第12話 魔法使い

 昨晩は手品の動画を食い入るように見入っていたアリス。

 それは魔法とは大きく違うが、タネさえ解らぬ程に不可思議な現象が次々と起き、飽きさせなかったのだ。

 「眠い」

 夜更かしをしてしまったアリス。

 寝ぼけ眼でダイニングに来て、机に突っ伏している。

 「アリスは夢中になると、加減をしらないね」

 そんなアリスを見て、隆は笑う。

 「ふむ。手品は思った以上に面白かった。だが、魔法とは違って、ちゃんとした仕掛けがあるのだな」

 「そうだよ。だから手品なんだから」

 「ふむ・・・私がやりたい事は違うんだよなぁ」

 「アリスのは本当に魔法だからね」

 「そうだ。こうして、ちょっとした炎や風を起こすぐらいしか出来ないがね」

 アリスは器用に炎を掌に出す。

 「でもかなり上手になってきたね」

 「あぁ、微かしか集まらないマナだが、コツを掴みつつある」

 「マナってどうやって発生しているの?」

 「大抵は生命だよ」

 「生命・・・人や動物の?」

 「それもそうだが、多くは植物や大地、海かな」

 「へぇ・・・じゃあ、自然豊かな方がマナが集まるんだ」

 「確かに・・・加工されてしまうと、すでに死んだも同じで、マナは残っていない。大地もここは皆、アスファルトを被せられて、マナを得られないからな」

 「じゃあ、一度、山か海にでも連れて行こうか?」

 「本当か?確かに、一度、試してみたいな」

 アリスには今度、遠出をする事を約束して、隆は朝食を出した。

 

 登校すると、アリスは早速、部員集めを考えた。

 すでに部員となっているみのりも一緒に考える。

 「この世界で魔法と言うと、どんなイメージなんだ?」

 アリスはみのりに尋ねる。

 「魔法ねぇ・・・やっぱり、魔法少女かな」

 「魔法・・・少女・・・それは何だ?」

 アリスは魔法と少女の組み合わせがよく分からなかった。

 「魔法少女はね。憧れだよ」

 「憧れ・・・何で憧れなのだ?」

 アリスはみのりの答えに更に困惑する。

 「アリスさんは知らないの?昔からアニメとかで魔法少女が活躍するっての。あぁ、外国ではあまり日本のアニメが流れてなかったのかな」

 「ア、アニメ・・・なんだそれ?」

 「アニメ知らないの?」

 「う、うん」

 アリスはアニメという単語さえも理解が出来なかった。

 「解った!じゃあ、私のコレクションを貸してあげるよ!」

 「か、貸す?」

 「うん。ブルーレイBOXを買ったから」

 「ぶるーれいぼっくす?」

 「ブルーレイ知らない?」

 「う、うん」

 「よし!私の家に来なさい!」

 みのりの勢いに圧倒され、アリスは同意してしまった。


 放課後、みのりに誘われ、彼女の家に向かうアリス。

 道中、みのりは夢中になってアニメの話をする。

 彼女がこれからアリスに見せようとしているアニメは10年以上前に地上波で放送されたアニメで、魔法少女達が魔法を駆使して、活躍する話であった。

 話を聞きながら、アリスもかつての自分を思い出す。

 みのりの家は学校近くのマンションであった。

 「学校と同じで頑丈そうな造りだな」

 マンションを仰ぎ見つつ、アリスは驚く。

 「普通のマンションだよ」

 みのりはそんなアリスを見ながら笑う。

 エントランスでみのりがカードキーを端末に当てると自動ドアが開く。それを見て、アリスは更に驚く。

 「わわわ。このガラスの扉。自動で開いたぞ。魔法か?」

 「自動ドアですよ」

 「自動ドア・・・なのか・・・これも電気で動いているのか」

 アリスは自動ドアを珍し気に眺める。

 それから5階までエレベーターで上がり、みのりの家に入る。

 「なるほど・・・これがマンションと言う建物か・・・」

 アリスは納得しつつ、居間へと通される。

 ソファに座り、50インチの液晶テレビを前にする。

 「ふふふ。これが魔法少女ミラクルまるみちゃんのブルーレイですよ」

 ピンク色の箱を手にみのりがやって来る。

 「ほぉ・・・」

 アリスは手渡された特典の小冊子を眺める。

 「ではでは・・・早速、流します」

 みのりはデッキにディスクをセットして、再生をした。


 その日、隆はみのりに電話で呼ばれ、夜更け前にマンションの下までアリスを迎えに来た。

 「いやぁ、一気に5話まで観たから、いつの間にか暗くなっちゃって」

 みのりは隆に謝る。

 「いや、アリスに友達が出来て良かったよ」

 隆は丁寧にみのりにお礼を言う。

 「ふむ。とても楽しい時間だった。また、続きが気になるから観に来ても構わないか?」

 アリスはみのりにそう尋ねると彼女は胸を張って、頷く。

 「当然だよ」

 

 夜更けの街を隆とアリスは肩を並べて、歩く。

 「それで、アリス達は何をしていたの?」

 「アニメを観てました」

 「へぇ・・・どんなアニメだったの?」

 「魔法使いの少女が活躍する素晴らしい作品でした。この世界に魔法は無いけれど、ああして、人々は魔法を望んでいるのですね」

 「いや・・・まぁ・・・」

 隆は少し困る。

 「何とかして魔法をこの世界でも使えるようにしたいですね」

 「でも・・・マナを集めるのが難しいんだろ?」

 「確かに・・・だけど、まったく無いという事は無いのは解りました。色々と調べてみれば、元の世界通りとはいかないまでもそこそこ、魔法が使えるんじゃないかと思うのです」

 アリスはやる気満々だった。

 「まぁ、とにかく、魔法はこの世界には無い事が前提だから、あまり目立たないでね」

 「解っているわ。異端と判断された者がその世界でどんな末路を辿るかは・・・私もよく知ってるから」

 「どんな末路だよ」

 「聞きたいですか?」

 アリスはニヤリと笑う。 

 「い、いや。いいよ」

 「あら、そうですか」

 「まぁ、それも良いけど、この世界に馴染む事も忘れないでね」

 「解っている。どう頑張ってもこの世界で生きていくしかないからな。不老不死の身体を手に入れたと思っていたが、まさか、こうして、寿命を考えるようになるとは思わなかったわ」

 アリスは不満そうな表情をした。

 「それより、今日の晩御飯は何かしら?」

 「あぁ、ハンバーグだよ」

 「はんばーぐ?」

 「ミンチ肉をコネて焼いた料理だよ」

 「よく解らないけど、肉は良いわ。今日は肉の気分だから」

 アリスは笑いながら、小走りで駆け出した。

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