31 幕間の狼 Ⅱ 白薔薇

 ――――『白薔薇』



 世界に落日が迫るずっと昔、太陽と月の兄弟神は、生命の樹の下で眠り続ける母神ユリアネスのために、贈り物をしようと話し合いました。


 薔薇を贈ろうと決めたところまでは良かったのですが、何色の薔薇を贈るかで兄弟は喧嘩になりました。


 世にも珍しい青い薔薇を贈ろうと言う月神セシェルに対し、太陽神クリアネルは絶対に枯れない黄金の薔薇にしようと主張しました。


 両者は一歩も退かず、なかなか決まらなかったので、見かねた戦神の提案により、狩りで勝負することになりました。

 しかし、狩猟の女神の夫である月神セシェルが、狩りで負けるはずがありませんでした。


 巨大なイノシシやトラやクマを仕留めた月神セシェルに対し、太陽神クリアネルは小さな仔狐を捕らえました。

 勝敗は誰が見ても月神の圧勝でしたが、太陽神は非常に気位が高く負けず嫌いでした。

 月神よりも大きな獲物を仕留めてみせると宣言したものの、獣たちは太陽神の光を恐れて逃げてしまいます。


 何百度目かの失敗の末、ついに太陽神は降参し、贈り物は青い薔薇に決まったのでした。


 月神セシェルは長い年月を費やして、ついに青い薔薇を咲かせることに成功しました。月神は完成した青い薔薇を木箱に詰めて、兄神クリアネルを誘いユリアネスの眠る神域へとやってきました。


『母なる女神ユリアネスよ。我ら太陽と月の兄弟から贈り物を捧げます』


 ところが木箱から出てきたのは、透き通るような純白の薔薇。

 慌てふためく月神に、太陽神は『狩りの勝敗に納得がいかなかったので、弟神を驚かせようと虹の光で染め直した』と白状したのでした。


 持ち歩く間に光の色が混ざって、真っ白になってしまったのです。

 月神は負けず嫌いな兄神の行いに呆れましたが、白い光を放つ白薔薇がいたく気に入ったので、結局その白薔薇をユリアネスに贈ることに決めたのでした。


 以来、太陽と光の神クリアネルを表す御印は、白薔薇になったと伝えられています。



 ――――『旧クレアノール王国領ローズデイル大公国に伝わる神話より』

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