其の弐拾壱
「手を貸すと言ったのに手伝いが余り出来なくて申し訳ないな」
「何を言ってるんですかミキさん。屋敷内部の見取り図とか、何よりこの油紙まで用意して貰って」
相手の方が年上ではあるが、アムートはミキに対して敬語を使い敬って来る。
"大人の男"にして貰ったカムートなど、ミキを主だと思い接する始末だ。
「油紙は運良く西からの交易品に混ざっていた物だからな」
「それを知っていて買って来てくれたことが大助かりなんです」
火薬を綺麗に包み突入の準備を済ませたアムートは、念のためにまた持ち物の再確認を始める。
ミキが自分の都合を済ませている間に兄弟の方は着々と準備を進め、後は決行だけとなっていた。
手はず通りに正門を吹き飛ばし使用不可能にして裏門から突入する。
ミキが相手の目を引くように動き、兄弟はこっそりと潜入して復讐を果たす。
レシアはこっそりとシャーマンたちを解き放ってミキと合流する。
そして変更した点は、兄弟にはサーリが供をすることとなった。
自分がやるべきことを見失った少女は、原点である『シャーマンを開放し救う』に立ち戻ったらしい。
本来ならレシアと共に動くべきだが才能の差が足枷となった。ミキの傍には命が危険すぎておけない。結果として兄弟と共に行動するならその歩法も役に立つだろうと言うことになったのだ。
サーリのことはアムートに任せ、ミキは今夜の襲撃まで自由行動を取ることにする。無論隣にレシアが居るが、それが普段通りなので気にもならない。
日が沈み街が寝静までの間、ミキたちは買い物をしたり食事をしたりしながらブラブラとしていた。
「ミキ」
「ん?」
「三人です。付いて来てます」
「そうか。前と同じ相手……とかは流石に分からんか」
街中を歩き回ることでようやく前回の襲撃者たちを釣ることが出来た。
ただミキは、たぶんそうだろうという判断を下すしか出来ない。
「ん~。纏ってる空気は似た感じですね。たぶん同じかな?」
だがミキの予想を上回る返事を隣の天才が言って来るのだ。
一瞬驚きで足を止めかけたが、それでも動かしつつ……達観した様子で相手の肩を抱き寄せた。
「あんっ……ミキ?」
「お前って奴は本当に……」
「何ですか?」
怒られることを警戒したのか、レシアがサッと身構える。
だがミキは軽く相手の耳元に口を寄せると『シャーマンたちを助け出したらどこかで休もう。その時はお前の好きにして良いぞ』とだけ告げた。
ガッと全身を強張らせたレシアが、ギュッと彼に抱き付き甘えて来る。
現金な物だがある意味いつも通りのレシアだ。
「なら……まずはひと狩りするか」
待ち合わせ場所で身を寄せ合い待機する三人に、遅れて来たミキとレシアが合流した。
「済まん。ちょっと野暮用でな」
「そうでしたか。なら少し休みますか?」
「大丈夫だ。問題無い」
ミキとしては問題無いが、顔色を蒼くしているレシアはまだフラフラだ。
彼に付き合って由緒正しい本当の拷問風景を目の当たりにして、色々と精神的に参っているのだ。
ただ彼女の場合は幸せなことがあればすぐにでも復活する。
案の定ミキが耳元で何やら囁くと、不調だったのが嘘のように元気になり軽く準備運動を始めた。
「では……始めるとするか」
連れの様子に呆れながらミキはそう告げた。
その夜、オアシス都市ダンザムの一画で大きな爆発音が響いた。
だがその屋敷に住まう主人は、街に滞在している兵たちが近寄ることを嫌った。
彼の屋敷内には……表に出せないモノが多過ぎたのだ。
1人裏門から悠然と侵入したミキは、面被りの具合を確認しながら十手を抜いた。
明かりを手にして駆け寄って来る者は、とても屋敷の使用人には見えない。誰もが明かりと一緒に武器を手にしているのだ。
「あれではこの屋敷に何かあると言ってるような物だな」
顔を覆う布の下で苦笑し、襲いかかって来る者に対して十手を振る。
足を止めて迎撃に徹するミキに一太刀も向けられずに男たちが次々と地面に転がって行く。
傍若無人……それを体現したかのように彼はその場に君臨した。
建物内を進む三人は、とにかく気づかれないようにするので精いっぱいだった。
隠密行動を主体としていたサーリからすれば、素人でしか兄弟は荷物でしかない。だがそれでも必死に追いついて来る姿を見る限り、二人の思いが真剣で重い物だと理解出来た。
「後はここを抜ければ……」
サーリは気付き足を止める。
通路には見知った顔が居た。それは間違いなくこの屋敷に護衛の一人として雇われた仲間だった。否、仲間だった者なのかもしれない。
今の彼女にはどちらか一つを選ぶことが出来ない。
「……あの人はわたしが引き止めます。二人は奥に」
「良いのか?」
質問をして来たのは弟のカムートだった。
コクッと頷き返し、サーリはその手にナイフを握ると通路に飛び出した。
「エシャン。シャーマンたちを救いに来ました。道を空けなさい」
「……サーリか」
少女に気づいた男が顔を顰めて苦笑する。
「何て馬鹿なことをしてくれたんだ。これじゃ計画が丸つぶれだろう?」
「計画など知りません。私はシャーマンを救うために手を貸して来たんです。だからここの主人の行為は見逃せない」
「……本当に馬鹿だな。そして手の付けられない愚か者だ」
エシャンと呼ばれた男は、腰の剣を抜いて軽く構えた。
(C) 甲斐八雲
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます