第8話 魔法少女は父と会う
アリスは笑みを浮かべながら、隆に話し掛ける。
「隆よ。実はな。見て欲しい物があるのだ」
そう言って、彼女は何かの紙を隆に見せた。
「留学生受け入れ許可?」
隆は紙をじっくりと読んだ。
「えっ・・・」
そして言葉を失った。
「どうだ。私もこれで学校に通えるぞ」
アリスは笑顔で隆に言う。
「い、いったい・・・どうやって?」
隆は驚きの余り、ギクシャクした動きで尋ねる。
「ふむ。今日、お前の後をつけて、学校とやらに行ってみた」
「行ってみたって・・・えっえっえ」
焦る隆。
「そこで、校長に会ってな。話をしたら、留学生として扱ってくれるらしい。学費さえ払えばいいらしいが」
「学費?」
「ふむ。転入試験ってのは合格したから、あとはこの書類を提出して、学費を納めれば良いらしい」
隆は書類を見た。
「保護者の欄とかあるけど・・・どうするの?」
「お前でいいだろ?」
「いやいや・・・そんなわけにいかないよ」
「なぜ?」
「僕自身が、未成年で親の保護にあるからだよ」
「な、なるほど・・・そうか。確かに同じ学校の生徒と言う身分では私の保護者にはなれぬか・・・どうすれば・・・」
「学費の問題もあるしなぁ・・・親父に相談するしかないか」
隆はそう呟く。
「オヤジ・・・お前の父上か・・・ふむ。こうして、世話になっているからな。挨拶もしたい。ぜひ、会いたいな」
「会いたいと言っても・・・イギリスなんだよ」
「イギリス・・・確か、かなり遠い場所だったな」
アリスは世界地図を眺める。
「あぁ、簡単には帰ってこれないけど・・・テレビ電話があるからね。いつでも話せるけど・・・」
「では、それで紹介して貰えないか?」
アリスの頼みに隆は考え込む。
「まぁ・・・こうなったら、全てを打ち明けるしかないか」
隆も覚悟を決めたようで、パソコンを起動させた。
「このパソコンの中に遠隔で会話が出来るアプリが入っているよ」
「そもそも・・・パソコンって何だ?」
アリスは不思議そうにパソコンを眺めている。
「コンピューター・・・でも解らないか。計算機だよ。かなり高度になっているけど」
「計算機・・・これが・・・」
「まぁ、計算機なんだけど、それを活かして、文章を書いたり、情報を集めたりするんだ」
「へぇ・・・」
アリスは不思議そうにパソコンを眺めている。その間に隆はテレビ電話の接続を終えた。
パソコンの画面に1人の男が姿を見せる。
ロマンスグレイの髪を整えた中年男性。彼は鋭い眼光を眼鏡の奥で光らせ、ディスプレイを凝視しているのか、微動だにしない。
「あぁ、親父。今の時間は良かった?」
隆がそう尋ねると、彼はコクリと頷き。
「あぁ、問題はない。今日は突然、何だ?」
「実は相談したい事があって」
「相談?」
父親はやや、目を細める。
「実は・・・とても信じて貰えるかどうか解らないけど・・・異世界から女の子がうちにやって来た」
隆がそう告げた時、まるで時間が停止したように凍り付いた。
「あの・・・冗談じゃなくて・・・本当に魔法で女の子が異世界から来たんだ。こ、この子がその子」
隆は慌てて、アリスをカメラに写るように寄せる。
「こ、これで私の姿が映っているのか?」
アリスは勝手が解らずにオドオドしている。
その間に画面に映り込んだアリスの姿を見た父親は無表情にディスプレイを凝視しているようだった。
「ふむ。私の名前はグランドゥエル=アリステリアスだ。お前が隆の父上だろうか?」
不遜な態度で現れた金髪碧眼少女に父親はあまり動じる様子も無く、答える。
「あぁ、そうだ。私は武藤巧。外交官をしていてね。君は異世界から来たと言うが・・・もう少し、しっかりとした説明を願えるかな?」
「ふむ。解った。説明をしよう。私の国・・・この世界とは違う世界にある国だが、ファーレンゾフィー王国において、私は千年に及ぶ時間、魔法の研究に没頭していた。その中において、世界は世界樹によって、いくつかの別世界があり、それらは強固な壁によって、隔てられていると考えたのだ」
隆は聞いていて、あまりにファンタジーな内容に、生真面目な父親がどこかで怒り出さないかと不安だった。
「ほぉ・・・世界の壁・・・」
父親は冷静に気切っている様子だった。
「私は様々な研究から、その壁に穴を開く魔法を考えついたのだ」
「ほぉ・・・なるほど、SF的だな」
「SFって何だ?」
父親の呟きにアリスは隆に尋ねる。だが、隆は困惑した。
「すまん。余計な事を言った。続けてくれ」
父親はそれを察し、アリスに話を続けるように勧めた。
「ふむ。多くの魔力と魔法陣、儀式、供物等を投じて、私の理論の正しさを示す為の実験を行った。結果的に成功をしたようだ。ただし、予想外だったのは異世界の壁が開いたと同時に自分自身がそこに吸い込まれ、別世界へと放り出されたことだ。さすがにこのような結果は想像をしていなかった。段取りとしては開いた世界の壁を客観的に観察するだけだったのだがな」
「つまり・・・予想外に別世界へと放り出されたと?」
「そうなる」
「では・・・同じ儀式をすれば、帰れるわけですか?」
「残念ながら、この世界には魔法に必要な力が圧倒的に足りない事が解った」
「足りない・・・つまり、同じことが出来ないと?」
「そうなる。だから、隆に暫くの間、厄介になる事を了承して貰った」
「ふむ・・・まぁ、何も知らない少女を放り出すなんて出来ないからな。特に息子は・・・」
巧は考え込むように右手の指を顎に当てる。
「うむ。色々と学んで、こちらで生活が出来るようになれば、出て行くつもりだが、さすがに現状では・・・難しくてな。そこで、隆の通う学校に通う事が出来るのだが、それには保護者と学費が必要となり・・・すまんが・・・その用意が私には出来ないのだ」
アリスはそこで申し訳なさそうにしている。
「なるほど・・・正直、色々と頭の中で整理がつかない事も多いが、女に耐性の無い息子があなたみたいな美しい少女を連れ込むなんて事はあり得ないと思うし、保護者と学費については直接、こちらから学校に問い合わせれば確認が出来る事であるから・・・まぁ、その程度の事は私も了承しましょう。あと、学校に通う間、我が家で生活する事も含めてね。隆には生活費を毎月、振り込んでいるが、その額も僅かだが、増やします。まぁ、安心して生活してください」
アリスはそれを聞いて、とても感謝したのか、深々と頭を下げている。そのアリスに代わって、隆がカメラの前に座る。
「親父。それはそうと、彼女には戸籍とか当然ながら、無いんだ。これだと病気したりした時に不安なんだけど・・・」
「なるほど、当然だな。解った。その辺は私の方で考えておく、一週間程度、時間をくれ。幸いにも彼女は見た目からして、外国人だ。何とかするよ。それと、隆・・・俺はある意味で嬉しいぞ」
「なんだよ・・・急に・・・」
「お前は持っているヤツだという事だ」
巧は今まで見た事の無い笑顔を見せた。それを隆は気持ち悪く感じる。
「ははは。さすがだな。うん。このチャンスを逃すなよ!少年!はははは」
そう言って、巧は接続を切断した。隆は彼が何を言いたかったのか解らなかった。だが、とりあえず、問題の多くはクリアされるようなので安堵した。
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