第2話 経済成長というおとぎ話 

 

 その日本であるが、安倍首相は「バイ マイ アベノミクス(アベノミクスは買いだ)!」とウオール街で見栄を切った。その首相も在任期間憲政史上最長を記念に、このコロナ禍の中、アベノマスクで自信を喪失したのか、お疲れが出たのか、病気を理由に退陣した。

(1)大胆な金融政策(2)機動的な財政政策 (3)民間投資を喚起する成長戦略―の「3本の矢」から成るアベノミクス。その評価であるが、「円安・株高が進み緩やかな景気回復が長期に及んだ半面、好業績を上げた大企業の恩恵は家計*に行き届かず、国民は景気回復の実感からは遠かった」。というのが一般的なところだろうか…、だが評価する人でも第3の矢、成長戦略には厳しい意見が多かった。

2%の成長目標を掲げたが、7年間における平均経済成長率は0.9%、目標の半分。あの20年と同じペースで変わりがない。異次元の金融緩和をして、大量の国債を発行して、日銀に買わせ、さらに株まで買わせてこれである。

 成長戦略(国家戦略特区・農産物の輸出・農業所得を10年間で倍増・再生可能エネルギー・地方創生・女性活躍社会・AI―デジタル化、訪日外国人を増やすetc.)と、あらん限りのメニューが並んだ。デジタル化、一番遅れていたのは行政だったと笑い話は別にして、目標達成したのは円安効果での訪日外国人の倍増*位であった。大前研一氏*は「(民間投資を喚起する成長戦略)も掛け声だけでまったく効果が出ていない。地方創生や女性活用*で成功した政策が一つでもあるか」と批判している。地方創生と云えば、ふるさと納税ぐらいしか思い浮かばない。お飾りのような女性大臣二人でもって女性活用の範を示している積りだろうか。


 ノーベル賞経済学者バナジー教授(マサチューセッツ工科大学)は「日本は成長戦略にこだわるな」と言っている。経済が成長しないと言うのではないと断った上で、「経済成長はコントロールできるものではない」と語っている。結果として成長するのであって、目標を設定したから成長するものではないということなのだろう。

 私もそう思っている。日本のあの高度成長は、時代の幸運の贈り物だったと思う。高度成長の要因として次の3つが挙げられる。①戦後、中東の砂漠の下から大量の油田が発見され、日本はその恩恵をどこよりも享受できた(*注釈末尾)②戦後のベビーブーマー新卒世代が大量の労働力として送り出せた(新卒者は既婚者より安い)③アメリカの品質管理*という考えをどこよりも学んで自分のものにした。①、②はまさに時代の幸運以外の何物でもない。


 エネルギーコスト、労働力に恵まれ、品質がよい。日本製品の快進撃が始まったのである。戦後、今の先進諸国が順調に経済成長し得たのは、戦後復興需要と、水より安いとされた石油があったからだとされる。それが証拠に、あの2度のオイルショックで先進諸国の成長率はマイナスに転じ、インフレと高い失業率(スタグフレーション)に長期悩まされることになった。その中から、経済ではケインズ主義を見直し、市場原理を重視し、競争を優先する新自由主義*が登場してきた。英国サッチャー、米国レーガン両政権がこれを採用し、そして折から始まった経済のグローバル化の主流思潮になっていったのである。


 その中でも日本はオイルショックを比較的軽症で乗り切った。むしろこれをチャンスに変えたのである。ガソリン価格が2倍になれば、走行距離を2倍にすればいい!省エネ技術が車でも、生産現場でも花開いたのである。1980年代は安定成長4%台を続け、日本の一人勝ちが続いた。ジャパンアズNO.1である。

 その浮かれタコが自分の足まで齧ってしまったのがあのバブル崩壊であった。時代が呉れた幸せの果実を自ら捨て去ったのである。自業自得、長患いは仕方がないと云える。まず、じっくり基礎体力の回復を図るべきだったのに、景気対策と称するカンフル注射を連発した。長引いたバブルの後始末代と、カンフル注射代が嵩んだのが今の政府債務残高だと考えたらよい。ここまでが、にわか勉強の戦後経済史と云える。

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