第5話 停滞からの脱却
肝心の日本に戻ろう。ジレンマ、暗礁に乗り上げた日本を見て来た。そこにこのコロナ禍である。何とかやれているうちに、何とかしたいと思うのは人情である。「何をなすべきか?」
見つけた、P.F.ドラッカー*の著書にこんな箇所があった。企業、大学、病院、政府のいずれであれ、再建に必要なものとして、その第一に「機能していないもの、有益性や貢献能力を失ったものを破棄することである。」と書かれていた。次を探す前に、まず止めることである。そうしたら次が見えてくると云うのだ。
それなら、まず一番に「原発」を挙げたい。破綻したエネルギー政策に垂れ流す巨費!失われて帰れない故郷。あの事故の時、 東京湾と大阪湾に原発がない理由がはっきりと分かった。都会の繁栄は地方に押し付けてある。それが福島であった。
原発事故の時の首都難民、計画停電の東京の混乱は記憶にまだ新しい。今回のコロナは、半分は首都東京の問題であった。東京はもはや限界に来ている。一極集中社会から分散型社会に、コロナが何より伝えていることだ。地方創生はこうした軸の中で語られねばならない。中央からこぼれる僅かを頼りの地方創生、そんなもので地方に活力が生まれるはずがない。地方の活力が日本の活力を生むような逆転の発想が必要である。私は地方に大胆に権限を委譲した人口1千万人単位の道州制を言っているのだ。地方自治体ではない、州政府である。東北大震災・原発事故のとき、県という存在が中途半端に思えて仕方がなかった。今回のコロナ禍でも広域行政の必要を強く感じた。
本当に今なすべきこと、第二はこうであった。「機能するもの、成果を生み出すもの、組織の能力を高めるものを行うこと」組織改編、まず、日本地図を塗り替えることから始める!道州制がピッタリだと思った。今回のコロナ禍で中央政府の機能不全ははっきりした。そうでなければ「失われた20年、30年」なんてあり得ない。
世界の「一人当たりGDPランキング」を見た。ベスト5では、ルクセンブルク、スイス、マカオ、ノルウエー、アイルランドの順である。9位アメリカ、11位オーストラリアを除ければ、スエーデン、オランダ、15位まではみな小国*ばかりである。
通貨と情報がグローバル化したことにより、きわめて小さな経済単位でも、経済的には存在できるようになった。最近30年における真の成功物語は、小国の物語である。
政治がすることは、成長戦略の小皿メニュー*の提示ではない。それは20年、30年やって来たことではないか。大皿に盛られた食べ応えのあるメニュー、日本を大胆にデザインしなさい!である。
私は婦人服飾の仕事に携わったのだが、真に革新的なデザイナーを二人挙げろと云われれば、シャネルと川久保玲*を挙げたい。シャネルはあのコルセットから女性の身体を解放した。考えても欲しい、毎日、毎日のことである。サラリーマンが満員電車の通勤から解放される、それ以上な事かも知れない。
川久保玲は構築的な洋服、服の中に身体を入れる発想でなく、和からくる身体に巻着付け、纏わせる発想をデザインで提示し、その新鮮さで欧米のファッション界から高い評価を得た。その川久保玲の書いた『空気をデザインする』という文章にこんな箇所があった。
《空気をデザインするというのは、形になっていないものにもデザイン性があるということです。いろいろなものが影響しあって、重なりあって、アクシデントがあって、そこから生まれる何かなんですね。それほどデザインは幅が広くて大きいものだと思いますし、それだけに人に与える影響力もあるんです。でも、形になっていないものは、往々にして、わかりにくい、価値がないと、みなされます。ですから、何か新しいことを探すのであれば、そういう見えないことに対して、価値を認めるというようなことが実行されないと、新しいものが作れる・・日本にならないですね》
「いまの日本に必要なことだとは思いませんか?」とその外国人青年は言った。
「この人は服のことを語っているのだが、服を日本に置きかえたら、意味の深い言葉だ」と田村は思った。頼んで書き写させて貰った。後で考えて見ようと思った。
この個所は私が書いた『切り取られた日付の町』*という原発をテーマにした下手な小説で書き加えたものである。
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