其の拾
「ん~。やっぱり少しお腹のお肉を減らしてくれるかな?」
「……頑張ります」
全裸に剥かれて全てを計られたレシアは、半泣きのまま頷き返す。
「それにしても前の時よりも胸が育ったわね。……彼に揉まれた?」
「なっ!」
驚愕の言葉に全身を一枚の布で隠そうとしていたレシアの手が止まる。
「結構揉まれたでしょう?」
「……ごにょごにょ」
「あはは。良いわね~。仲良くて。私の所も頑張ってるんだけど、最近は子作りの為にって感じでね」
「……そうなんですか?」
「ええ。まあ夫も後を継いで忙しいのもあるからなかなか出来ないけどね」
自分の腹に手を当てて、ホシュミは少し寂しげに笑う。
もしかしたら夫婦のどちらかがダメなのかもしれないという不安はある。その時は弟のタインの子供でも養子に取るのも良いし、タインが後を継ぐなら手伝いをしていけばいい。
何も自分たち夫婦が全てを背をわなくても良いのだから。
「貴女たちの方はどうなの?」
「ん~」
布で胸から下を隠したレシアはゆっくりと首を傾げていく。
そこそこ? 結構? それなりに頑張っいるはずだ。
ただ言われてレシアは気付いた。
「子供ってどうすれば出来るんですか?」
「……えっ?」
『何を言ってるのこの子は?』的な残念な何かを見る目を向けて来るホシュミに、レシアは慌てた。
「知ってますから! ミキとあれしてこうすれば出来るって知ってます! ただどうしたら出来ると言うか、何をしたら出来たのが分かるかって言うことです!」
「ああそう言う意味ね」
言葉が足らないにもほどがある。
もし本当に知らなかったら、彼の元に行って文句の一つも言おうかとホシュミは思った。
「ほら……周期的に血が出る時があるでしょ?」
「あります」
「で、仲良くしてその血が出なくなったら可能性があるわ。ただたまに遅い時もあるから確実じゃないけど……どう?」
「ん~。ん?」
指折り数えだしたレシアだが、何故か数える度に指の数が変化する。
ちゃんと数えられない子か……とホシュミは何とも言えない生温かな視線を向けた。
それだったら自然に任せてそっとしておくしかない。
懲りずに指を折って数えるレシアは、しばらくして両手を使うことに気づき数えだす。
「……もう100日は止まってます」
ホシュミが荷を解き道具を引っ張り出し始めた頃に、ようやくその声が届けられた。
その事実にホシュミは二通りの驚きを得た。相手が100も数えられたこととその日数だ。
「大丈夫? 本当に間違ってない?」
「間違って無いです。ちゃんと夜のご飯の回数を数えました」
「それはそれで間違ってる気がするけど……もしかして普段から遅かったりする?」
「意識したことが無いから分からないですけど……」
不安げな表情を見せるレシアにホシュミは息を吐いた。
数を間違えていないならその可能性が高い。
仮にお腹に子供が宿っていると言うなら話が変わってしまう。
妊婦に激しい運動は禁物だ。これは彼と急いで話し合わなければいけない。
「はわわ。どうなんですか? ダメですか?」
「違った意味でダメね」
「ダメなんですか~!」
座り込みいじけだすレシアに立ち上がったホシュミは歩み寄った。
「違うの。お腹の中に子供が居るとなると……激しいことが出来ないの」
「ふぇ?」
ポロポロと涙を流すレシアに、ホシュミは笑いかける。
「激しく動くとお腹の子が流れてしまうのよ」
「流れる?」
「ええ。外に出てしまうの。死んでしまうってことね」
「ダメです!」
「ええ。だから問題なのよ」
大問題だ。彼から送られて来た"言葉"には、彼女の踊りが重要だとあった。
それを封じられてしまえばこちらの計画が狂ってしまうだろう。
パタンッ
不意に小屋の戸が開き、そこには一人の老人が居た。
剃っているのかいないのか……禿頭の老人だ。
「案ずるな。そんなこともあろうかと、儂の術で巫女の腹の時を止めている。どんなに動いても問題は無いが……気づいていないとは思わなかったな。カカカ」
パタンッ
また戸が閉まり老人の姿が消えた。
流石あのミキの仲間だとホシュミが安堵する中、ゆら~とレシアが立ち上がった。
「また覗いてましたね! ミキ以外の男の人には見られたくないのにっ!」
不安が解消したからか、レシアは叫び小屋を飛び出して行く。
本当に無駄なまでに元気な少女だとホシュミは再確認した。
「さてと。問題は……どれで服を作るかよね?」
彼女が封印の時に纏う衣装を作る。
それがたぶん自分の役目だと感じホシュミは辺りを見る。
彼女の色である"白"を用いるのは決まっている。ただ普通の布では彼女に似合わない。
「失敗したな。作ることばかり考えて素材のことを考えて無かったわ」
どうしたものかと腕を組み、ホシュミは悩み出した。
『カカカ』と笑い声を響かせ消えた老人の捜索を諦め、レシアは肩を怒らせたまま辺りを見渡す。何か自分に向かい歩いてくる気配を感じたのだ。
何も無かった景色に色が付いて、全裸の少女が倒れ込むように姿を現した。いつもマガミの後ろをついて回っている少女だ。
「どうしたの? 大丈夫」
慌ててレシアは少女を抱き起す。ただ少女から感じる違和感が凄い。
体力はあり余っているのにボロボロに疲れ果てた……そんな不思議な状態に見えるのだ。
「巫女様」
「なに?」
「貴女の知り合いは……無茶苦茶です」
ガクッと燃え尽きて少女が気絶した。
(C) 甲斐八雲
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