第4話 コロナ禍の中の指導者

 今回のコロナ禍は、その国の指導者の資質を含め、色んな問題を炙りだした。

EUはたちまちにしてあのシェンゲン協定の理想が逆戻りする事態になった。幸いドイツを中心にして何とか持ち堪えている。そんな中でドイツ・メルケル首相の国民に向けたメッセージは人々の胸を打った。「...事態は深刻です。皆さんも深刻に捉えていただきたい」と述べた後、自身の東ドイツ体験を語りながら、政府がこれから課す厳しい日常生活における制約に対して、国民の理解と結束を呼びかけた。

一方、アメリカのトランプ大統領は、一早く武漢に飛行機を飛ばし、遠慮なく中国を遮断したのはいいが、欧州からの裏口は開いたままだった。それなのに「暖かくなる4月にはウイルスは消滅している、アメリカは大丈夫」と終始一貫、楽観的見解を述べ、感染拡大につなげてしまった。

 中国に次ぐ成長率を誇っていたインド、モディ首相は3月、まだ症例数が519例、死者数が10人だった時点で、全土のロックダウン(都市封鎖)に踏み切った。世界最大規模のロックダウンであった。この突然のロックダウンは、都市部での出稼ぎ労働者の職を奪い、故郷に帰る人々の混乱した様子をメディアは伝えていた。この混乱はその後の感染拡大に繋がってしまい、成長に取り残された貧困の問題がその感染者数となってクローズアップされた。

南米で初めてのオリンピックを開催したブラジル、ボルソナーロ大統領は「コロナは風邪みたいなもの」と嘯いて経済活動を優先した。これら3国の対応の結果は感染者数・死亡者数となって現れた。アメリカの死者数は20万人を越し、ブラジルは14万人、インド10万人と続く(2020年10月時点、現在進行形である)。

 我が国では、先進国の中では圧倒的に少ない感染者数・死亡者数でありながら、首相のコロナ対策に対す国民の評価は低いものであった。陳腐なマスク配布の件もあったが、一番は遅々として進まないPCR検査にあった。厚労省のPCR検査に対する姿勢は、最大の抵抗勢力とすら私の目には映った。官僚に忖度をさせられても、危機の時に使いこなせない姿がそこにはあった。


 今回のコロナはその国の最も弱いところを突いて来た。世界にコロナをばら撒いてしまった結果になった中国は、その隠蔽・強権体質の在り方が問題とされる。

白猫黒猫論「黒い猫でも白い猫でも、鼠を捕るのが良い猫だ」とか、分かり易い例え話で核心をついた鄧小平、天安門がなければ最高に評価したい政治家の一人で、日本に来たときは目が放せなかった。天安門事件で「食べる方が先だ」と政治改革を切って捨てた。その鄧小平と今、会話が出来るなら、16歳の少女が並み居る指導者に物言う姿と、喘ぎながらもコロナ感染の危機を訴えた李文亮医師の携帯映像を比べて見せて、口の役割は「食べる口と物言う口」と云ってみたい。褒めてくれるだろうか。

「コロナを制圧した」と、その強権体質をさらに強め、覇権主義に走る習近平中国への世界の反発は、トランプのアメリカは例外としても相当なものである。今こそ鄧小平の外交遺訓とされる28文字を思い出す時である。「冷静観察、穏住陣脚(足下を固め)、沈着応付、韜光養晦(とうこうようかい・才能を隠して、内に力を蓄える)、善于守拙(劣勢時に利口なまねをしない)、決不当頭(決して先頭に立たず)、有所作為(為すべきを為して業績を上げる)」。やはり中々なものである。


 アメリカのコロナ禍の惨状は、強いアメリカの裏側を意味し、医療格差・人種格差・経済格差の問題は一体の問題であることを浮き彫りにした。20万人の死をトランプのチャイナ叩きで逃げてはいけない。

英国は国民投票でEU離脱を決めたが、開票結果の中身は、20代、30代では残留であった。EU市民感覚を持った若い層が育っていたのである。早まった選択は禍根を残す。

 ポピュリズム保守の復活や難民問題による分断が云われているが、歴史の積み重ねはそれらより強いと思う。新しい在り方、グローバルに対するリージョナル(地域主義)。EUには希望を繋げたい。


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