第7話 魔法少女、学校に来る。

 日曜日が過ぎ、翌日は月曜日である。

 私立高校の一年生である隆は制服に着替え、登校の準備をしていた。

 朝食を終えて、アリスは隆の様子を伺っている。

 「アリス。これから学校に行って来るから、夕方まで帰ってこれないけど、大丈夫?」

 「んっ?子ども扱いするでない。こうして、お小遣いも貰ったし、買い物の仕方も覚えた。ちょっとそこに買い物に行くぐらいは問題はない。ただ・・・」

 アリスの言葉が途切れた事に隆は気付く。

 「なにか?」

 「ふむ。お前の通う学校とは、何を教えているのだ?」

 「あぁ・・・何をって・・・普通科だからなぁ。色々な事だよ」

 「色々・・・とは?」

 「んー。そうだな。数学とか化学とか、国語、古典、英語かなぁ」

 「様々な学問を教えてくれるのか?」

 「あぁ、この国には最低限の教育として小学校から中学校まであって、高校はそれを更に発展した感じ。その上に大学や大学院があるんだ」

 「この世界はそんなにも教育が充実しているのか?」

 「アリスの世界の学校って・・・」

 「ふむ。学校に通うのは貴族か商売人ぐらいだ。農民やただの平民は文字も書けないのが普通だ。最高学府とすれば、我が設立した魔法学校かな。ここでは魔法の研究も含めて、行っている」

 「なるほど・・・まぁ、君達の世界では学校はあまり重要じゃないかもしれないけど、この世界じゃ、学歴が全てを左右したりすぐらいに大事だからね」

 「魔法が無いからな・・・なるほど・・・興味があるな」

 「興味って・・・戸籍も無かったら、通えないよ」

 「むぅ・・・だが、面白そうだ」

 「はははっ、面白いかどうかは解らないけど・・・とりあえず、日本語の文章とこの世界の知識を覚える事をしっかりやらないとね」

 「解っている。勉強は面白いからな。だが、学校か・・・」

 アリスの物欲しそうな顔を見てから、隆はいそいそと玄関から出て行った。

 

 隆の学校は徒歩で15分程度の場所にある。

 進学校ではあるが、自由な校風と家から近いという事で選んだ。

 一時、家族と共に英国という事も議論に上がったが、大学進学などを考えると、高校三年間は大切だと考え、1人、日本に残る事になった。

 登校すると、友達の又吉が挨拶をしてくれる。

 まだ、学校が始まって2カ月も経っていないので、それほど、仲の良い友達が居るというわけじゃないが、彼とは席が近いせいもあって、初日から仲が良くなった。

 「よう、武藤。何だか疲れてるなぁ」

 「そう見えるか?」

 「あぁ、いつも疲れているけど、今日はまるで、絶望の淵を経験したようだ」

 「絶望はしてないけど、色々とあってね。疲れたよ。学校に来て、ようやく落ち着ける」

 「学校が落ち着けるって、お前、1人暮らしだろ?」

 「ひとり・・・あぁ、まぁな」

 そんな会話をしていると、学校の先生が入って来た。

 全員が起立して、挨拶をする。

 「ホームルームを始める。まずは出席を確認するぞ」

 いつも通りの朝が始まる。

 隆は週末に起きた事を一時、忘れる為に、授業に集中した。


 「ふむ・・・こっそりと後をついて来たが・・・ここが学校か」

 アリスは隆の通う高校の中に忍び込んでいた。

 「この素材・・・石では無いのか・・・とても頑丈だ。この間、行ったデパートと言い、城並に大きいのに・・・凄い技術だな」

 アリスは校舎の中を見て、驚いていた。彼女の世界ではこんな大きな建物は城ぐらいしかなく、それも全ては石や煉瓦によって、作られている。

 「しかも数百人の生徒を同時に教育するとは・・・凄い仕組みだ。この世界はなにもかも私の常識を超えていく」

 アリスは興味深げに校内を探索していく。

 「あの・・・君・・・」

 突如、アリスの背後から声が掛けられた。

 「なんじゃ?」

 アリスは悪びれる様子も無く、振り返る。そこには一人の老紳士が立っていた。

 「君、ここの学校の生徒じゃないね?」

 「生徒・・・そうだ。私は武藤隆の関係者だ」

 「武藤・・・一年生でそんな名前の生徒が居たが・・・妹さんかね?」

 「いや・・・関係者だ」

 その答えに老紳士は少し、頭を捻る。

 「すまんが、見たところ・・・外国の方のようだが?」

 「あぁ・・・こことは違う世界から来た」

 「おもしろい言い回しだね。日本語はまだ、習いたてかね?」

 「勉強中だ」

 「なるほど。それで、今日は何の用かね?」

 「あぁ、この世界の学校に興味があってね。私はこうした場所で学んだ事が無い。出来れば、ここで学びたいと思ってね」

 「ははは。なるほど・・・あなたがどこの国の人か知らないが、異文化への興味の高さは解るよ。まぁ、単位などは与えられないが、留学生として、受け入れても構わないよ。授業料はいただくけどね」

 「本当か?」

 「あぁ、君みたいな外国の人と一緒に学ぶのはうちの生徒にもいい影響を与えるかもしれないからね。校長の私の方から学園の方に提案してあげよう。職員室に来なさい。最低限、編入試験程度は合格して貰わないと、無理だからね」

 アリスは校長と名乗る老紳士の後について、職員室へと向かった。


 隆は学校が終わり、疲れた顔で又吉と一緒に下校する。

 「しかし、武藤は部活に入らないのか?」

 「部活かぁ・・・一人暮らしで色々と家事もしないといけないし・・・それも忙しくなるしな」

 「なんだよ。忙しくなるって?」

 「あぁ、別に意味はないよ。どっちにしても部活は無理だ」

 「そうか」

 「お前こそ、なんで帰宅部なんだよ?」

 「俺はやりたい部活が無いだけだ。あそこにあるのは当たり前のような退屈な部活ばかりだからな」

 「退屈な部活って・・・お前がやりたい部活って何だよ?」

 「そうだな。宇宙人とか超能力とか・・・魔法とかだな」

 「魔法か・・・」

 「魔法に喰い付くか・・・魔法少女物のアニメは良いだろ?」

 「見た事がないよ」

 「まさか・・・お前・・・」

 「何が言いたいのか知らんが、魔法少女物のアニメはあまり見ないよ」

 そう言われて、又吉はそっぽを向く。

 「まぁ、魔法なんて・・・無いと思うぞ」

 「当たり前だよ。本当に魔法少女が居たら、俺は悶え死ぬからな」

 又吉がそう言った瞬間、隆は心の中で死んでくれと呟いた。

 

 「おかえり」

 二人が隆の家の前に到着した時、門の前にアリスが立っていた。それを見た又吉は驚きのあまり、固まった。

 「あっ・・・、親父の知り合いで・・・外国から来ているんだ」

 隆は何とか誤魔化そうとした。

 「お、おまえ・・・こんな美少女外国人と・・・くそっ・・・裏切者!」

 又吉は涙ぐみながら、駆け出した。

 「なんじゃ・・・あいつは?」

 「友達だよ。気にしないでくれ」

 アリスは遠ざかる又吉を眺めながら、納得する。

 「勉強は進んだかい?」

 隆がそうアリスに尋ねると、彼女はニタリと笑った。

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