第10話 魔法少女は学校生活を楽しむ

 アリスは満足気に教科書を開き、最初の授業を受けた。

 彼女にとっての初めての授業はとても大きな意義があったようで、彼女は隆に休み時間に興奮したように話す。

 無論、その様子は休み時間にアリスと会話をしたいと思っていたクラスメイト達も見ていたわけであるが。

 羨望の眼差しを受ける隆は心苦しかった。

 アリスは何だかんだとクラスの人気者になった。

 やはり容姿の良さは大きなプラスである事は間違いがなかった。

 贔屓目で見ても美少女であるアリスを嫌う者は少ない。

 尚且つ、飾らない感じのアリスの振る舞いも良いのだろう。

 まぁ、中身は千歳以上だとすれば、誰もが驚くだろうが。

 「アリスさんは部活とかしてましたか?」

 クラスメイトの女子がそう尋ねる。

 「ぶかつ?何だそれは?」

 「あぁ、部活ってのはスポーツや音楽など、学校の授業以外に参加する活動だよ」

 「なるほど。よくわからんな」

 「何かスポーツってやったことある?」

 「すぽーつ?」

 「運動だよ。運動」

 「運動か・・・私の国ではボルテチアというのが流行っていたな」

 「ぼるてちあ?」

 女子達は初めて聞く単語に困惑する。

 「ふむ。こう魔法で・・・」

 隆がアリスの口を背後から塞ぐ。

 「いや、ボルテチアってのはアリスの国の球技だよ。何だかすごくマイナーで多分、日本で知っている人は居ないかな」

 隆は知ったかぶりで嘘を言う。

 「へぇ・・・そうなんだ。球技だったら、うちもソフトボールとかラクロスとかあるよ」

 「ラクロス似合うんじゃない?」

 「あぁ・・・球技って球を使うのだろ・・・私は運動が苦手で」

 「アリスちゃん、運動が苦手なの?」

 「あぁ、数百年はまともな運動など・・・」

 またしても隆がアリスの口を塞ぐ。

 「アリス。まだ、日本語が不得意みたいだな。数百年じゃなく、数年だろ」

 「そ、そうなんだ」

 隆の行動に女子達が少し引き気味だったが、納得はしたようだ。

 「だったら、文科系でいいじゃん」

 「ぶんかけい?」

 「絵を描いたり、小説を読んだり、手芸をやったりするんだよ。あとパソコンとか」

 「ほぉ・・・」

 「とにかく教室の中でやる奴だから、運動は無いし」

 「それなら・・・楽しそうだな」

 アリスは放課後、女子達と共に部活周りをする約束をした。

 

 隆はアリスに「僕はついて行けないから、あまり自分が異世界から来たって事を知られないようにしろよ」と忠告して、先に家路に着いた。

 アリスはクラスメイトの3人と共に校内の案内と部活案内に出た。

 アリスの案内をしようと声を掛けたのは学級委員長の水田里美である。眼鏡を掛けたお下げ髪の真面目そうな少女だ。彼女の友達である三浦みのり。同じく里田嘉穂。どちらもスポーツ系と言うより文科系の感じであった。

 「因みに私は委員会活動があるので、部活はしていません」

 里美は眼鏡を上げながら言う。

 「いいんかい?」

 「あぁ、委員会ってのは部活は別で、学校の活動に必要な仕事をする集まりです」

 「仕事をする。それを生徒が?報酬を得るためか?」

 「違います。生徒自治の基本原則から、学校生活を向上させるために委員会が存在します」

 「なるほど・・・それは・・・面倒だな」

 アリスはあっさりとそう言い放つ。

 「まぁ、委員会活動は里美みたいに好きじゃないと出来ないね」

 みのりがおもしろそうに笑いながら言う。それに里美は嫌そうな表情を見せる。

 「生徒会も楽しいですよ。あなた達が楽しみにしている文化祭なども仕切っているのですから」

 里美は意地になってそう言い張る。

 「まぁまぁ。それよりこの校舎は特別棟と呼ばれる場所で一階に美術室や地学室、理科実験室などがあって、上は音楽室などがあるの。LL教室やパソコン教室などもあって、図書室もあるわ。それ以外の空き教室もあるの」

 佳穂が丁寧に説明をする。

 「ふむ。なるほど。ここに文科系の部活が集まっているのか?」

 「空き教室などもあるからね。音楽室はブラスバンド部だし、美術室は美術部。図書室には文芸部が居るよ。因みに私は文芸部」

 「文芸部って何をするところだ?」

 「文芸部は皆で本を読んで、感想を言い合ったり、自分で小説や詩を書いて、発表したりするの。楽しいよ」

 「小説家・・・物語は書いた事がないな」

 「何か他に書いたりするの?漫画とか?」

 「まんが・・・って何だ?」

 「コミック・・・あっ、あまりそう言うのは見ない人?」

 「すまん・・・ゆおく解らない」

 「絵で物語を表現している本だよ」

 「絵で・・・絵本みたいなものか?」

 「ははは。今度、貸してあげるよ」

 三人はアリスが漫画を知らない事に大笑いをする。

 「では、まずは一階から行ってみよう。一番、手前にある教室は理科実験室。科学部があるよ」

 「科学か・・・それは非常に興味が湧くな」

 「アリスさんは科学が好きなんですか?」

 「いや、これまでまったく触れてこなかった分野だからな。知識として興味がある」

 「知識ですか。まぁ、うちの科学部は変人の集まりですけどね」

 みのりは笑いながら言う。

 「変人か・・・なるほど」

 アリスは魔法の研究をしている者もよくそう言われていたなと思った。

 理科実験室の扉を開くと、そこには制服の上から白衣を着た生徒達が居た。彼らは何かを作ったり、薬品を扱ったりしている。

 「何かね?」

 一人の生徒が四人に気付く。

 「あぁ、留学生に部活の案内をしてまして」

 「留学生?・・・科学に興味があるのか?」

 男子生徒は新入部員獲得のチャンスに喰い付く。

 「あぁ、この世界に来て、科学がこれほど発達している事に驚いてね」

 アリスの意味不明な話も無視して、男子生徒は科学部の事を話す。

 「うちはいま、ロボットの研究を進めていてね。これを見てくれ。予算に限りがある中で、開発した猫型ロボットだ」

 そこには不細工な猫のような形をした機械の塊があった。

 「これは?」

 「この中に人工知能が内蔵され、コミュニケーションを取った相手を認識して、学習して、会話をしてくれる」

 「機械がか?」

 アリスは人間の子ども程度にある大きなロボットをマジマジと見る。

 「コンニチワ」

 ロボットはアリスを見て、突然、挨拶をした。それにアリスは驚き、後退る。

 「今、アリス君を認識して、挨拶をしたんだよ」

 男子生徒は自信満々に言う。

 「そ、そうなのか・・・こんにちわ」

 アリスもロボットを見ながらお辞儀をする。

 「アナタハ誰デスカ?」

 「あぁ、私は留学生のアリスだ」

 「アリス・・・登録シマシタ。私ハ、ハロー。ヨロシクネ」

 「凄いな。これは本当に人間が入ってないのか?」

 「あぁ、そうだ。まぁ、このプログラミングを動かす為にパソコンが10台。並列して動いてないと止まってしまうけどね」

 「ふーん」

 アリスはよく理屈が解らないが、楽しそうな分野だと思った。

 「アリスさん、科学部にしますか?」

 「いや・・・知識がまだまだ、追いついていない。かなり勉強しないとこのレベルには追い付けないな」

 アリスは自らの知識が到底、足りない事を自覚して、諦めた。

 「じゃあ!次に行こう!」

 みのりは強引にアリスを引っ張って行った。

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