第9話 留学生となった魔法少女
巧は翌日にはアリスが留学に必要な書類へのサインと学費の振り込みを終えていた。更にはアリスには制服が必要だろうとその費用も振り込んであった。
「制服の用意が出来るまで1週間ぐらい掛かるから、学校で予備に置いてある制服を借りて来たよ」
隆は学校から帰ると、アリスに制服を渡す。
「おお。これで明日から学校に通えるな」
アリスは制服を手に喜んでいた。
「しかし、よくうちの編入試験を合格が出来たね。まだ、文字だってしっかりと書けるわけじゃないし、知識だって知らない事の方が遥かに多いのに」
「ふん。確かに・・・かなり難しかったが、殆どが選択肢を選ぶ問題で良かった。魔法が役に立ったよ」
「魔法?」
「あぁ、僅かに魔法が使えるようになっただろう?だから、試してみたのだ。運気を上げる魔法をな」
「なにそれ?」
「簡単だ。単純に運気を上げる。だから、5択の問題でも何も考えなしで選んでも普通よりも数倍に的中率が上がるのだ」
「そ、そんなインチキが・・・」
「インチキとはなんだ!ちゃんとした魔法だぞ」
「だけど・・・それじゃ、運だけで合格したってだけじゃないか」
「仕方があるまい。せっかくのチャンスを不意にするわけにはいかなかったのだ。私としても自らの知識で挑戦が出来なかったのは不本意だが、出来ることは全てやらせて貰っただけの事だ」
アリスの説明に隆は呆れるしかなかった。
「まぁ、学校に通い始めたら、しっかりと勉強してよ。学校の試験はマークシートばかりってわけじゃないから」
「解っている。あのようなマネはあれ一回だけだよ」
隆の通う高校の女子の制服は校章を胸に付けた紺色のブレザーに赤いネクタイと白いブラウス。チェック柄の赤いヒダスカート。靴下は白、または黒のハイソックスに学校指定の靴となる。私学だけあり、この辺はその辺の公立に比べて、デザインが可愛らしい。
アリスは試しに制服に袖を通した。
「ふむ。少しサイズがブカブカかな」
袖が手の半分を隠しそうな感じだったが、それでも何とか着れた。
「まぁ、借り物だからな。ちゃんとした奴が来るまでの我慢だ」
隆はアリスを見ながら、言う。ただし、ちゃんとは見れていない。
私服のアリスもかなり可愛かったが、制服姿だと、また印象が変わるなと思うと何だか恥ずかしくなってきたからだ。
「そうだな。しかし、なかなか気に入った。初めて、生徒なる身分にもなれるしな」
「解っているのか?生徒って奴は勉強をする事が仕事だからな」
「解っているよ。効率よく、この世界の事を学ぶにしても便利なもんだ」
「まぁ、そうだけど・・・変に魔法を見せないでくれよ。騒ぎになったら面倒だ」
「そうか・・・魔法の無い世界だからな。大した魔法は使えないが・・・普通の人間が見たら、驚くか」
「驚くだけじゃないよ。有名人になって、魔法の秘密を解き明かすために実験動物にされるぞ」
「じ、実験動物だと?」
アリスは真っ青になる。隆は冗談で言ったつもりだったが、アリスの動揺っぷりに少し驚く。
「どうしたの?」
「いや・・・確かに、この世界に無い力を調べたいと思うのが別世界の人間であっても同じだと思ってな・・・」
どうやら、千年に及ぶ彼女の経験が彼女自身に恐怖を与えているようだ。どんな実験をやったかは想像に難くないが、隆は敢えて、言おうとはしなかった。
「とにかく、魔法は厳禁な。普通の人として、行動してくれ。それでなくてもアリスは目立つと思うし」
「そうか?」
「あぁ、ここは俺みたいな黒髪で肌の色も濃いのが普通だからな。アリスの場合は別の国の人種っぽい感じだから、目立つと思うよ」
「そうか。人種が違うのか。・・・私の世界でも同じ人間でありながら、肌の色の濃さなどが違う者が居たよ」
「そんな感じだ」
「私は最初、見た時はドワーフだと思っていたがね」
「失礼な奴だな」
「ははは。同じ場所に居る者は大抵、似たような雰囲気になるからな。別の場所から来た者が変わった風貌をしていれば、人間と思われなかったのもあちらの世界ではよくある事だった」
「人ですら思われなくなるって・・・ひでぇな」
隆は苦笑するしかなかった。
翌朝、アリスを連れて、隆は登校をした。
無論、金髪碧眼の美少女を連れて歩けば、学校中の噂になるのは当然だった。
「目立たずに生活がしたかったのだが」
隆は入学して以来、然程、目立つ存在では無かった。だが、アリスを職員室まで連れて行く間に、噂になり、彼だけが先に教室に来た時にはクラスメイト達が一斉に集まって来た。これまで話した事の無いような女子まで興味津々で隆に質問をする。
彼等にはとりあえず、父親の知り合いで暫く、日本に留学するとだけ伝えた。無論、一緒に住んでいるなんて言わない。
嵐のような時が過ぎて、ホームルームの時間がやって来た。
教室に担任が入ってきて、その後にアリスが入って来た。その時点でクラスのテンションは最高潮となり、盛り上がる。それを担任が「静かに」と黙らせる。
「あぁ、今日から留学生がクラスメイトになるからな。自己紹介をしてくれ」
担任に言われて、アリスが黒板にチョークで名前を書き始めた。かなり練習をしたとは言え、まだ、馴染みないカタカナで彼女は自分の名前を大きく書いた。かなり歪んだ文字だが、相手が外国人ならば、当然と言わんばかりのテンションで皆が「かわいい」とか「上手」とか言っている。
「グランドゥエル=アリステリアスです。よろしくお願いします」
そう挨拶すると彼女は深々とお辞儀をした。それでまた、クラスのテンションは最高潮になる。
「はいはい。グランドゥエルさんの席は一番、後に用意したから」
アリスの席はすでにどこからか持ち込まれたのがポツリと最後列にあった。
「はい」
アリスはスタスタと座席の間を抜けて、席に座る。
クラスの注目は浴びているが、隆は特にトラブルが無くて助かったと胸を撫で下ろす。
「まぁ、仲良くやれよ。じゃあ、出席を取る」
担任はいつも通り、出席を取り始めた。
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