬の炎なんて、ライターを使った方がマシでしょ?」

 アリスは自嘲気味に言う。

 「でもでも、凄いよ。あんなの誰も出来ないよ」

 みのりははしゃぐ。

 「みのり・・・だけど、魔法が使えるのはお前と私だけの秘密。魔法少女は基本的に他人に明かさないものだよね?」

 アリスに言われて、みのりはハッとなり、慌てて口を塞ぐ。

 「まぁ、この程度しか力が出せないから、大したことではないけどね。だけど、いつかこの世界でももっと大きな魔法が使えるように研究をしたい。みのりはそれを手伝ってくれる?」

 「うん!手伝うよ!こんな不思議な事なんて、絶対、面白もん」

 「よかった。私も一から調べるのに一人では心もとないと思ったからね。まぁ、隆は居るがね」

 「隆って、アリスが居候している家の人?」

 「あぁ、良い奴だよ」

 「じゃあ、その人も魔法同好会の会員だね」

 「そうね」

 こうして、彼女達は魔法同好会の部室を手に入れた。

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