第3話 日本のGDPの停滞

 では日本の今はどうなんだろうか?成長が止まっているのに、他から見れば、日本は一応の豊かさを保っているように見える。

 GDPは国内総生産と訳され、国外での経済活動はカウントされない。私も驚いたのだが、製造業の海外生産比率は今や4割近くにならんとしている。海外での直接投資(海外子会社)や証券投資は配当となって、国際収支(経常収支勘定)の所得収支の項目に入る。2019年の日本の経常収支は20兆597億円の黒字(ドイツ30兆に次いで2位、3位は中国)であった。日本は貿易立国と思われがちだが、今はこの所得収支が黒字のほとんどを占める。日本は1981年以来国際収支の黒字が続いている。GDPが伸び悩んでも、なんとかやれている理由がこれである。

 この収入が国内投資に回れば問題ないのだが、国内での成長戦略とやらは、見たように、メニューの羅列だけで終わってしまっている。国内に成長機会を見出せない企業は、雇用に繋がるような投資もしない。グローバル化した今、不確定要素が増しているとして、企業はほとんどを内部留保に回し、賃上げもしない。


 GDPの支出面から見た式は「民需+政府支出(主に公共投資)+貿易収支」で表される。貿易収支はプラマイゼロ、政府財政は硬直化している。いきおい民需頼みとなる。民需は企業の投資と家計消費である。賃金が上がらない中で家計消費が増える訳がない。GDPが停滞するわけである。そして財政再建のためと消費増税がなされる。その度に経済成長はマイナスを記録する。消費税を上げて、GDPを落とす。何故か大きな無駄をやっているように私には思えるのだが…。

 それなら、せめて内部留保に回ってしまうこの海外からの所得収入を財政再建に役立てる方法はないのかと考えてしまう。企業の益金であるから、かつては法人税(23%)の対象であったが、平成21年に「受け取り配当金不算入制度」が出来て、頭から95%は対象にならないようになった。以前なら4.6兆円程の税収になるところを、5%の1兆円に×23%の税で済まされているのである。一般庶民に負担を強いて、大企業には甘い。そして政権は云う「経済成長無くして、財政再建はなし」と…。


 日本は今や世界でも珍しい「低欲望社会」であると言う見解がある。老後や何かあったときに備えてお金を使わなくなっている。年金をはじめとする、政府の社会保障制度が信用できないという証拠でもある。ちなみに日本人の貯金額が最高になるのは死ぬときで、その平均額は3500万円だという話がある(あるところにはあるのだ)。オレオレ詐欺が流行るわけだ。

 個人も貯める、企業も貯める。お金がないわけではない。全てが後ろ向きなのである。異次元金融緩和、経済評論家はこれをヘリコプターマネーと称したが、そんな中でお金をばら撒いても、行き場の無いお金は株式市場に行くしかない。コロナ禍の中でも株価だけが躍っている。コロナ禍の今こそヘリコプターからばら撒いて欲しいのだが…。


バブル崩壊後、日本がその停滞から抜け出すチャンスが一度あった。あの3.11、大震災とそれに続く原発発事故の時である。国民一人一人が日本のあり様を真剣に考えた。居酒屋に行っても、みなが何か語りそうにしていて、実際知らない同志の熱い議論の輪が出来ていた。この様な熱い日本を久しく見たことがなかった。議論の輪に入らなかった人たちは、素通り出来ず、駅前の義援金募集に何回も財布を開いていた。

オイルショックをチャンスに変えたように、何故、あのとき「脱原発」を決断出来なかったのだろう。決めたのはメルケルのドイツであった。今では自然再生エネルギーのコストは化石燃料並みになって、脱炭素・環境立国として世界の最先端を走っている。


 時の民主党政権はあの重大な選択を迫られた中、何を思ったのか、ギリシャの債務危機を挙げて、日本の財政再建、「消費増税」をまな板に乗せた。よく混同され、誤解され、意識してそれが利用されるが、「政府の借金」と「国の借金」とは違うのだ。日本は中国に抜かれたとは云え、世界で2番目の債権国でなかったか!対外純資産(366兆円)や家計の金融資産(1900兆円)で政府の債務は日本国内でファイナンスされている。債務国ギリシャとは全く次元が違うのである。

 それを、財務省にイチコロに騙されたのか、「脱原発」を決めるべきときに選択を誤った。挙句が消費増税を巡って党の分裂、国民から政権を見放されたのも当然であった。あの時なら「脱原発」の国民の合意は文句なく得られたであろう。国の進路を大胆に変更できるチャンスは早々ない。

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